第59話 赤い獣(1)

「健流!駄目!!」


 灯里は目の前にいる健流に叫ぶ。

 今の健流は理性の無い獣と同じ。

 灯里は自分の膝が恐怖で震えるのを感じた。


「(違う!これは健流だ!あたしが健流に恐怖を抱いちゃ駄目だ!!)」


 灯里は再度、自らの丹田に気合を入れる。

 しかし、灯里を目の前にしても、健流は止まらない。


「があああああああっ!」


 健流は、灯里に向かって拳を叩きつけようとした。

 

「健流!!」

「がぁ!?」


 灯里は、瞬き一つせずに健流の目を見据え、自らの気を叩きつけるように叫んだ。

 すると、健流は拳を灯里の顔の直前で止め、仰け反る様に止まる。


「あ・・・か・・・り?」


 健流の目に理性が戻る。

 灯里はそれを見て安堵した。


「(よし!戻ってる!これなら!!)」


 灯里はもう一度健流に叫んだ。


「あんたが怒るのはわかる!あたしだって怒ってる!でも、今はヒメノを助けるのが先決でしょ!?ここはあたしが引き受けるから、あんたは先に行きなさい!!」


 健流は、灯里の言葉に、顔に手を当て、頭を振った。


「う・・・?俺は何を・・・?って確か、敵を・・・そうか!!怒りにまかせて敵を殺して・・・」


 健流は、自分が敵とはいえ、人を殺したことにショックを受けた。

 でも、それも一瞬の事だ。


「それは後でいい!!今はヒメノでしょ!!きついなら一緒に支えてやるから早く行けぇ!!」

「!!すまねぇ!!」


 灯里の気迫に、健流は人を殺めた事に落ち込みそうになるのを止め、駆け出した。

 灯里は、それを見届けて、ベンジャミンに向き直る。

 ベンジャミンは、逃走しようとするも、ドアの前に健流が叩きつけた強化兵がめり込んでおり、すぐにはまともにドアは開かない事を悟り、まずは灯里を排除しようと考えていた。


 しかし、そんなベンジャミンと異なり、灯里は心の中では別の事を考えていた。


「(良かった健流が元に戻って・・・でも、あれは多分一時的なだけ。もし、ヒメノがホントに何かされていたら・・・多分もう止められない・・・おそらく、罪もない一般人ですら殺すかもしれない。その時は・・・あたしが健流を・・・)」


 灯里の天啓眼は、本質を見抜く。

 その想像は当たっている。

 現に、健流の身体からは、未だに赤いオーラが出たままだった。

 怒りの炎も、胸の内に燃え盛っている。

 灯里の身を捨てるような献身で、引っ込めただけであった。 


「(健流の異能・・・あれは本当に異能なの?なんかあたしやヒメノ、今まで戦ってきた敵とは違う気がする・・・それがなんなのかからないけど。)」


 灯里は、ベンジャミンに刀を構えながら考察していた。

 しかしそれも、ベンジャミンの、


「・・・ふぅ。あのわけのわからない奴の相手をせずに済んだか。さて、これは今回の計画は失敗かもしれんな。叱責されるかもしれんが・・・お前を殺して、さっさと撤退させて貰おうか。」


その言葉に、現実に引き戻された。


「何言ってんの。逃がすわけないでしょ?ここからはあたしが相手をしてやるわ。そう簡単に勝てると思わないことね!あたしだって怒ってるんだから!!」


 ベンジャミンを睨みつけながらそう言う灯里。

 ベンジャミンは面倒くさそうにしながらも、そこは歴戦の戦士、すぐに表情を切り替え、真剣な表情になる。


「・・・ふん。口だけは達者な奴だ。ギガンテス幹部『硬化』のベンジャミン。貴様を殺す名だ。」

「幹部・・・相手にとって不足なし!エデン『天啓眼』の灯里よ!参る!!」


 そうして、二人の火蓋は切って落とされた。



 健流は、ドアや、立ちはだかる敵をぶっ飛ばしながら、建物の奥に向かう。

 全て、荒っぽく蹴破ったり殴ったりしているので、轟音が鳴り響いている。

 

 そんな状況で、健流は自らの身体に異変を感じていた。


「(・・・なんだ?いつも以上に強化されてる気がする・・・なんか身体から赤いの出てるし・・・まぁいいや。強くなる分には問題ねぇ。それよりも・・・姫乃!今助ける!!)」


 まもなく、建物奥の最後の部屋だ。


 ドオン!!!

 ドアを蹴破る。


「姫乃!どこだ!!助けに来たぞ!!」


 健流が叫ぶと、そこには・・・下着姿で、鎖に繋がれ、前田に組み伏せられていた姫乃がいた。


「健流!!」


 泣きながら叫ぶ姫乃の顔を見た瞬間、


 ブチィッ!!


 健流は頭の中の何かが切れるのを感じた。

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