眠るあとに極楽を
志央生
眠るあとに極楽を
納まりのいい木箱に行儀良く横たわる私。その顔を見ようと集まる親族はそれぞれ思い思いの表情を浮かべている。泣く人もいれば、険しい顔をする者、なかには何の思いも浮かべない薄情な奴もいた。
ここで私が目を見開き、身体を起したならば全員が驚愕の表情を浮かべるであろう事は目に見えている。ほんとうにそれができたのならば、の話だが。実際はそんなびっくり芸ができるわけもない。私は知っているのだ、自分が死んでしまったことを。
「ほんとうにいい顔をしている」
「ねぇ、どこか表情も穏やかで」
近くで誰かがそう口にしているのが聞こえてくる。表情がいいのは当たり前だろう、苦悶の表情で人に晒せるわけがない。そういうのは知らぬところで見せられるように手を加えられているのだ。
「急なことだったし、まだ若いのにね」
各々が好き勝手に感想を述べ、相づちを打ち、思い出話や世間話に花を咲かせる。弔いなど表面上だけのようなものだ。故人など話を盛り上げるためのネタでしかないように思える。
べつに涙を延々と流して悲しめと強要するつもりもないし、してほしいわけでもない。ただ、もう少し体面に悲しさを出してほしい。私のことを酒のつまみに語らうのではなく。
けれど、どれだけ思っても通じることはない。気をどれだけ荒げてもどうしようもないのだ。
お坊さんがやってきて、親族は席に着く。さきほどの談笑が嘘のように体裁を整え、数珠を握って手を合わせている。
その変わり身の早さに私は呆れてしまう。もう何を言う気力もなくなり、木箱に入り横になる。坊主の唱える念仏はいい子守歌だ。目を閉じ、ゆっくりと聴き入っていると、次第に眠気に襲われる。うつらうつらする意識が深く落ちるのに時間はそうかからなかった。
眠るあとに極楽を 志央生 @n-shion
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