閑話 健流の受難〜追い込まれる健流〜 (2)

「・・・どうしてこうなった・・・」


 健流の目の前には、二組の布団が隙間無くリビングに敷かれている。


「ほら!健流は真ん中ね!」

「この間はヒカリが健流の上だったから、今日はあたしが上になるわ!」

「仕方がないわね。明日は私だからね。今日は譲ってあげる。」


 寝転びながらそんな事を言う三人。

 全員下着姿だった。

 姫乃はピンク色で刺繍の派手な物、灯里は青色で布地は少なめ、、光は薄い緑色で控えめな刺繍が施してあるものだった。


「・・・ちょっと待てお前ら。まさか、そのまま寝るつもりか?」


 健流は目を逸らしながら問いかける。


「え?そうだけど?」


 きょとんとする灯里。

 

「アホか!なんでパジャマ着てねぇんだ!!」

「さっき言ったじゃない。誘惑するためよ?」

「当たり前みたいに言ってんじゃねぇ!!」


 姫乃が何の気無しにそんな風に言うので、健流は頭を抱えた。


「そうだ!光!お前は常識人の筈だ!その格好恥ずかしいだろ?な!?服着ようぜ!?」


 光にそう言う健流。

 だが、


「う〜ん・・・ごめんね健流?さっきのお風呂でもう吹っ切れちゃった。てへ☆」

「お〜い!?キャラが変わってんぞ!?魔女か!?魔女のせいか!?」


 こんな事で魔女のせいにされては、マリアも浮かばれないだろう。

 ※生きています


「うん。ここにいる二人の魔女のせいかな?」

「姫乃と灯里の悪影響が!?」

「ちょっと失礼ね!」

「もう!健流うるさい!えい!」

「おわ!?」


 灯里が健流の足に蟹挟みを仕掛け、布団の上に転倒させる。


「よし!ナイス灯里!!みんな!健流を脱がすわよ!」

「ちょ!?やめ・・・おい!マジで!?うわぁ!?」


 姫乃と灯里、光の三人が飛びかかり、健流のTシャツとハーフパンツを剥ぎ取る。

 抵抗しようとするも、三人の色々な所に触れることに躊躇してしまい、気づけばボクサーパンツ一枚にされていた。

 

「おい!?洒落にならねぇって!」

「何よ?こちとら超本気だっての!!」

「尚悪いわ!!」


 目の座った灯里に若干引く健流。

 そんな健流をうるさそうに見る姫乃。


「うるさいわね健流。口塞ぐわよ?物理的に。」

「怖いわ!!何する気だ!?」

「何って・・・キス?」

「やめろ馬鹿!わかった!わかったから!!」


 こうして、温泉旅行の再現となった健流達。

 違うのは、光と灯里のポジションだけだ。


 姫乃が、事前に準備して、枕元に置いてあったリモコンで部屋の電気を消す。



 電気が消えたリビング。

 お互いの顔が見えず、声しか聞こえない。

 ・・・正確に言えば、うっすらとは見えているが。


「・・・なぁ。」

「・・・何?」

「お前らなんでこんな真似したんだ?」


 今の健流は右手に姫乃、左手に光、上に灯里が乗っている状態。

 半分諦めたとはいえ、なんでこうなったのかは知っておきたかった。


「そうね・・ちょっと真面目に話しても良い?」

「ああ。」


 姫乃は健流を見る。

 薄暗い中だが、目も少しづつ慣れてきて、健流の顔がしっかりと見えていた。


「あのね・・・私が健流を好きだって気がついたのは、前田さんに襲われた時だった。」

「・・・おう。」

「でも、多分気が付かなかっただけで、もっと前から好きだったのよ。」

「・・・そうか。」


「結構わかりやすかったよね?」

「うん。私も前からそうかなって思ってた。」


 灯里と光がそんな事を言った。

 

「(・・・全然気が付かなかった・・・マジか・・・)」


 健流がそんな風に考えていると、姫乃が更に口を開いた。


「それで、納得がいった。灯里や光が健流と楽しそうにしているのが辛いのはこれが原因だったんだって。だから、健流を自分だけのものにしたいって思ったのよ。」

「・・・」

「でも、今回の件でわかった。灯里も光も健流の為に命を賭けられる位に想ってるってさ。それに・・・あんまり口にしたくないけど、私は今まで友だちって作った事なかったからさ、光が友だちになってくれたのが凄く嬉しかったのよ・・・まぁ、灯里もね。・・・どっちかっていうと喧嘩友だちみたいだったけど。」


