第七章 決戦に向かう夏休み
第93話 救出に備えて
「せいっ!はぁっ!!」
「甘いわ。」
「くっ!?」
現在、健流達は、桜花の家の道場で、桜花を相手に乱取りをしている。
今は灯里の番だ。
「灯里!もっと力の流れを集中させなさい!動く時に自分の身体を、どう力が流れているのか、あなたの眼なら他の人より良く見える筈よ!!漠然と力を使うのではなくて、意識的にしなさい!!もっと早く、もっと力強くなる筈よ!!」
桜花の声が道場内に響く。
「・・・にしても凄いわね桜花さん・・・灯里がまったく歯が立たないわ。流石は異世界の勇者だったってことかしら?」
「・・・だな。詳しく聞いたけど、良く生き延びてたもんだよまったく。流石は姐さんだぜ。」
「ええ。正直、自分だったら帰って来られたかどうか・・・」
現在は8月1日。
終業式から10日程たっていた。
あれから、任務よりも力を付けることを優先するよう、アンジェリカから指示を受けた健流たちは、毎日のように桜花の道場に通っている。
勿論、桜花に都合が悪い日は修行出来ないが、桜花もなるべく健流達を鍛えていた。
そして、初日に龍馬から簡単に力を得た経緯を聞いた事を伝えると、桜花から詳細を聞かせて貰った。
要約してみると、とても常人では生き残れないことがよくわかった。
それは、このようなものだ。
ある日龍馬が次元穴という超常現象で、別の空間に飛ばされた。
その場所は、封印された亜空間で、その中で龍馬は魔神と呼ばれた存在と出逢い、友人兼弟子となり、元の世界に帰るため、時間が流れないその中で数百年に渡り修行し、力をつけた。
封印空間から脱出した龍馬は、桜花の召喚される事になる異世界に出て、元の世界に帰還すること、魔神と、元々の管理者であり、悪い神に裏切られ封印された女神の封印を解くことを目的に、人助けをしたり冒険者として依頼をこなしながら、各国に伝手を作っていき、親交を深め、協力体制を作る。
その中で、助けた人たちが仲間となり、中には人外の存在もいた。
その後を追うように、桜花は異世界のとある国に勇者として召喚される。
その国は、勇者としての力を自分達の為に使おうとしており、背後には悪しき神を崇める教会がいた。
そして、桜花を召喚した国が、龍馬が拠点にしている国に宣戦布告し、国の依頼で桜花がいる国を訪問した際、国を脱出しようとして国と教会に殺されかけていた桜花とその友人と合流した。
そのボロボロにされた桜花の姿を見て、その国は龍馬の怒りを買い、滅ぶことになる。
そして、教会との決戦。
教皇は異世界人・・・すなわち、こちらの世界の者で、龍馬や桜花と因縁があったらしい。
そして、教皇を倒した所で、全ての黒幕である、管理者、すなわち神と呼ばれる存在と邂逅する。
しかし、龍馬の力を危険と思った神にその時は逃げられた上、その神は世界を消去し、自分の都合の良いように作り直そうとした。
だが、龍馬やその仲間たちは、その悪しき神に封印されていた、本来のその世界を管理する女神や、魔神を封印から解き、その神に立ち向かう。
そして、神を
というものだった。
健流たちが思った事は一つ。
「「「(どこのラノベの主人公なの!?)」」」
というものだった。
現在も、異世界とこちらを行き来し、仲間・・・桜花曰く婚約者達と過ごしているそうだ。
そう、驚いた事は2つ。
灯里は既に知っていたが、桜花が既に龍馬の婚約者である、という事と、婚約者達、という単語だ。
当然、灯里や姫乃は噛み付いた。
現代日本の倫理感では、複数の女性とそういう関係になるのは女性軽視と思えたからだ。
だが、それも続く桜花の言葉の、
「私達はみんなかけがえの無い仲間なのよ。共に苦難を乗り越えた、ね。それに向こうはこっちと違い、一夫多妻制だから、あちら基準ではおかしくないのよ。最初は逃げ回っていた龍馬も、それに押し切られたわけね。と、言っても、私も納得しているし、今では誰一人として欠けて欲しくないわ。全員の両親も納得済みだしね。」
という言葉に納得し、何も言えなくなった。
当人たちが納得しており、その家族さえも認めているのであれば、他人に文句を言えるわけがない。
すると、灯里が桜花に、
「あのさ、桜花ちゃん・・・龍馬さんってさ、モテるでしょ?こっちでそれ知られちゃったら不味くない?まさかこっちでも・・・て事は無いよね?」
「・・・」
と言うと、桜花は無言で苦虫を噛み潰したような顔をした。
「えっ・・・まさか・・・」
その反応に灯里が驚いていると、桜花は苦苦しげに、
「そのまさか・・・になりつつあるわね。私達のミスで、騙されて女子と密着してた龍馬をとっちめる為に、全員でクラスの打ち上げ会に乗り込んだ事があってね・・・そのせいで他の生徒にバレて、龍馬がハーレム持ってるって噂が拡散されて、龍馬に本気の人達が自分も参加するって俄然やる気を見せちゃって・・・はぁ・・・このままだと不味いのが、今は三人・・・先生入れて四人かしら・・・」
そう口を開く。
健流達は驚愕する。
三人というだけでも驚きなのに、更にそこに先生が含まれるとは!
