第89話 勝負の結果

「…どっちも向かって来ないか」


俺は後ろの魔物と目の前の刹那の伊吹のどちらも警戒していたが、そのどちらも動きは無い。

魔物は俺を含めると敵の方が人数が多いので警戒して動かないのかもしれない。そして、刹那の伊吹はカラゼスがまだ回復されている途中だからか動かない。



「なら俺はこっちだ!」


誰も動かないからまた俺から動くことにする。俺は刹那の伊吹の方へ向かって走り出す。


「ファイアアロー!」


「よっ!」


走り出した瞬間にリリラから魔法が放たれる。前もって準備していたであろう3本の火の矢は俺に向かってくる。俺はそれを大鎌で斬り消していく。この程度の小さい魔法なら大鎌で斬っても破片でほんの少し火傷する程度で問題ない。


「え?あっ…!」


2本を斬り消し、残り1本も斬り消そうとしたが、最後の1本は俺を通り過ぎる。

最初はコントロールミスかと思ったが、後ろを見て驚く。その火の矢はまっすぐビックウルフのほうに飛んでいったのだから。


「キャンッ!!」


「ちっ…」


鈍臭いビックウルフの1体がリリラの魔法を避けれずに足に掠る。


「「「「「ワォーーーン!!!」」」」」


攻撃されたビックウルフ達は俺の方に向かってくる。さすがに奥の奴らの誰かが攻撃したということには気付いているとは思うが、だからって通り道に居る俺を無視してはいけないだろう。

さて、どうするか…。


「あ、そうか」


ここで俺はさっきから戦い方を間違えていることに気が付く。普段の俺はそこまで戦術を考えながら戦っていない。考えているのはどうやって物理攻撃と魔法攻撃を組み合わせるか、どうすればよりダメージを与えられるかくらいだ。

しかし、今は魔法は使わないつもりだ。それなのに俺はいつもと同じくらい考えながら戦っている。まあ、戦術を考えながら戦うのはいいことだが、今の俺にはできることがそもそも少ない。だからこそ、考えは簡単に読まれて後手に回り続けている。


「なら!」


俺は刹那の伊吹に背を向けてビックウルフに突っ込む。恐らく、リリラが新しく魔法の準備を始めてるからまた同じように刹那の伊吹らには近付けないだろう。なら、先にビックウルフを片付ける。


「はあっ!とお!」


俺はまず先頭のビックウルフの顔から胸までを縦半分にする。そして、大鎌の先の近くに居たもう1体を大鎌で引っ掛けて後ろの刹那の伊吹の方へ投げる。

残り3体はほぼ同時に横並びで俺に突っ込んできたので、真ん中の1体に大鎌を突き刺し、大鎌から手を離す。


「おら、プレゼントだ!」


「「キャ、キャンッ!!」」


俺は空いた両手でビックウルフの首元を掴むと、また後ろに投げる。


「で…」


刺した大鎌を引き抜いてトドメを指してから後ろを見ると、最初に投げた1体のビックウルフは倒れ、今投げたばかりの2体をエルミーとナユが相手していた。


「ふっ!」


俺はこの隙に2人の間を通って後ろにいる魔法使い組の元へ行く。


「ここは…通しません!」


しかし、それをさせない為にまだ完全には回復していないカラゼスが立ちはだかる。



「邪魔!」


俺は少しの攻防ののち、カラゼスを大鎌でぶっ飛ばす。今度は大鎌で殴り飛ばしたことで完全に気絶したから復帰することはもう無いだろう。


「カラゼス、ナイス」

「あとは私達に任せてよ」


しかし、カラゼスの時間稼ぎのおかげでエルミーとナユがビックウルフを倒して俺を挟み撃ちする。あと数歩で魔法組に大鎌が届くのだが、それができないのが焦れったい。魔法を使えばすぐなのに…!

焦れったい気持ちを抑えるためにも2人には拳や脚で打撃を与える。



「燃え尽きろ!ファイアスピア!」


「それはまずい!」


ずっと動かなかったリリラから火の槍が放たれる。さすがにあれを無傷で受けるのは難しい。大鎌で斬っても破片で火傷はしてしまう。

だから避けようとするが、左右の2人は俺を逃がさないためか離れない。リリラが魔法をコントロールして俺に当てられるとしても近くに2人にもそれなりにダメージがあると思うが、それも構わないということか。


「よっ!」


だが、俺は食らうつもりはない。地上がダメならとジャンプして空中に避ける。


「はあぁぁぁ!!」


「なっ!」


しかし、ファイアスピアはスピードを落とし、角度を上に変えて俺の方に向かって来た。ここまで大きな方向転換までできるようになっていたのは知らなかった。

ファイアスピアのスピードが落ちたと言っても俺が空中にいる間に俺に当たるだろう。さすがに空中で更なる回避は…。


「守れ!シールド!」


俺は力を温存しておいてダメージを受けるのは嫌なので、無属性魔法を使って盾を1枚作り出す。1枚なのはせめてもの抵抗だ。

俺は盾を蹴って空中でファイアスピアを避ける。


「はあっ!」


「かふっ…!」

「ごほっ…」


俺が盾を蹴って向かった方向は魔法組のところだ。俺は地面に着地する間際に大鎌を振り、2人をぶっ飛ばす。


「さて、残りは2人か」


「いや!魔法使ったわよね!」


俺がまだ戦う意思を見せると、エルミーが反発してくる。


「魔法を使ったら負けでしょ!」


「いや、負けになるのは魔力を使った時だな」


俺は確かに魔力を使ったら負けと宣言している。魔法とは言ってない。


「どちらでも一緒でしょ!」


「…一緒じゃない」


唇を噛んで悔しそうにしているナユはどうやら気が付いたようだ。魔法を使ったらと魔力を使ったらでは意味が変わってくることに。


「さっきのは魔力を使われてない」


「え、え!?」


「ああ。無属性魔法っていう闘力を使う魔法だ」


ここで状況を理解したエルミーは下を向く。

俺は別にルール違反はしていない。彼らのようにルールの抜け穴をついただけだ。

ただ、これはグレーゾーンだとは自覚していたので無属性魔法も使わないつもりではあった。しかし、彼らは俺が思っていたよりも強くつい追い込まれて使ってしまったのだ。


「それでどうする?」


「降参」

「参った」


2人の体にはビックウルフや俺に付けられた傷がそれなりにある。2人はこの状況で戦っても勝ち目は無いと判断したようで降参する。現に立っているだけでも少しキツそうだ。


一応模擬戦に勝ちは勝ったのだが、無属性魔法を使わなければ負けないにしてもそれなりにダメージを負ったのは確実だ。

これは金貨3枚とはいかないが、少しご褒美は必要だな。

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