第10話 ゆっちゃんと過去編
「お、覚えてないですか?」
ゆっちゃんは俺を不安げに見つめながら言う。
「な、何が?」
いきなり覚えてないですかって言われても……。
何、俺ら運命的な出会いは果たしてんの?
子供の頃の俺、助けちゃったりとかしちゃったりしてる?
「小学生の頃のプールで……」
「小学生……プール…………」
なんとか伝えようとするゆっちゃん。
真剣ということがひしひしと伝わってきたので、俺も真剣に考える。
小学生のプールといえば、友達の哲也が漏らしてその日いっぱい閉鎖になって怒られてたことぐらいしか思い浮かばない。
いや、まてよあのお漏らし閉鎖騒動のとき俺なんかやった気がする。
確かだけど、金髪美幼女と……………。
「って!!!あのロリっ娘かぁ!!!!!!」
そうだ、そういえばあったわ。
俺の一世一代のラブコメイベントが!!!
あれはたしか、暑い夏の日だった。
…………このセリフ、一回は言ってみたいよね☆
◇ ◇ ◇
「や、やめてよ」
小学生で幼い。まさに本物のロリであるゆっちゃんが、顔を手で覆って言った。
「へへ!!弱虫弱虫!!」
「ちーびちーび!!」
「おらおらっ!!!」
ゆっちゃんの前に3人並んで立つ同じく小学生くらいの男の子たちは、手に持った水鉄砲でゆっちゃんを打ち続けていた。
「やめて……お願い」
全身水だらけになって、なすすべもなく地面に座り込んだゆっちゃん。
「やーいやーい!!」
「打ち放題だ!!!」
「おらおらっ!!」
男の子たちは更に勢いをまして、ゆっちゃんを打ってゆく。
さあ、このゆっちゃんのピンチに、主人公ことロリコンことじんくんは、駆けつけ……
「ぐへへへ」
…………なかった。
「けしからんですのぉ」
彼はゆっちゃん達から少し離れた温水プールに、肩まで使って頭だけ出しながら、そんなとろけた声を出す。
「金髪の女のコが、みんなにいじめられて………ぐふっ……けしからんのぉ……」
…………こいつ、ホントどうしようもないクズである。
そこで普通のラブコメ主人公なら、颯爽と助けに行くものだが、彼はゆっちゃんを見つめながらニヤニヤの擬音を周囲に垂れ流していた。
「やーい、反撃してこーい!!」
「ははは!!カースカース!!」
「おらおらおらっ!!」
その間もずっと攻撃の手を止めない男の子たち。
「ら、らめぇ」
幼いゆっちゃんはとうとう泣き出してしまった。
けど、小学生だし、泣き始めたら流石に男の子たちも止まるかと思われたが。
「やーいやーい!!!」
「へへっ!!泣き虫泣き虫!!」
「おらおらおらっ!!!」
彼女に当てることは止めたが、打ち続けることは止めず。ゆっちゃんの周りに水を撒き散らしている。
「おいお前ら!!!!」
ここで、ようやく主人公のお出ましだ。
じんくんは遅れたものの、しっかりラブコメ主人公らしく整った姿で髪なんかかきあげちゃったりして、颯爽と走って……………来ないんですねこれが。
「いでっ!!」
勢いよく温水プールから飛び出した彼は、その勢いのまま地面を走り、そしてコケた。
そう。コケたのだ。本当にキレイに。お手本かのように。
スパーンという効果音が世界一似合うと言っても、過言ではないほどの滑りっぷり。
羽生ゆずらないもびっくりの滑りだ。
「な、なんだよ!!」
「文句あんのか!!!?」
「おらおらおらっ!!!」
コケるじんを見ながら、少し引き気味に男の子たちが威嚇する。
「おぉいってぇ……マジ死んだかと思った。あれ、俺なんで飛び出したんだ?ああそうか、ロリっ娘をぐへへむふふ………守るためだな。うん、そうだ。邪な気持ちはないに決まってる。ナッシングピーポーマックスだ。なんだよ、ナッシングピーポーマックスって。」
膝を払って立ち上がりながら、そんな猛烈な独り言をぶちかますじん。
「は、はぁ?」
「コイツなんなんだ?」
「おらおらっ?」
その質度に、男の子たちも疑問顔だ。
だが、そんなこと我らがロリコンピーポーマックスが気にするはずもなく。
「よいしょっと!!!!とりゃぁ!!!」
彼はそんな叫び声とともに、懲りなくまた飛び跳ねて、
「くらえ!!!食い込みサンダァー!!」
謎の必殺技を繰り出した。
説明しよう!!
食い込みサンダァー!!とは、履いている水泳パンツをたくし上げて人工的に食い込ませ、まるで力士かのような姿になることである。
これを受けた敵はその場からどんどん離れていく。好感度と友達を消費する代わりに使うことのできる技だ!!!
「き、きもぉぉぉぉ!!!」
「へ、変態!!近寄るなぁ!!!!」
「おらおらおらっ!!!!!!」
当然、そんなものを見せつけられれば。小学生男子なんて、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
だって、キモいもの。変態だもの。圧倒的不審者だもの。
「ひっでぇやつら。俺の尻けっこうキレイなのに。ほら、こんないい音するし。」
ペチペチと自分の尻を叩いて、じんは水泳パンツを元に戻す。
「あ、そうだ。これ、サウナのお姉さんたちの前でやったらウケるかな?」
さっきまでは若干。ほんの少しだけラブコメ主人公感が…………あっ………なかったが。引き続き彼は、高感度最低を更新し続けるような言動を続ける。
しかし。主人公がおかしいのなら、ヒロインもまたおかしいもので……。
「あ、ありがとう」
結果的に変態に助けられた形になったゆっちゃんは、その場に座って頬を染めながらそうつぶやいた。
…………どこにラブコメ要素があるのか。どこに惚れる要素があるのか。それは、語り手にも筆者にも、多分皆様にもわからない。
「おうよ!!!」
もうすでにサウナに向けて走り出していたじんは、そう叫んで元気にサムズアップすると、そのまま去っていった。
「ありがとう……」
姿が見えなくなった彼に向けてもう一度、更に頬を赤くしてつぶやくゆっちゃん。
…………マジ、これは大丈夫なのか。語り手としてとても心配になってきた。
がともかく、じんとゆっちゃんはこんな運命的かつ変態的な出会いを果たしていたのだった。
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