第85話 崩壊
任務終了後、健流達三人は報告のみアンジェリカにし、帰宅する。
いつも通り悶々とする夜を過ごした健流は、翌日、姫乃と二人で報告に向かう。
灯里は、午前中は部活であった為、詳細報告は健流達に任せたのだ。
「なるほど・・・やはりそうだったか・・・」
アンジェリカは、健流達の報告を聞き、考え込む素振りを見せた。
「長、何か気になる事でも?」
姫乃がアンジェリカに確認する。
姫乃も同じく違和感を感じていたからだ。
「うん、あの後の尋問班の話では、能力者の5人は、ほとんど姫乃くん達と交戦した記憶が無いそうだ。それどころか、アルテミスの姿を確認した段階で、逃走、もしくは降伏しようと話し合っていたようだ。」
「やっぱり・・・何かおかしいと思っていたんです。どうも、ちぐはぐだったというかなんと言うか・・・」
姫乃はアンジェリカの回答に納得を見せた。
だが・・・
「問題は、何故そうなっていたのか、だね。」
「はい。」
アンジェリカと姫乃はお互い頷く。
しかし、この時、二人の間には決定的に違うことがあった。
姫乃には、精神操作系の能力者が背後にいるのか?くらいの考察であった事に対し、アンジェリカは、
「(・・・これは・・・まさか・・・いや、しかしアイツはこんな回りくどいことはしない・・・だが、この粘りつくような嫌な感覚・・・アイツが・・・魔女が絡んでいる?だとしたら目的は?・・・くそっ!情報が少なすぎる!!)」
かなり真実に迫りつつあった。
しかし、現段階の情報では答えは出ない。
二人は、報告を終え、本部を後にする。
「・・・なんかスッキリしないわね。」
「・・・そうだな。」
二人は帰路についている最中、言葉少なに移動していた。
「まぁ、今考えても仕方がない。それよりも、俺も気になることがあるんだ。」
「・・・光の事、でしょ?」
「ああ・・・お前らがおかしいって言ってた意味がわかった。確かに変だ。」
「そうよね・・・健流が気づかなかったのは仕方がないかも。正確に言えば、変なのは私と灯里がいる時だけ、なのよね・・・」
「一応確認するが、お前らで喧嘩してるって事はないよな?」
「ええ・・・無い、筈なんだけど・・・心当たりがまったくないわけじゃ無いのよね・・・」
「心当たり?それは?」
「・・・まだ言えない。それは光の気持ちに関わってくる事だから・・・でも、そうだとすると、おかしい事もあるのだけれど・・・何故あの時・・・気づかなかったのか・・・」
「姫乃?」
「いえ、なんでも無いわ。」
姫乃はかぶりを振った。
どちらにせよ、今考えても仕方がない。
週明けにでも光としっかりと話をしよう。
そう結論付けて帰宅する。
そんな時だった。
LINで光から連絡が来た。
『明日、午前10時、学校前で会える?二人きりで。』
そのメールを確認し、側に居た姫乃と相談、健流だけで会う事に決めた。
何故なら、姫乃は光が告白すると思ったからだ。
そして、それが取り返しのつかない事になる事に、二人は気が付かなかった。
翌日、健流は学校に向かう。
姫乃は留守番していた。
「(光の悩み事・・・上手く解決できればいいんだが・・・)」
そんな事を考えながら、学校に向かうと、そこには光が立っていた。
光は健流に気がつくと、笑顔で、
「おはよう健流。」
と挨拶をした。
「おっす光。(・・・そこまで深刻な感じはしないか・・・)」
健流は光をそう判断付けた、付けてしまった。
「それで、用事ってなんだ?」
「そうだね・・・ちょっと歩こうか。」
そう言って、学校の中に入っていく光。
着いて行く健流。
少しの間、無言が続く。
「健流・・・今日来てもらったのはね?ちょっと確認したい事があったんだ。」
「確認?なんだ?」
「ここに入って。」
「・・・体育用具室?なんで・・・」
「ちょっと人目に着きたく無いんだよね。」
「・・・そうか。」
「どうぞ。」
ドアを開けて健流に入るよう促す光。
健流は中に入っていく。
すると、光は後ろ手に扉を締めた。
健流はなんとなく体育用具室内を見回している。
