第82話 喧騒の繁華街(1)

「・・・この格好・・・」

「良いじゃない。健流似合ってるわよ?」

「そうそう!カッコいいじゃん!!」


 今はエデンの車で任務先に向かっている三人。

 着替えを終え(ひと悶着会ったが)、今はお互いに格好を確認している。

 

 健流は、黒いスーツにネクタイ、ぱっと見て、どこかの組織のボディガードである。

 健流の体格の良さもあって、着られている感は無い。

 むしろ似合っていた。


 姫乃は、深い赤色のドレス。

 どこかの令嬢の様な感じだ。

 とても似合っている。


 灯里は、水色のドレス。

 こちらは、わがままお嬢様といった感じであった。


「まぁ・・・なんでも良いんだが・・・」

「んん!ところで・・・健流・・・何か無いかしら?」

「ん?何かって?」

「・・・ん!」


 姫乃は、両手を広げて健流を見る。

 健流は少し考えてたが、姫乃が格好を評価しろと言っている事は感じられた。


 車の中なので、全身は見えないが、それでも、その格好が姫乃に似合っているのはわかった。

 しかし、それをそのまま伝えるのは照れ臭い健流。


「・・・まぁ・・・良いんじゃないか?その・・・似合ってる・・・と、思うぞ?」

「本当!?ありがとう!!うふふ・・・」

「(・・・こいつ、キャラ変わってねぇか?)」


 あの、気持ちを伝えられて以来、姫乃の態度はこんな風にふわふわとする事が多くなった。

 特にヤバいのは帰宅してからだ。

 健流はいつも、帰宅後、戦々恐々としていた。

 いつ、自分が勢い余って手を出してしまわないか・・・それくらい最近の姫乃を可愛らしいと感じる事があった。


「ちょっと!ヒメノばっかり褒めるんじゃ無い!あたしは!?」

「ああ、灯里も似合ってると思うぞ。」

「えへへ・・・」


 姫乃の態度が少し変わってから、灯里もかなり積極的にアピールするようになっていた。

 二人の気持ちを知っている健流としては気が気でない。


「(姐さんはああ言ったが、それでも早いとこ、自分の気持ちを見定めないとなぁ・・・)」


 この所、健流の頭を悩ませる事の大半は、この事であった。


 そうこうしている間に、時刻は午後7時50分。

 健流達は、目的地であるビル付近まで到着した。


 車から降りる三人。

 付近には酔っ払いや客引き、大学生のグループなんかが一杯居た。


 目的地のビルは目の前だ。

 

「(姫乃も灯里も綺麗だから、変な奴に絡まれる前に入っちまうか。)」


 健流を先頭に三人は堂々と歩いて行く。

 ビルの入口には、チンピラ風の男が二人立っていた。

 こういった雑居ビルは、様々な店が入っている事が多いが、事前の情報通り、ほとんどがダミーで、実際には予備軍の根城となっているらしい。


「おい、見ねぇ顔だがなんの様だ?」


 入口の門番代わりの男が健流に話しかける。


「そりゃ、用事があって来たんだよ。ボスはどこだ?」

「ああ!?てめぇ舐めてんのか!?俺たちはな・・・」

「うるせぇ。」

「ぐほっ」


 ボディブローで男を沈め、そのまま騒ぎそうだったもう一人の顔をアイアンクローで掴み、そのままビルの中に引きずっていく。

 勿論、沈めたもう一人も合わせてだ。


「あがががががががが!?」

「うるせぇなぁ。お前も眠ってろ。」

「がっ!?」


 そのまま側頭部をはたき意識を刈り取る健流。

 そのまま三人は、備え付けの防犯カメラを睨む。

 そして、そこに居るであろう奴らに、大きく口を開く。


「今から行くから待っていろ。」



 一方、その頃、敵は慌てていた。


「おい!すぐに武装の準備をしろ!!カチコミだ!!」

「急げ!あいつら普通じゃないぞ!!」


 ビルに入ってから、一方的に仲間を沈めていく者たち。

 明らかに、見た目は10代だ。

 予備軍傘下のチンピラは慌てている。


「・・・あれは・・・まさか・・・」

「ああ、おそらく・・・」

「・・・どうする?」


 この予備軍の頭とも言える元『牙』の構成員も同じく焦っていた。

 何せ、相手の素性が分かった、分かってしまったのだ。

 

 三人と一緒にいる長い黒髪の女性。

 それは、様々な異能組織に恐れられている『アルテミス』だった。


 まともに戦っても勝てるわけが無い。

 5人の男たちはどうやって逃げ出すのかを打ち合わせしていた。


 しかし、その時だった。


『あらあら?何を腑抜けた事を言っているのかしら?最後まで戦いなさいな。』


 5人の頭の中に声が響く。

 その声は聞いたことが無い。

 だが、あらがい難い響きを持っていた。


『わたくしとこの子の役に立ちなさい。』


 5人は動き出す。

 その目の焦点は合っていない。

 

 彼らはそれぞれ武装して相手を待つ。

 そこに健流たちが飛び込んできた。


『そう、それでいいの。せいぜい派手にやりなさい?この子にもわかりやすくするように、ね。』


 悪意は目と鼻の先にまで伸びていた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る