閑話 廻里剣術道場にて(2)
木刀を持つ桜花と、無手の姫乃が道場の中央に移動する。
健流と灯里は道場の端に移動した。
「この道場には結界が張ってあるから、そんじょそこらの爆発や力の流れでは壊れないわ。結界が起動したら音も漏れない。思う存分力を振るっていいわよ?」
「結界・・・というのはわかりませんが、理解は出来ました。」
「あなたは得物は無いの?」
「はい、強いて言うなら、戦闘用強化スーツを着込んでいます。」
「なるほど。いざ、尋常に・・・と言いたいけれど、その前に一つだけ。健流、灯里、私の戦い方を良く見ておきなさい。」
桜花が、二人を見てそう言うと、二人は頷く。
「(姐さん・・・あんな
「(桜花ちゃん・・・あたしのライバルで目標だった人・・・桜花ちゃんの力を見定めてやる!)」
健流は『強化』を、灯里は『天啓眼』を発動させて、姫乃と桜花の戦い方を見逃さないようにする。
「うん、じゃあ、始めましょう。」
桜花が姫乃に向き直る。
だらりと木刀を下ろし、自然体だった。
「(舐められてる?まずは小手調べ!!)」
姫乃は視界にある桜花の周囲に、いくつもの風の玉を発生させぶつけようとして・・・
そこに桜花がいない事に気がついた。
「(嘘!?どこに!?)」
「私は全力で来なさいと言ったわよ?次も手加減するような真似をしたら、終わらせるから。」
「!?」
背後から桜花の声が聞こえ、首筋には木刀が添えられていた。
「(見えなかった!?どうやって!?どんな能力なの!?)」
「さあ、仕切り直しよ。」
桜花はスタスタと最初にいた所に移動する。
「ねぇ、健流今の見えた?」
「いや・・・強化してたんだが・・・見えなかった。」
健流と灯里もまた、桜花の動きが見えていない。
「さあ、もう一度かかってらっしゃい。」
「!!行きます!!」
今度は姫乃も遠慮しない。
視界に写る全てを真っ赤な炎で埋め尽くす!
「うわっ!?」
「熱っ!?」
その熱は、姫乃の背後にいた健流たちにも届くほどの熱量だった。
しかし、
ゴウッ!!!!
突然、正面からの豪風が姫乃に襲いかかる。
「くっ!?」
半円形に力場を発生させ、正面を守ると、ビシィッ!と音を立て、力場にヒビが入る。
目の前には、木刀を振り抜いた、火傷一つ無い桜花の姿が!
「!チィッ!!」
今度は質量のある土の槍を10本程生み出し、桜花に飛ばす。
それを桜花は木刀で切り払いながら姫乃に近づいた。
「鉄並みに固めてあるのになんで木刀で!?」
しかし、そんな姫乃の疑問を無視し、無言で駆け寄って来る桜花。
「はあっ!!」
目の前の空間を爆発させる姫乃。
だが、そこに桜花はいない。
「どこ!?」
「ここよ。」
視界を外れた空中に桜花は飛び上がっていた。
「『
そう言って木刀を無造作に3回ほど振る桜花。
姫乃は直観的に危険を感じ、先程よりも硬度な力場を生み出し盾にする。
ドガッ!ドガッ!バキィ!!
何かが力場の盾に当たる音が3回響くと、3回目には力場を突き破り、桜花の技・・・風の刃が姫乃に迫る!