すると、後ろから衣擦れの様な音が聞こえてきた。
「ん?光何して・・・」
そうして、後ろを振り返る健流。
だが、その言葉はそこで止まった。
「・・・お前・・・何して・・・」
光は服を脱いで下着姿になっていた。
「健流・・・抱いて。」
「はぁ!?お前一体何を・・・」
ドンッ
光は健流に抱きつく。
健流は固まってしまった。
「な・・・」
「お願い。好き、好きなの!ずっと好きだった!だから抱いて!私を健流のモノにして!!」
「!!」
光の想いを聞いてさらに硬直する健流。
「ねぇ?私じゃ駄目?私には何も出来ない、だけど、あなたのしたいことならなんでもしてあげる!だから・・・だから!」
そこまで、聞いて、健流は逆に冷静になった。
正直かなり興奮している。
当然男性的な反応もしている。
だが・・・
「・・・光、離れてくれ。」
「嫌!なんで!?だって、健流のここだって、こんなに硬くなってるのに!!」
「光!!」
ぐいっと光を引き剥がす健流。
「気持ちは嬉しい。だが、俺はこんな風に誰かを抱きたくない!そう言うのは、付き合って、心が通じ合って、それからしたいんだ!だから、今お前を抱くことは出来ない!」
そう真剣な顔で言う健流。
光は俯いていた。
「光、俺は・・・」
「・・・やっぱりそうなんだね。」
健流が今の自分の心について話そうとした時だった。
光が声を発した。
その声は冷たい。
「光?」
「私が何の力も持ってないから駄目なんだね?」
「!?な・・・んで・・・」
光が顔を上げる。
その瞳は、いつもの光の綺麗な色では無く、濁っているように感じられた。
「そっか・・・やっぱりあの人の言う通りなんだ・・・だったら、健流、待っててね?私がきっと力を得て、そして・・・健流を縛り付けるあの二人から解放してあげる。」
「光!待て!なんの事を言っている!?」
光は服を着た。
そして、虚空を見て、呟いた。
「決意は出来ました。あなたの弟子になります。」
『あら、そう。』
「!?」
女性の声が聞こえて健流が驚愕していると、光のすぐ側に闇が集まり、闇が晴れるとそこには、絶世の美女が居た・・・だが、その美女を前に健流は冷や汗が止まらない。
「(なんだこいつは!?ヤバい!!ヤバすぎる!!今すぐ逃げ出したい!!)」
初めての経験だった。
桜花が殺気を放出した時でさえ、そこまで感じなかった。
だが、この美女は、ただ居るだけで健流をそこまで追い込んだ。
「はじめまして。大和健流くん?私は魔女と呼ばれる者よ。」
「ま・・・じょ・・・だと?お前・・・が・・・悪意の・・・塊・・・」
「あら?その様子じゃ知ってたみたいね?まぁ良いわ。さて、光ちゃん、行きましょうか?」
「はい。」
光は魔女の差し出した手を取った。
実は、先日、魔女から手を差し出された時、光は手を取らなかった。
「最後に健流に想いを伝え、それで決めます。」
そう魔女に伝えた光。
魔女はニコリと笑って、
「そう。なら、悔いの無いようにしなさいな。もっとも、あの子は断るわよ?あの二人に縛られているあの子はね。」
「・・・そうであったのなら、その時は・・・」
光は暗い瞳をして呟く。
「私があの二人を殺して健流を救います。」
魔女はニヤリと笑う。
「そう。そうならないと良いわね?」
過去のやり取りが光の脳裏に浮かぶ。
光は健流を見る。
「・・・じゃあね健流。少しの間お別れだね?でも待ってて。きっと私があの二人から、健流を助け出してあげるから。じゃあね?」
「待て!光!!てめぇ!光を離せ!!」
健流は赤いオーラを出して魔女に飛びかかる。
しかし、魔女は微動だにしない。
健流は、魔女の出した障壁で阻まれていた。
「あらあら、中々だけど、まだまだわたくしの障壁を破れる程では無いわね。それじゃあ光ちゃんは預かるわね?『滅びの獣』さん?」
こうして魔女は姿を消した。
光と共に。
「くそ〜〜っ!!!光ーーーー!!」
健流の叫び声だけが体育用具室の中に響いた。
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