第98話 魔女の弟子 対 元魔女の弟子(2)

 ティアは走り出した。

 ジグザグに光との距離を詰めていく。


「!?」

「(この娘は確かに魔力を操作する事に長けている。だが、おそらく身体強化に回す戦い方はそこまで習熟していない筈だ!何故なら、これだけ上手く魔法を使えるのなら、魔女は身体強化の系統は後回しにするだろうからな!!)」


 ティアの事を魔女がよく知っているように、ティアもまた魔女の事をよく知っている。

 事実それは当たっていた。


 光は魔力弾を飛ばすも、ティアは身体強化を高め、その全ての弾丸を躱していった。

 そして、杖が届く間合いまで来ると、


「歯を食いしばれ小娘!!」


 杖を横薙ぎにし、光の腕に打撃を与えた。


「くっ!!」


 光もまた魔力で身体強化をして防ぐも、ティアの推測通り、習熟度はそこまで高くないようで、光が痛みに顔を歪める。


 そして、距離を取ろうと、後ろに飛ぶが、


「逃がすか!!」


 ティアは更に速度を上げ、光に追いすがる。


「はぁっ!!」

「がはっ!?」


 腹に杖で突きを撃たれて、光は後ろに吹っ飛んっだ。


「確かにお前は天才だ。でも、習ってからの期間が短すぎる。まだ、今は戦闘は私の方が上だ。」


 ティアは杖で、更に追撃しようと、倒れ込んでいる光にゆっくりと歩いていく。

 ティアもまた、消耗は激しかったのだ。


「くっ・・・流石ですね先輩・・・なら、私も奥の手を出します。」

 

 光は、苦しそうにしながらも、にやりと笑った。

 

「!!やらせるか!眠っていろ!!」


 ティアは光に言いしれない不安を感じて、すぐに気絶させようと距離を詰めた。


「起きなさい!『ブラックウルフ』『ホワイトウルフ』!!」

「させない!はぁっ!・・・がっ!?」


 杖を振りかぶったティアは、突然の衝撃に吹き飛ばされた。

 何が起こったかまったくわからず、光を見ると、光は既に立ち上がっており、そのかたわらには、黒い狼と白い狼がいた。


「それ・・・は・・・使い・・・魔?」


 ティアはなんとか立ち上がり、構える。


「そうですよ先輩。確かに今は、私は先輩程の身体強化は出来ません。でも、それを補う為に、私の魔力で作り上げた狼ちゃん達です。可愛いでしょう?黒い子が黒夜こくや、白い子が白夜びゃくやって言うんです。」

「・・・くっ。」


 これで、自らの勝機がほとんどなくなったティアは歯噛みする。

 先程の衝撃、まったく見えなかった動き、これ以上はどうにもならなかった。


 反転して逃走を図るティア。


「あら?先輩逃しませんよ?行きなさい黒夜!白夜!先輩を連れてきて!」

「「アオォォォォォォン!!」」


 二頭は走り出す。



 

「はぁ・・・はぁ・・・くそっ!このままじゃ・・・うわっ!?」


 ティアが気がつくと、目の前には黒夜、後方には白夜がいた。

 

「くっ!?『ウィンドショット』!!」


 風の弾丸を放つティア。

 しかし、消耗している今では矢継ぎ早に放つことは出来ない。


 狼達は弾丸を躱しながら近づき、ティアは大きな衝撃を感じ・・・意識は暗転した。



 ティアが目を覚ますと、そこは何も無い空間だった。

 

「こ・・・こは・・・まさ・・・か?」

「久しぶりねぇティアちゃん?」


 そこに、女性の声が響く。

 聞く者にとっては美しいと感じるだろうが、ティアにとってはおぞましい声。


「魔女!!キサマ!!」


 怒りで叫ぶティア。

 しかし、魔女はそんなティアににこりと笑って、近づいていく。


「殺す!殺してやる!!」

「あらあら、ティアちゃんそんなに怒ってどうしたの?」

「貴様の!貴様のせいで!!」

「何言ってるのよ。あなたのお父さんもお母さんも、友達も、おじさんもおばさんも、恋人も、あなたが自分で殺したんじゃなくて?」

「うわぁあぁぁぁあ!!貴様!貴様!!」


 ティアは怒りで気が狂いそうになっていた。

 しかし、身体は動かない。

 光にボロボロにされていた事もあるが・・・


「解け!これを解け!!」

「駄目ねぇティアちゃん。こんな簡単な拘束魔術を抜けないようじゃ。さて、それじゃあ・・・」


 ティアの頭に手を乗せる魔女。

 その瞬間ティアの顔が強張った。


「な、何をする・・・気だ?」

「ん?決まってるじゃない。また昔に戻って貰うのよ。私の可愛いティアちゃんにね?」

「やめろ!やめろ!!もう嫌だ!あんな風に戻りたくない!!」

「あら、駄目よ?だってあなたにはやって貰いたいこともあるしね。」

「やめろ!何をやらせる気だ!?」

「ちょっと『剣豪』ちゃんを、ね。」

「!!あいつに手を出す気か!?止めてくれ!あいつは・・・」

「うふふ・・・孤児だったあの子を、あなたが保護して育てた子供のようなものだものね?でも、同時に一人の男としても愛している。ツンデレちゃんなあなたは素直になれないから、まったくそんな素振りを見せていないようだけどね。だ☆か☆ら、わたくしがずっと一緒にいられるようにしてあ・げ・る♡」

「やめろ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」


 魔女の手から闇が出て、ティアを包む。

 

 闇が晴れた頃、そこには無表情なティアがいた。


「おはようティアちゃん。」

「はい、師匠。」

「うん、今の気分はどうかしら?」

「特に何もありません。」

「うんうん。戻ったみたいね。また手伝ってくれるかしら?」

「勿論です。私の喜びはあなたを喜ばせる事です・・・母上。」

「よしよし。お母さんがいい子いい子してあげるわね?その前に拘束を解いて、と。」

「どうすればいいのでしょうか?」

「まずは身体を治しなさい。その後に、あなたの妹弟子ときちんと挨拶をし直しなさい。」

「わかりました。」


 こうして、ティア・ブライトはエデンの『賢者』から、『断罪の魔女』に堕ちてしまったのだった。

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