第97話 魔女の弟子 対 元魔女の弟子(1)

 過去の事を思い出しながらサポートスタッフを待っていたティアだったが、不穏な気配を感じた事で、意識を目の前に戻す。


「・・・誰?」


 森の奥の闇にそう問いかけると、そこから一人の人影が出てきた。

 それは一人の少女だった。

 黒髪に可愛らしい顔立ち、しかしその格好は・・・まさに物語に出てくるような真っ赤なドレスに黒いラインが入った魔女の姿だった。

 訝しげに見たティアだったが、その少女の顔を見て固まる。


「あなた・・・連絡が来ていた黒瀬光ね?」

「はじめまして先輩。あなたの事は師匠から聞いていますよ?なんでも親、友人、恋人だった幼馴染を虐殺した困ったさんだったって。」

「・・・」

「無言ですか。まぁ良いです。さて、『断罪の魔女』ティア・ブライトさん。師匠から招集が掛かっていますよ?拠点まで来て下さい。」


 そう光が言った瞬間だった。

 ティアがの表情が憎悪に歪む。


「魔女・・・魔女が私を呼んでいるだと!?あの女どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!!あなたも早く魔女から逃げ出しなさい!あの女は・・・」

「師匠の悪口は止めて下さい。・・・抵抗するのであれば、痛めつけてでも連れてくるように言われています。」

「・・・力を手に入れたからと調子に乗るなよ?小娘。」

「・・・では、行きますね?」


 こうして、魔術戦が始まった。

 

「(この娘は魔女に操作されている・・・昔の私のように。だったら、殺すわけにはいかない。気絶させて拘束する!)」


 ティアは魔力を高めて詠唱を開始する。

 しかし、


「遅いですよ先輩『エアロ』」


 光が翳した杖から風の本流が放たれる。

 

「(何!?無詠唱だと!?馬鹿な!あれはあの魔女しか使えない筈では!?)」


 風がティアに纏わりつき、ティアの行動を阻害する。

 

「(だが、関係ない!詠唱はもう終わる!)」


 ティアは、同じ様に杖を光に向けると、


「寝ていろ!『サンダーボルト』!」


 杖から雷が光に一直線に飛び出す。

 だが、光は微動だにしない。


 雷の方が光を避けたからだ。


「何!?」

「先輩・・・そんなんじゃすぐに終わっちゃいますよ?」


 何故魔法が外れたかはわからないが、光は無傷だ。

 すぐに次の詠唱を開始しようとしたティアだったが、光の方が早かった。


「『フラッシュ』」

「っ!?う・・・」


 突然の強い光を直視したティアの視力が、一時的に失われる。

 その隙きを見逃さず、光は次の詠唱を始める。


「くっ・・・」


 ティアは攻撃されないように、全ての魔力を全周囲に張り巡らせ、障壁にしていた。

 そして、視力が回復すると同時に走り出す。


「(このままここはまずい。場所を変えなければ!)」

「あら?逃げちゃうの先輩。でも、逃しません。『グリーンバインド』!」

「あっ!?」


 四方から草や木が伸びてティアの四肢を絡め取ろうとした。

 

「っち!!」


 ティアは、杖を足元と身体の周囲に振ると、そこから火が放たれ、草木を燃やす。

 当然、絡みつき初めていたものも燃やしたので、ティアには火傷が増えていく。


「落ち着かせてあげませんよ?『ブレッド』」

「がっ!?魔力をそのまま飛ばしただと!?」


 ティアは戦慄した。

 自らが魔女に教わった魔術、戦術を尽く上回る光の力に。


 肩、足に一発ずつ魔力弾をくらい、ティアは更に撃たれる事を避けるために障壁を張った。


「・・・こんなもんですか・・・な〜んだ!エデンのSランクって言ってもたいした事ないんですね?」

「お前・・・一体どれだけの時間を・・・」

「え?私ですか?私は弟子になって半年ちょっとでしょうかね?なんか師匠が天才だって褒めてくれましたよ?でも比較する人がいないので、どれくらいにいるのかわからなかったんです。でも、今日わかりました。私は強くなっていたんですね。これで・・・これで健流と一緒にいられる・・・ずっと一緒に・・・うふふ。」

「(・・・半年・・・確かに、私よりもずっと魔法の運用が上手い。下手したら魔女を越えるかも・・・しかし、やはり壊れているな。魔女の精神汚染のせいか。あいつ・・・何も変わっていない!)」


 ティアは戦慄した。

 10年とちょっと魔女の弟子をして、その後はエデンに入り数十年に渡り最前線で戦い続けた自分よりも、才能という一点で光は遥かに自分を越えていた。


 事実、光は魔女の精神汚染の効果を無意識に弱めた事もある。

 彼女の魔力との親和性はそれほどのものだったのだ。 


 だが、今はそれは置いておく。

 ティアはその壊れ具合を見て、魔女の悪辣さに歯噛みする。


「あれ?先輩黙ちゃった。どうします?もう止めて一緒に師匠の所に行きますか?」

「舐めるな小娘!!」


 ティアは悲壮な覚悟を固めた。

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