閑話 魔女マリア
これは、魔女の里が滅びた時代まで遡った話。
まだ、魔女の里が健在だった頃。
「次の女王はやっぱりマリアかしら?」
「そうね・・・だって、今の女王から『至高の魔女』と呼ばれた天才だもんね!」
「凄いなぁ・・・マリアは見た目も綺麗だし、実力もあるし・・・嫉妬も出来ないくらいだよね。」
魔女たちが、里中で話している。
まもなく、次代の魔女の女王が決められる。
今の魔女の女王は既に高齢であり、里を率いる者が必要であった。
「(・・・みんなわたくしが次の女王だと思っている・・・でも・・・わたくしには、みんなを率いる様な・・・支えるような強さがない・・・)」
そんな中、魔女マリアは歩いていた。
ちらちらとした視線を感じる。
だが、魔女はこの視線が苦手だった。
マリアは引っ込み事案な少女だった。
今は、年齢で言えば17歳。
まだまだ子供と言って良い歳だろう。
そんな中、今代の魔女の女王が突然発した、『次代の女王』を決めるというお触れ。
先輩魔女が居る中で、まだ子供の自分が率いる立場でやっていく自信はマリアには無かった。
「あら、マリアじゃないの。」
「あ・・・こ、こんにちは姫様・・・」
「相変わらず、辛気臭い顔してるのねぇアナタ。ねぇ?」
「本当にね!」
「あははあはは!」
「そうそう!あんたの顔を見てると気がめいるわ!!あんたが里の女王?冗談じゃないわ!!」
それは、現魔女の女王の実子とその取り巻きだった。
彼女らは、常日頃から、天才であり、後輩のクセに『至高の魔女』とまで言われ、見目も美しいマリアに嫉妬し、こうやってわざと絡み、悪口、陰口、嫌がらせをしていたのだ。
「ちょっとやめなさいよあなた達。あんまりこの子を困らせると、殺されちゃうかもよ?まぁ、そんな事をしたら反逆罪で処刑されるでしょうけどね。」
この、姫と呼ばれた魔女は、優秀ではあるものの、その才能はマリアには遠く及ばなかった。
だから、親の権力を振りかざし、嫌がらせを続けていたのだ。
「・・・申し訳ありません姫様。わたくしはそのような事は考えておりません。」
「はん!そうでしょうね!アナタにそんな気概は無いでしょう!よくそれで女王を継ぐつもりでいるわね!辞退するのが当然でしょう?」
「・・・わたくしはまだ継ぐなんて・・・」
「うるさいわね!この平民が!!」
魔女の中にも序列はあり、階級があった。
当然、貴族足り得る立場の者もいた。
マリアの両親は、平凡な魔女である母と、平民である父であった。
基本的に、魔女は親の力が強いほど、魔女としての能力は高く生まれやすい。
マリアは突然変異のようなものだったのだ。
「ふん!行くわよ!」
姫は取り巻きを連れてマリアを突き飛ばしまっすぐに歩いていった。
マリアは俯く。
「・・・わたくしだって・・・継ぐの嫌なのに・・・」
マリアは一人涙し、帰宅するのだった。
時は流れ、マリアが18歳を迎えた日。
女王が次代の魔女の女王を決める日が決まったと発表した。
翌日の正午との事だ。
「マリア、あなたが選ばれるかもね?」
「そうだね。そしたら頑張ろうね?お父さんも支えるからね?」
マリアの父母は優しい人達だった。
「・・・うん。その時は頑張るね・・・」
マリアは言い出せなかった。
辞退したい、と。
何故なら、もし、女王の決定に異を唱えれば、下手したら里を追放されるかもしらなかったからだ。
自分が追放されるなら良い。
だが、両親が一緒に追放されるのは耐えられそうに無かったのだ。
そして、運命の日を迎える。
来賓として、協力関係にある大国の王子も立会人として来ていた。
そんな中、広場に人が集まり、ついに発表となる。
今代の魔女の女王が登壇する。
そして、
『次代の魔女の女王を発表する!次代の魔女の女王は・・・うっ!?』
その時だった。
突然、王子の付き人の一人が、女王を後ろから刺した。
騒然となる広場。
だが次々と現女王の側近が殺されていく。
魔法を放つも、何故か盾に阻まれ通じない。
次々と数を減らしていく。
魔女たちは混乱した。
そんな時、
『あははははは!もう老害なんていらないのよ!これからはあたしが女王になるわ!』
王子の隣にいた姫が、拡声の魔法を使い宣言した。
そう、つまり、姫が王子に話を持ちかけ、クーデターを起こしたのだった。
『何が女王よ!娘の私に地位を譲らない母親なんていらないわ!これからはあたしが法律よ!さっさとマリアを殺しなさ・・・えっ!?』
だが、それすらも謀りだった。
王子の短剣が姫の胸を刺す。
「どう・・・して・・・」
「ふん!汚らわしい魔女などもういらん!根絶やしにしてやる!者共!かかれ!!」
始めから、大国は魔女の里を切り捨てる腹積もりだったのだ。
魔法を使える魔女は脅威だ。
だから、姫を利用し、魔法を打ち消す術式を盾に付与させ、一番の脅威である魔女の女王を排除し、その後、姫を殺す作戦だった。
阿鼻叫喚だった。
魔法が通じない相手に魔女は無力だった。
次々と殺されていく。
そんな中、マリアは両親を探していた。
「お父さん!お母さん!どこ!?どこなの!?」
必死で探していると、
「マリア!」
「こっちだ!!」
同じ様にマリアを探していた両親の姿が!
