第2話 最低の連続

「はぁ」


学校の屋上から部活の行われているグラウンドを見下ろしている一人の少年がいた。

そいつは誰だ!!誰なんだ!!誰なんだァァァァ!!!


それはこの俺、田山仁たやまじんだ!!!!!


デレデンッ!!


…………という感じで、お話が終わったのならどんなに良いことだろう。


「はぁぁ」


さらに大きくため息を吐く。

辛気臭ぇと思うかもしれないが、これにはれっきとした理由がある。


親のせめて国立大という声で受けた、地方大の模試はE判定を頂戴した。


うん、これだけならまだいい。

全然ありだ、ヨーウェルカムだ。


さらにその日の放課後、落ち込みながらも気持ちを切り替えようと向かった部活で、レギュラーから外すことを伝えられる。


うん、これもまだいい。俺の練習が足りなかっただけだ。


交換でレギュラーになったのは一年の後輩だった。


…………うん、これもまだまだ許容範囲。俺の代わりに淵川ふちかわくんには頑張って欲しい。


更に落ち込む中、もう女に逃げるしかないと高校に入ってから5人目の女子に告白した。


今思えば、この頃にはもう俺の精神は病み始めていた。


『付き合ってください!!』


そう言って伸ばした手は、温もりを感じることなく宙に浮いたまま。


結果を言おう、惨敗だ。

笹木さんに一瞬で振られた。

溜めもなく『えっ、ムリだけど?』と、何故か疑問形で振られた。


…………………うん。

まぁまぁまだいける…………いけるよな?


振られた理由は『えっ、なんか物理的にムリ。』


…………うん。流石にこれは泣いてもいいよね?


物理的にってなんだよ!!!

生理的にならまだ百歩譲って大号泣ですむけど、物理的にってなんだよ!!!!


俺とお前との間にナイル川でも通ってんのかよ、笹木ぃ!!!

その川、利根川に変えてやろうか、あぁん!!?


…………お見苦しい姿をお見せしました。まだいけます、いかせてください。


俺は更に更に落ち込んで、でも何とか前を向きながら歩いていた。


向かう先はわからない。ただ、北へ行きたかった。


その時いたところから北には丁度下駄箱があったから、俺はもう帰ろうかと思い、靴を履こうとしたんだ。


そしたら………そしたらな、聞こえてきたんだよ。


『田山って、なんかダサくない?あーし、物理的に無理なんだけど。』


という、うちのクラスのギャルの中本の声が。

ちなみにこいつのあだ名はギャル本だ!!


『そ、そうか………。』


ギャル本に続いて、そんな声も聞こえてきた。


『っ!!!!』


俺は思わず息を呑んでしまった。かなりの量飲んでしまった。

どれくらいかというと、つばだけで自給自足で生きていけるかと思うくらいの量だ。

…………分かりやすいだろ?


そんなことは良くて、問題はその声の主だ。


『あ、赤城……。』


俺は下駄箱から顔を少しだけのぞかせて、声のする方を見た。


悪い予感は的中する。

ギャル本と話していたのは、俺の幼稚園からの親友の赤城だった。


こいつは、超優しくて超かっこよく、旧帝大系A判定レベルに頭がいいんだ。

くそうらやm…………。裏山っていいよね?


だから、そんなことはどうでも良くて。

赤城なら、十年以上の付き合いのこいつなら、ギャル本の悪魔のささやきになんてノらないはずなんだ。


ノラナイハズ………ナンダ……。


『赤城っちもそう思わん?』


さぁ赤城、君の麗しい唇を動かして、『違うんだ!!あいつはいいやつなんだ!!』と言ってくれ!!!


『…………。』


少しの沈黙の後、赤城は言った。


『俺は………俺は、ずっと前からあいつを知ってる。』


そうだ、赤城!!!言っちまえ!!!!

そこで赤城はぐっと拳を握りしめ、叫んだ。


『昔からあいつはキモいし、ウザいし、ウルサかった!!!ギャル本の言う通りだぜ!!!俺もあいつ、物理的に無理だ!!』


…………へっ?

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