「流石兄貴だぜ・・・半端ねぇ・・・男としてすげぇと思う・・・アイタッ!?何しやがる!?」
健流が感心するようにそう呟いた瞬間、姫乃と灯里から頭を小突かれた。
「健流!!あなたはそんな風になっちゃ駄目よ!!」
「そうよ!アンタには私がいるんだからね!!絶対ダメ!!」
「灯里!?あなたこそ何言ってるのよ!健流は私のものよ!!」
「姫乃こそ!!アタシのよ!」
「待て!?何度も言ってるが、俺は俺のもんだろ!?」
「「うるさい!!」」
「なんでだ!?」
鬼のような形相で詰め寄る二人に健流はタジタジになる。
クスクス
笑う声に気づき、その方向を見る三人。
そこには、桜花が口元を押さえて笑っていた。
「私達には逆に無い苦労ね。健流、しっかりとしなさいよ?龍馬の変なとこ真似しちゃ駄目だからね?」
「・・・勘弁してくれよ姐さん・・・」
健流が頭をガシガシと掻く。
そこに、姫乃がおずおずと桜花に問いかけた。
「あの・・・桜花さん、
「何かしら?」
「その・・・桜花さんは本当にそれで良いのですか?三上さんはまだ女性を増やしているのですよね?その・・・私にはそれは・・・」
「女たらしに見えるのかしら?」
「・・・はい。」
言いにくそうに言葉を濁していた姫乃に、笑いながら桜花が答える。
「それは違う、とは言い切れないけれど、龍馬にはね、自覚が無いのよ。女性の心を掴んでいるっていうね。無自覚たらしって奴よ。もうほとんど病気だわ。治しようがない奴ね。仕方がないし、私から離れる気も無いし諦めてるわ。さっき言った、こっちの世界の四人の事だって、龍馬は自分が好かれているのに気づいて無いのよ?ぼっちの自分に優しくしてくれる優しい子達だと思ってたり、親身になってくれる優しい先生だと思ってる。普段は結構厳しい先生なのにね。みんな全身でアピールしてるのに、あいつまだ未だに自分がモテないって思い込んでいるから。」
「・・・そうなんだよねぇ・・・私がアピールしてた頃も、子供がじゃれついてるか社交辞令だと思ってた感じだったしさぁ。超鈍感なんだよね〜。でも、そのクセ、困ってる人がいると助けちゃうんだよ?本人は助けるのは当たり前だと思ってるから、助けられた相手がどう思うかなんて考えてもいないの。厄介よね〜。」
桜花の言葉に、龍馬被害の経験者である灯里がため息をつく。
「・・・筋金入りですね・・・健流、絶対真似しないでね!絶対よ!!」
姫乃は健流を睨みつけてそう言う。
健流はそれを見て、ため息をついた。
「お前なぁ、俺をなんだと思ってるんだ?こんな目つきの悪い元ヤンで、見た目普通の上に特に優しくもねぇ奴が、兄貴みたいなカッケー人と同じになるわけねーだろ?俺、モテた事ねーし。」
そんな事を言う。
その瞬間、姫乃、灯里、桜花がジト目で健流を見る。
「な、なんだよ?」
「「はぁ〜・・・」」
「二人共、頑張ってね。応援しているわ。いつでも相談に乗るわよ。それと健流、ちょっと集合。今から私と乱取りよ。少し痛い目にあいなさい。」
「なんで!?ひでぇよ姐さん!!」
「酷いのはあなたと龍馬よ。あと、姐さんって言うな!!」
ゴチン!!
「ぐえっ!?」
そんな回想を姫乃と共にしていると、灯里と桜花の乱取りが終わる。
「次、如月さん!」
「はいっ!」
修行は着々と進んでいる。
全ては光と充を助け出すため。
そして・・・元凶である魔女を打倒するため。
「(待ってろよ・・・光、充・・・)」
健流はそう思いを馳せるのだった。
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