第70話 混浴 第一夜

「は〜!!食った食った!美味かった!!」


 観光を終え、宿に戻って現在は食事中。

 全員浴衣に着替え、部屋で食事をした後だ。

 

 食事は大変素晴らしく、全員の顔に満足している表情が見えた。


 時刻は現在午後8時頃である。

 宿は、アンジェリカが言ったとおり貸し切り状態で、現在は五人しか宿泊していない。


「じゃ、そろそろ行くわよ。」

「ん?どこへだ?腹ごなしの散歩か?」


 灯里の言葉に小首を傾げる健流。

 そんな健流を見て、灯里は、首を振った。


「何言ってんのよ。温泉よ温泉。準備しなさい。」

「ああ、風呂か。そうすっかな。」

「そうそう、女の子は準備がいるから、部屋でアレコレしてから行くわ。あんたは先に男湯に行ってていいわよ。」

「おう。わかった。そうさせてもらうとすっかな!」


 こうして入浴の準備を始める健流。

 その様子を猛禽のように狙う二人の視線に、健流は気づいていない。



「はぁ〜!!足が伸ばせる風呂って良いなこれ!最高だ!!」


 健流は温泉に来るのは初めてだった。

 今は身体を洗い終わって湯船に浸かり、顔だけ出してまったりとしている。

 のんびりと入浴していると乳白色の湯が健流の身体に染み渡る。


「(にごり湯って奴か?)」


 湯船の中の健流の身体は、湯によって見えない。

 これも、健流には初めての体験だった。


 思えば、エデンに入ってからは激動であり、心身共に疲れが溜まっていた健流。

 温泉でのリラックス効果は計り知れなかった・・・この時点までは。


 ガラガラ


「(ん?誰か入って来たのか?他の客かな?)」


 健流は、まったりしすぎて頭が回っていなかった。

 重ねて言おう。

 今、この宿には、従業員を除けば、健流達五人しかいない。


 ペタペタペタ


 複数の足音が聞こえる。

 しかし、健流は目を閉じて入浴しており気づいていない。

 それが何者達なのかを。


 チャポンッ

 チャポンッ

 チャポンッ


 湯船に身体を入れる音が3つ聞こえた。


「(三人か・・・)」


 健流がそんな事を思っていた時だった。


「ふぅ〜・・・良いお湯ね。」

「ホントね!身体の疲れが取れるわね〜!!」

「・・・ね、ねぇ・・・ほんとに良いのかな・・・?」


 そんな声が聞こえた。


「(ああ・・・姫乃達か・・・)って、はぁ!?」


 ありえない声に目を開けると、ほんのり赤く頬を染める姫乃と灯里、真っ赤な顔した光が湯船から顔だけ出していた。


「おま・・・おま・・・おまえら・・・」


 健流が愕然としていると、灯里が、何食わぬ顔をして、


「ん?混浴するって言ったでしょ?」


と、言い放った。


「はぁ〜!!??マジでするとは思わねーだろ普通!!何考えてんだ!!」


 叫ぶ健流。

 しかし、彼女ら・・・主に二人は剛の者だった。


「健流うるさい。部屋のシャワーで身体洗ってから来たから、別に汚くないわよ?」

「そうですよ?それにあらかじめ言っておいたでしょう?何を動揺しているのです?」


 全然動じていない二人。


「(わわわわわ!二人とも大胆すぎるよ・・・)」


 光は内心動揺していた。

 動揺していたが・・・最終的には決断してここにいる光も同じ穴のむじなだった。


「そりゃ動揺するわ!!年頃の男女なんだぞ!!なんかあったらどうすんだ!!」


 健流は必死に言葉を連ねる。

 移動するように説得しようと試みているのだ。


「何?なんかするの?エッチな事?ドンと来い!!」

「・・・灯里、はしたないですよ。それに、万が一があった場合は、灯里では無く私です。あなたじゃありません。」

「はぁ!?ヒメノ何言ってんの?あたしがするに決まってんでしょ!こちとらもう気持ちも伝えてんのよ!!どっかの誰かさんとは違うんですぅ〜!!」

「(え!?)」


 姫乃と灯里の口論中に聴き逃がせない言葉があった。

 光は衝撃を受ける。

 既に、ライバルは一歩先んじていたのだ!