急いで駆け寄るマリア。
この時、両親と共に逃げ延びていたら、世界にここまで不幸は生まれなかったかもしれない。
「あっ・・・」
マリアの手が届きそうなその時、両親の背後にいた兵士が、マリアの父親と母親を切り捨てた。
どうみても即死だった。
「お父・・・さん・・・お母・・・さん・・・」
苦悶の表情で絶命した両親をじっと見下ろすマリア。
兵士はニヤニヤしながら近づいてくる。
「おお!?こいつすげぇ上玉じゃねぇか!」
「これは殺すのが本当にもったいねぇな・・・なぁ、こいつの足の腱を切って、あっちの家に連れ込まねぇか?ちょっと楽しんから殺してもバチは当たらねぇだろ。」
「そりゃいい!そうするか!わかりゃしねぇもんな!どうせ魔女なんて人間じゃないんだから!」
「人間・・・じゃない?・・・わたくし達は・・・人間じゃ・・・ないの?」
マリアは呆然として呟く。
聞こえていた兵士はニヤつきながら答えた。
「お前ら魔女は化け物だ!だから殺してもおもちゃにしても良いんだとよ!ぎゃはははは!!」
その言葉を聞いて、マリアの中にある何かが切れた。
「そう・・・そうなのね・・・わかったわ・・・」
「お!?わかっちゃったか?じゃあ、腱を斬るぞ?なに、死ぬ前にいい思いさせやっからよ?」
「お前たちニンゲンは・・・どれだけ殺しても良い生き物だって事がね!!」
その瞬間、マリアの周囲にどす黒い魔力が放出された。
「な!?」
「おい!すぐに殺す・・・ぎゃああああああ!?」
マリアが兵士の一人を火だるまにした。
「こ、こいつ!!」
もう一人が盾を構えて突っ込んでくる。
「死ね」
マリアは氷の魔法で兵士を盾ごと貫いた。
「ご・・・ふ・・・なん・・・で・・・」
「その程度の無効化がわたくしに通じるものか。大方あの姫の協力で得たのでしょう?あんな奴の付与がこのわたくしに通じる筈がないでしょう。」
そこからは、蹂躙だった。
魔法無効化の盾は一切通じなかった。
燃え、凍らされ、貫かれ、弾け飛び、切り刻まれる。
数刻後、その場に動くのは、王子と側近が一人、そしてマリアだけだった。
「ば、馬鹿な・・・そんな・・・」
「死になさい。」
「ぎゅっ・・・」
目に見えないロープで首を絞められ殺される側近。
これで王子だけとなった。
「ま、待て!我を殺せば我が大国が容赦をしないぞ!?」
「関係ない。この後、わたくしがお前たちの国を滅ぼしに出向くのだから。」
「そんな事出来るわけ・・・!!」
「無いと言うの?この惨状を見て?」
「・・・ひぃ・・・!?」
王子は失禁して座り込んだ。
そんな王子を見下し、マリアは言った。
「お前の首を王の口の中に詰め込んでやる。わたくしは魔女『至高』と呼ばれた魔女。必ず実行する。」
「ま、まってく・・・」
「死ね」
王子は首を切り飛ばされた。
一人立ち尽くすマリア。
そこに・・・
「マリ・・・ア・・・こち・・・らへ・・・」
声が聞こえた。
マリアが声の法に近寄ると、そこには今代の女王が倒れ伏していた。
「マ・・・リア・・・ごめん・・・なさい・・・私・・・のせいで・・・こんな・・・事に・・・私は・・・あなた・・・を・・・次代の・・・女・・・王に・・・指名する・・・つもり・・・だっ・・・た。愚・・・かな・・・娘・・・の・・・せい・・・で・・・里・・・が滅んで・・・しま・・・った。本当・・・に・・・ごめ・・・ん・・・な・・・さい・・・」
「女王様・・・」
マリアは屈んで女王の頭を支える。
その両目からは涙が流れていた。
魔女の女王は、マリアを実の娘のように可愛がっていたのだ。
「マリ・・・ア・・・あ・・・なた・・・が・・・次・・・代の『ク・・・イー・・・ン オ・・・ブ ウィ・・・ッチ・・・』よ・・・最・・・後の・・・魔女・・・自・・・由に・・・生・・・きな・・・さ・・・い・・・しあ・・・わ・・・せ・・・に・・・な・・・って・・・ね・・・」
そして、女王の瞳から光が消える。
少しの間、マリアは動かなかった。
そして、立ち上がると、里中に火をつけた。
「私は魔女の女王。安心して魔女のみんな。報復は必ずこのわたくしが完遂してみせる。そしてその後は・・・『魔女』であるこのわたくしが、ニンゲンを滅ぼしてみせます。奴らはわたくし達魔女はおもちゃだと言った。だったら、わたくしたちが奴らをおもちゃとして扱っても文句は言わない、言わせない!見ていなさいニンゲン共!!このわたくしが・・・『魔女』が!お前達の災厄となってやる!!」
こうして、魔女は大国へ向かう。
そして・・・3日後には大国は滅び去った。
後日、調査に来た隣国の者が発見したのは、大量の一般の民を含めた死骸と、半壊の城、玉座に座ったまま死を遂げたと思われ、絶望した表情のまま凍結した王だった。
その口は切りさかれ、ぐちゃぐちゃになった誰かの頭部が詰め込まれた状態であった。
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