 姫乃の独白。

 健流は勿論、灯里も光も黙って聞いていた。


「でね?そんな二人はあなたが私の事を好きだって言うの。」

「!?(俺が・・・姫乃の事を好きだって!?)」

「安心して。あなたが自分の気持ちが、まだわかって無い事もわかってるから。私が気がついたのはお父さんの最期の言葉のおかげなのよ。」

「・・・それは・・・聞いても良いのか?」

「うん。健流だったら・・・いいえ、健流や灯里、光だったら良い。その言葉はね?愛する人っていうのは『その人の事を考えると、心が暖かくなる人』なんだってさ。」

「!!」

「あなたが私を一生懸命守ってくれようとするのは何故?」

「・・・お前に笑顔で居て欲しいと思ったからだ。」

「それはなんで?」

「それは・・・」


 健流は自問した。

 そして答えを見つける。


「お前が楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうにしていると、俺もそうなるから、だな。」

「それって心が暖かくなるって事じゃないの?」

「そう、だな。」


 健流の心がストンと腑に落ちた。


「(そうか・・・俺は姫乃が好きだったのか・・・)」


 ようやく己の心に気がついた健流。

 しかし、姫乃の話はまだ終わらなかった。


「でさ?それってさ・・・灯里や光にも感じてない?」

「っ!!・・・そう、かもしれん。」

「私はね?あなたが好き。それに、友だちの光や・・・灯里も好き。だったらさ、誰か一人が選ばれるより、みんなで一緒に居たい。」


 姫乃の顔は真剣だった。


「ヒメノ(姫乃)・・・」


 灯里や光の目には涙があった

 純粋な姫乃の気持ち、普段見せない想いを聞き、感極まったのだ。


「それに、私達は能力者よ。そもそも普通じゃないの。普通じゃない私達が、無理に常識に収まる必要は無いと思うんだ。もし、灯里や光の健流への想いが私に劣るのならこんな事言ってない。でも、直接ぶつかって、戦って、痛いほどわかっちゃった。二人が健流を、私と同じくらい大好きなんだって。」

「・・・」

「だからさ。私達は私達らしく生きない?他人なんて関係ない。常識なんて知らない!誰かに迷惑をかけるわけでも無い。だから・・・だから!私達を受け入れてよ!!こんなはしたない真似をしてるのは、健流が手を出してくれたら責任取って私達を受け入れてくれると思ったからよ!軽蔑したかしら!?でも、もう我慢出来ないのよ!!私と・・・家族に・・・なってよ・・・みんなで家族にしてよ!!私に・・・私に家族を・・・頂戴?・・・もう、もう一人は嫌なの!!」


 姫乃はボロボロと泣き始めた。

 家族を失い、復讐に生き、そしてようやく家族と思える者達に出会えた。


「ヒメノ(姫乃)!!」


 堪らず灯里と光が姫乃に抱きつく。

 三人共に涙を流しながら。

 

 そして、健流は・・・

 そんな三人をまとめて抱きしめた。


「・・・俺は・・・俺にも家族と思える奴はいなかった。親父も、お袋も、俺を邪魔者扱いするだけで、家族だなんて思えなかった。ずっと一人で生きていた。道を踏み外し、兄貴や姐さんと出会って、ようやく人の暖かさを知った。・・・そんな中、泣かせたく無い奴らが出来た。・・・お前らだ。」

「「「・・・」」」

「俺は、お前らには笑顔でいて欲しい。幸せになって欲しい。俺の手でそれが出来るなら・・・そん時は俺も幸せになれると思う。」

「健流・・・」

「それって・・・」

「もしかして・・・」


 姫乃、灯里、光の三人が涙を流したまま息を飲む。

 健流は優しく微笑んだ。


「俺は姫乃が好きだ。灯里が好きだ。光も好きだ。気持ちを絞り切れないクソみたいな男だが、こんな俺でも良いなら、どうか俺と幸せになってくれねぇか?三人とも、俺と家族になって欲しい。世間で言う結婚は、法律上出来ないかもしれねぇが、絶対に後悔させない男になって見せるから。俺に、家族の暖かさを教えて欲しい。」

「「「健流!!」」」


 四人はお互いに抱きしめあった。

 そして涙を流しあった。


 その姿は一つの家族そのものだった。







「さて、じゃあ家族としての絆を深めましょう。」


 どれだけ時間がたったのか。

 泣き止んだ四人だったが、唐突に姫乃がそんな事を言い始めた。


「あ?絆はもう深まっただろ?その・・・俺たちは将来一緒になるのを前提に付き合い始めたんじゃ・・・」

「ん?ええ、そうね。まぁ付き合おうという言葉よりも、もっと凄いの貰っちゃったから、それで良いと思うわ。」

「だったらもう充分なんじゃ・・・」

「何言ってるのよ。男女が長く幸せになる為の大事な事を、まだ確かめてないじゃない?」

「?なんの事だ?」

「・・・なるほど。大事ね。」

「え?え?姫乃?灯里?それってもしかして・・・え?いきなり四人で!?」


 姫乃の言う大事な事。

 健流は気がついていないが、どうやら灯里と光はわかったようだ。


「なんだ?どういう・・・」

「身体の相性よ。」


 ズバッと言い切って、健流に抱きつく姫乃。

 

「ふぇ!?な、何言ってんだお前!?」

「だって、それも凄く大事ってネットに書いてあったもの。」

「ネットの情報を鵜呑みにすんじゃねぇ!!さっきの雰囲気台無しじゃねーか!!」

「うるさいわね!光!健流の後ろから抱きついて逃さないようにして!灯里!ぶちゅ〜っとやっちゃいなさいぶちゅ〜っと!!」

「よしきた!!」

「え?え??本当にするの!?・・・えい!!」

「ちょ、ちょ待てお前ら!!灯里、待て!口をタコにして近づくな!!!やめろ光!押し付けるな!!うひゃ!?姫乃お前どこ触ってんだ!!やめろ〜〜〜〜!!!!」

「健流!往生際が悪いわよ!それに深夜に大声出すな!近所迷惑でしょ!!こんな美少女三人に迫られてるんだからもっと嬉しそうにしなさいよ!こんなに大きくしてるくせに!!」

「う、うるせー!!しかたねーだろーがこんなん!!つーか落ち着けって!!

こらっ!光後ろからまさぐるな!!頼むから勘弁してくれ〜〜!!」



 その後、必死に抵抗し、更に土下座まで敢行して、健流は貞操を守りきったのだった・・・男の尊厳と引き換えに。

 将来、三人の尻に敷かれるのが確定した瞬間だった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る