「(嘘!?まずい!負けられない!!)」


 改めて気合を入れる光。

 そんな光を尻目に口論は続く。


「・・・何の事だかわかりませんし、誰の事だかもわかりませんが、あまり調子に乗らない方が良いですよ?吠え面をかく事になりますから。誰とは言いませんが、例えば私であればあなたよりもスタイルも良いですし、多分男性受けする身体だと自負していますよ?小柄なあなたでは・・・ふっ。」

「(ムカッ)・・・ふーんだ!あたしの方がおっぱいあるもんね!ヒメノのちっぱい!」

「(ムカッ)・・・よろしい!ならば戦争です!!」

「望むところだ!!」


 ザバッ!ザバッ!


 二人が立ち上がる。


「ば、ば、馬鹿野郎!!何立ち上がってやがる!!ここには俺も居るんだぞ!?もうちょっと考えやがれ!!」


 健流は急いで目を閉じる。


「「バスタオルしてるから大丈夫。」」

「んなわけあるかぁ!!」


 目を開けて叫ぶ健流。

 二人の肢体には確かにバスタオルが巻かれていた。

 巻かれていたが・・・濡れて身体のラインがはっきりと見えていた。


 既に、健流の健流は臨戦態勢に入ってしまった。


「(やべぇ!このままじゃ逃げることもできねぇ!!)」


 健流とて、年頃の男の子の上、童貞である。

 刺激が強すぎる今の状況で、テントを張りながら女性陣の前で立ち上がり脱出する事は、流石に恥ずかしくて出来ない。


「(くそっ!こいつら恥ずかしくねぇのか!?タオルは本来湯船につけちゃいけねぇんだぞ!?ちゃんと外せ・・・じぇねぇ!?俺も混乱してる!?)」


 パニックになっている健流。

 しかしそこに更なる追い打ちが!!


「え、えーい!!」


 ザバァッ


「な!?なんで光まで立ち上がってんだ!?」

「私だって負けないもん!!」

「何に!?何の勝負してんだお前ら!?」


 ヒカリは真っ赤な顔で二人を睨みつけている。


「ふっ!光さんも参戦するのね。」

「良いわよヒカリ!かかってらっしゃい!!」


 姫乃と灯里は不敵に笑っている。

 

「だから何の勝負をしてんだよお前らは!!いいから落ち着け!!」


 その時更なる運命の悪戯が起きた。


 ツルッ


「きゃっ!?」


 目の前にいた光が、一歩進もうとして滑ってバランスを崩す。


「危ねぇ!!」


 ザバッ


 健流は立ち上がり光を支えた。


「大丈夫か光?もうちょっと落ち着けよお前らは。まったく・・・」


 そう言って、一歩離れる健流。


「あ、ありがとたけ・・・〜〜〜〜っ!!??」


 突然光の言葉が止まる。

 そして一点を凝視していた。

 それは姫乃と灯里も同じだった。


「ん?どうしたお前ら・・・って!?うわぁぁぁぁぁぁ!?」


 健流は見られてしまった。

 強化状態の健流の健流を。


 一瞬の間。

 そして・・・


「「「きゃああああああああああ!!!」」」

「す、すまーん!!」


 健流は一目散に脱衣所に向かった。



 残された女性三人は、


「み、見ちゃった・・・」

「あ、あんなに大きいの・・・?(おかしいわね・・・昔パパのを見たけど、あんなに大きく無かったような・・・?)」

「・・・健流の・・・健流の・・・健流の・・・あれが?・・・嘘・・・あんなの・・・入れ・・・嘘!?」


 三者三様の感想で、赤面した状態で動けなくなっていた。

 

 この後、入浴を終え、先に戻った健流と部屋で顔を合わせて、地獄のような時間となる・・・

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