閑話 健流の受難〜追い込まれる健流〜 (1)

 これは、光や充の問題が全て解消された翌日の事。


 光と充、それに健流達は、魔女とのいざこざのせいで、夏休みの宿題が滞っていた。

 その為、各々親の許可を取り、勉強合宿を執り行う事になったのだった。


 場所は、健流の家だ。

 健流の知らぬ間に、姫乃が灯里と光に隣に住んでいる事をバラした為、気兼ねなく家に上げる事が出来るようになったのだ。


 勉強合宿は夏休み開けまでの1週間となっていた。

 その間、灯里と光は健流の家に泊まる事になっている。

 当初、健流は充も泊まると思っていたので許可をだしたのだが、


「ダーリンは家に泊まるの!!ボソッ(もし、泊まらせなかったら、お風呂での事を大和くんの学校やエデンで言いふらしてやる!!)」


 という、レーアからの強い要望・・・脅迫に屈し、その要求を飲むことになった。

 勿論、充は抵抗した。

 綺麗な女性と二人きりで一緒に寝泊まりするなど、純情な充にはきつかったからだ。

 しかし、


「充!頼む!!俺を助けると思ってレーアさんちに泊まってくれ!!」


という強い懇願と、


「・・・ミツルくん・・・私と一緒は嫌なの・・・?」


というレーアの悲しそうな顔で、諦める事になった。


 合宿は朝から宿題を進め、夕飯は充を迎えに来るレーアを含めて取る。

 その後、充はレーアと共に、レーアの拠点として借り受けた下の階へ移動。

 健流達はそのまま健流宅で過ごすという流れに決まった。


「ごちそうさま!大和くん料理上手なのね!知らなかったわ!」

「まあ、そこそこですが出来ますよ。兄貴と姐さんに仕込まれたんでね。」

「そう。さて!片付けをしたら・・・ミツルくん!二人の愛の巣に行くわよ♡」

「レ、レーアさん・・・恥ずかしいですよ・・・」

「もう!そんなに可愛い顔して・・・誘ってるのかしら♡」

「ち、違いますよ!?た、健流!!俺皿を洗うから!!」

「あ、ダーリン私も手伝うね♡うふふ・・・二人の共同作業・・・♡」


 逃げる様に台所に行く充と後を追いかけるレーア。

 

「充・・・良かった・・・のか?まぁレーアさん美人だし良い人だし・・・やっぱ良かったんだろうな。」


 うんうんと腕を組み頷く健流。

 しかし、健流は気がついていない。

 そんな健流を猛禽の様な目で見ている三人の存在を。


「(レーアさん・・・流石ね。あの積極性は見習わないと。)」

「(健流、他人事みたいに思ってるわね・・・くふふ。その余裕がいつまで持つのか楽しみね!)」

「(レーアさん凄く積極的・・・やっぱりあれくらい行かないと!照れてる場合じゃないわ!頑張るのよ私!!)」


 ゾクッ


「(ん!?なんだ!?なんか寒気が・・・風邪でも引いたのか?まぁ、いいか。片付け終わったらさっさと風呂入って寝るか。明日もあるしなぁ)」


 それなりに修羅場をくぐり抜けて来たエデンのエースである健流。

 この危機を乗り越えられるかどうかは、自らの危機管理能力にかかっているのだった。





 片付けを終え、レーアに引きずられるように健流の家を後にする充。

 実は、レーアは姫乃達から、事前に話を持ちかけられていた。



「大和くんを籠絡する?えっ!?あなた達3人で付き合うって言うの!?でも、相談って言われても…複数で付き合うなんて流石に経験ないからなぁ…」

「はい、レーアさん。実はそれにあたって作戦を考えていて、お泊り勉強会をしようと思ってるんです・・・充くんを含めて。一週間位。」

「話を聞こうじゃないの。」


 レーアは凄まじい勢いで食いついた。

 そして・・・


「わかったわ。あなた達は3人で泊まりたい。私はミツルくんと過ごしたい。Win Winね。そうと決まればあなた達のマンションの下の階の空き部屋を契約してくるわ!すぐに泊まれるようにしなきゃね!じゃあ!決まり次第、連絡頂戴!!」