「(やばっ)」
姫乃は咄嗟に短距離転移で、最初に桜花が立っていた場所に飛ぶ。
「あら?転移かしら?でも、そこも私の間合いよ?『ウォーターシュート』」
桜花がそう言って姫乃に手を向けると、その手の平から姫乃の身体ほどの大きさの水球が生み出され高速で飛んでいった。
「何!?きゃああああああ!!」
直撃する水球。
姫乃は水しぶきをあげながら吹っ飛ぶ。
そして、
「姫乃!!」「ヒメノ!!」
健流と灯里が駆け寄る。
「大丈夫よ。威力は弱めたから。」
桜花が近寄ってきた。
「う・・・ん・・・はぁ・・・負けちゃった・・・」
姫乃は衝撃で立てなくなっていただけで、外傷はなさそうだった。
身体をゆっくり起こす。
「・・・完敗です。」
「あなたも強かったわよ。でも、まだまだ強くなる余地はあるわね。頑張りなさい。健流と灯里をよろしくね?」
「・・・はい!」
姫乃が決意に満ちた顔で頷く。
健流と灯里はホッとして、
「・・・にしても姐さん、強すぎねーか?なんだあれ・・・どんな能力だよ・・・」
「そうそう!桜花ちゃんあんなの反則だよ!ヒメノみたいな空間に干渉する能力なの!?」
「違うわ。強いて言うなら・・・人間誰しも持っている力の効率的な運用、かしら。もっとも、最後の水球は、あまりお目にかかれない力でしょうけどね。これ以上は今は言えないわ。」
飄々とそう言う桜花に三人は小首を傾げる。
そんな健流と灯里に桜花が向き直る。
「二人共良いかしら?異能に頼り過ぎるのでは無く、あくまで能力の一つとして使うのよ。そんなの無くても、戦い方次第では、不思議な力を持った相手でもどうとでもなる。相手の死角に移動する運足や、見えないものを気配で察知する方法、これは特別な力はいらないわ。二人共、よく覚えておくように。」
桜花の言葉に、頷く二人。
そして桜花は、今度は姫乃に向き直る。
「如月さんの能力は確かに強力よ。初見殺しと言ってもいい。だけど私には通用しなかった。何故かわかるかしら?」
「・・・正直わかりません。」
「あなたの能力が発動する気配を察知してたの。その気配や殺気で、どの程度の範囲に能力が作動するかが把握できた。後は、あなたの能力は、視界に写るものに作用するとあるように、死角に入られれば当たらないし、隙だらけになる。そこをなんとか出来るようにすれば、もっと強くなれるわよ。」
「・・・ありがとうございます。なるほど・・・」
姫乃は桜花のアドバイスを真摯に受け止めていた。
「さて、それじゃ次は灯里、準備しなさい。」
「え?あたしも!?」
「この際、あなた達に指導してあげるわ。特に健流、覚悟しておきなさい。」
「な、なんで俺だけそんな物騒な!?」
「あなたを見てると、あたしと同じ苦労をするであろう二人が可哀想だからよ。」
「ど、どういう事っすか!?」
「女心をわからない鈍感クソ野郎って事よ。」
「ひでぇ・・・」
この日は桜花の指導の元、遅くまで修練に努めるのだった。
そして前言通り、ボロボロにされた健流は半泣きで自宅まで帰る事になる。
別れ際、桜花が3人に真剣な表情をしたので、三人は向き直って表情を改める。
桜花が、何か大切な事を伝えようとしている事がわかったからだ。
「あなた達、『魔女』に気をつけなさい。」
「『魔女』?」
聞き覚えの無い、いやさ、物語の中でしかしらない存在の名前に、三人は首を傾げた。
「この世界に巣食う悪意の塊みたいな女らしいわ。私も詳しくは知らない。けど、いずれ必ずその悪意をあなた達・・・特に健流に向けられる事になる、だから気をつけるように、そう伝えるように言付かったの。気をつけてね。」
「『魔女』・・・」
健流は、そう独りごちる。
漠然とであるが、健流の放つ赤いオーラ、それが魔女と関係があるように思えた。
こうして、三人は帰路に着くのだった。
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帰路の3人の会話
健「しかし、姐さん半端なかったな。」
灯「そうね・・・何あれ?てんで歯が立たなかった。」
姫「あなたの兄貴分はもっと強いのよね・・・化け物?」
健「おい!兄貴を変な風に言うな!」
姫「それに、健流がなんで私にすぐに見惚れなかったかわかったわ。」
健「・・・どんだけ自信過剰なのかはつっこまねぇが、なんでだ?」
姫「あんな綺麗な人と親しくしてるからよ!悔しい!!腹立つ!健流のくせに!!このドスケベおっぱい大好き男!!どうせ私はそんなに無いわよこの変態!!」
健「何に嫉妬して怒ってるんだお前は!?というかおっぱいとか言うな!!それにお前をそんな目で見てねぇ!!」
姫「見なさいよ!!」
健「なんでだよ!?」
灯「そうか!だから健流はこの可愛い灯里ちゃんに
健「・・・まじでボロボロで疲れてんだよ・・・これ以上疲れさせないでくれ・・・」
姫&灯「「だったら、私(あたし)と桜花さん(ちゃん)とどっちが好みなの!?」」
健「(誰を選んでも角が立つじゃねーか・・・)・・・もう勘弁して下さい・・・」
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