 レーアはすぐにアンジェリカに連絡をし、部屋を確保。

 そして、家具店に走り出す。

 迅速果敢な行動力だった。




 こうして、レーアの粘り強い交渉もあって、階下の部屋はお泊り出来る状態になっていたのだ。


「(検討を祈る!)」

「(レーアさんもね!)」


 お互いにアイコンタクトをして気持ちを伝え合う姫乃とレーア。

 そんな二人に気が付かず、のほほんとしていた健流。


 既に危機は迫っていた。


「健流、家主のあなたが最初にお風呂入りなさいな。」


 姫乃のそんな言葉に驚く健流。


「え?良いのか?俺、最後でも良いぞ?」

「良いの良いの!さっさと行って!後がつかえてるんだから!布団の準備はしておくわね!」

「そうか・・・悪いな。」


 灯里の言葉に感謝する健流。


「健流。リビングにお布団敷いとくね?姫乃の家から持ってくれば足りるだろうし。」

「あ、そうだな。悪い。ありがとな光。」


 光がそう言ってくれた事から、健流は入浴準備をして浴室に向かった。

 三人の目が光っていた事に気が付かずに・・・


 そもそも、よく考えればわかる筈だったのだ。


 布団は健流の物と姫乃の物で二組。

 それに対して人数は四人。

 どうなるのかなど、自明の理なのだ。


 どうやら健流の危機管理能力は底辺だったようだ。




「はぁ〜・・・今日は頭をずっと使ってたから疲れたぜ・・・」


 身体を洗って浴槽に浸かる健流。

 この風呂は、大きめに作られており、健流が足を伸ばしても余裕で入れる。

 健流はこの風呂が気に入っていた。


「健流ー?お湯加減はどう?」

「姫乃か?ああ、良いぞ!最高だ!」

「そう。じゃあ、お邪魔するわね。」

「は?」


 がちゃっ


「な、なんで入ってきやがる!?」


 姫乃がバスタオルを巻いた姿で入ってきた。

 しかし、それだけでは終わらない。


「おじゃましま〜す!」

「お、おじゃましま〜す・・・」

「灯里に光!?なんでお前らまで!?」


 同じ様に灯里と光もバスタオル一枚で入ってくる。

 混乱する健流。


 そんな健流に灯里がビシッと指を指した。


「健流!あんた姫乃と一緒にお風呂何度も入ってるそうじゃないの!!ズルいわ!!だからあたし達も入るからね!」

「い、いや・・・それはだな・・・」


 まずは灯里からの口撃。※攻撃ではありません

 健流大ダメージ!


「それとも・・・私達じゃ駄目?私の事・・・嫌い?」

「ぐっ!?き、嫌いとかそういうのじゃなくてだな・・・」

「・・・」

「光!ズルいぞ!上目遣いで目をうるうるさせるな!!」


 続いて光の口撃。

 こうかはばつぐんだ!!


「あ〜!!わかった!!わかったからそれ勘弁してくれ!!」

「は〜い!じゃあ目を瞑ってて。ちょっと身体を洗うから!・・・それとも見てる?」

「見るか!!」


 健流が目を瞑っている間に身体を洗う三人。


「・・・やっぱり、光、結構おっぱいあるわね。この!」

「きゃっ!?ちょっと灯里!いきなり触らないでよ!!」

「・・・どうせ私は小さいわよ!ちょっと分けなさいよ!」

「ひゃ!?姫乃もやめてよ!いいじゃん姫乃スタイルいいんだから!!何そのくびれ!ズルい!!」

「そうだそうだ!あたしなんて・・・あたしなんて!あんたらまとめて触りまくってやる!!」

「灯里だって私より胸あるじゃない!!・・・身長一番あるのに胸が一番小さいだなんて・・・屈辱だわ・・・」

「待て!お前らちょっとストップ!!」

「何よ?」

「ここには男の俺が居るんだぞ!?そういうのはやめてくれ!!いたたまれねぇ!!」


 健流は叫ぶ。

 しかし、


「ふ〜ん・・・だって姫乃?」

「そうね・・・じゃあこうしましょう?良いわね光?」

「う、うん。もう覚悟はできてるよ?」

「な、何の話だ?お前ら一体何を・・・」


 ザブッ

 ザブッ

 ザブッ


 三人が浴槽に入って来たのがわかった。

 そして、


「ひぇっ!?」


 一斉に健流にくっついて来た。


「な、な、な、何、して・・・」


ぎゅっと目を瞑ったまま健流は問いかける。

すると、


 ふぅ〜


「ひぃ!?」


 耳に息が吹きかけられる。


「健流・・・私達考えたの・・・」

「ふぐぅ!?な、何を?」


 耳元で話す姫乃の声でゾクゾクしながら答える健流。

 更に太ももを撫でられる。


「ふぁ!?にゃ、にゃにするんだ・・・」

「・・・あのね健流・・・あたしも、ヒメノもヒカリも、あんたに気持ちを伝えたじゃない?」

「あ、ああ・・・そう・・・だな・・・」


 太ももを撫でられる感触に必死に耐えながら灯里の問に答える。


「くぅっ!?ちょ、首筋触ってるの誰だ!?や、やめてくれ・・・」

「・・・あ、健流、首弱いんだね。でも、やめてあげないよ?」

「ひ、ひかりさん?」

「私達三人で話合ったんだ・・・で、答えが出たの。」

「こ、こ、答え?はわ!?」


 一斉に抱きつかれる感触がする。

 そして、


「「「三人で健流をシェアしようって」」」

「!?」


 健流は衝撃を受けた。

 こいつら一体何を言ってんだと。


「覚えておいて健流。女の恨みは怖いのよ?私達の気持ちをもてあそぶ健流に、これは私達の意趣返し。一生ドキドキして貰うわ。はむっ♡」

「あんたに拒否権は無いわ。勿論、あたし達は覚悟を決めている。手を出しても良いわよ?でも・・・男の中の男である健流だったら、当然責任を取ってくれるよねー?ちゅっ♡」

「だからね?一生懸命誘惑するから、早く折れてね?私達もあんまり長く待てないから。あんまり待たされると・・・逆に襲っちゃう、よ?はむっ♡」


 光と姫乃に耳を甘噛あまがみされ、灯里からは首筋を吸われ、むず痒さと快感に、のぼせてしまい、健流はいよいよ何も考えられなくなった。


「ふぁ、ふぁい。わかり・・・まし・・・た・・・」


 くらくらする中、反射で返事をしてしまう健流。

 

「それじゃあこれからよろしくね!」


と光が。


「あ、勿論布団もいっしょだから。」


と灯里が。


「私達、ちょっと寝相悪くてくっついちゃったり、色々触っちゃったりするけど、我慢して・・・しなくていいからね?うふふ・・・ここの所ずっとムラムラしていた健流が耐えられるかしら・・・」


と姫乃がとどめをさす。


 前途多難な勉強合宿。

 これはまだ初日である。


「(俺、新学期を迎えられないかもしれん・・・)」


 健流はある意味死を覚悟するのだった。

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