第58話 突入

 健流と灯里は、桜花という女性に示された方向にひた走る。


「・・・ねぇ健流。」


 そんな中、灯里が健流に話しかけた。


「なんだ?」

「桜花ちゃんの・・・あれって・・・」


 灯里が話しかけた内容、それは、奇しくも健流が考えている事と同じであった。


「・・・異能・・・なんだろうか。」

「・・・あたしね、ちょっと違うと思うんだ・・・」


 しかし、その考えの中身までは少し違っていたようだ。


「なんでだ?」


 健流は、疑問に思い聞き直す。


「勘かな。」

「・・・お前の勘なら当たりかもな。まぁ、落ち着いたら聞いてみるとするか。教えてくれるかどうかはわからんが・・・」

「・・・でも、桜花ちゃんがあんな力を持ってるって事は・・・もしかして・・・」

「兄貴か?」


 灯里の疑問、それは、桜花と恋人同士である、健流にとっての兄貴と慕う者も、同様になんらかの力を持っているのではないか、というものだった。


「うん。あの二人、行方不明だった時があったでしょ?もしかしてその時に何かあったのかなってさ。」


 灯里が言う通り、彼女らは、少しだけ、行方不明だった事があった。

 公式的には痴話喧嘩による家出となっていたが、それも今では疑わしい。


「・・・ありえる話だな。」

「とにかく、今度聞いてみよう。それにもし仲間になってくれたら嬉しいよね。桜花ちゃん、すっごく強そうだったし。」

「・・・そうだな。っと、見えてきた。あれだな。」


 二人の眼前に廃工場のような大きな建物が現れた。


「どうする?」

「決まってる。殴り込みだ!」

「そうね。もうバレてるだろうし。」


 この時の二人の予想は実は外れていた。

 実際には、あの部隊はそんな事が出来る状態では無かったのだ。


「よし!行くぜ!!」

「うん!」


 健流は『強化』を発動して、灯里は抜刀して健流に追随して走る。

 建物周辺には見張りがおり、二人に気づいた。


「なんだ!?」

「誰だ!?足止め部隊は何をやっていた!?」


 侵入者の可能性など、ほとんど無いと思っていた見張りは、突然の乱入者に狼狽する。


「おらぁ!!」

「はっ!」


 健流と灯里はそれぞれ、見張りに走りより、一撃で沈黙させた。

 この時、二人に優位に働いていた点が一つだけあった。

 

 それは、足止め部隊・・・すなわち、桜花という女性が相対している小隊に多めに人数を裂き、こちらには小隊ほどの人数が詰めて居なかったのだ。


 敵を排除し、すぐに二人は建物の入り口から侵入する。

 

「なんだ!?」

「うわっ!?」

「どけコラァ!!」

「敵襲!!ぐわっ!?」


 健流と灯里は通路を走り、目につく敵は排除していった。

 そして、大きなスペースのある部屋に出た。


 そこには、大柄な服装の違う男と、20名程の強化兵がいた。


「これはこれは・・・アルテミスの救出にこんな若造が来るとは・・・いや、待てよ?こいつらは囮か?おい!すぐに施設内を確認しろ!こんなガキどもはすぐに排除しろ!」


 大柄な男が、強化兵に合図をする。

 5名程がその場を離れるのを見てから、大柄な男は健流たちに向き直った。


「おい!あいつはどうした!!」


 健流は、その男・・・ベンジャミンに問いかけた。

 すると、ベンジャミンは嘲笑しながら、


「ん?アルテミスか?それなら、お前らのお仲間・・・裏切り者の『疾風』と、今頃お楽しみだろうよ。『疾風』はあの娘にご執心のようだったからな。異能を封じられているから抵抗もできまいよ。今まであの娘に散々こちらの計画を邪魔された我々にはいい気味だとしか言えんがな。フハハハ!!!」


 ベンジャミンが笑いながら大声でそう言う。


「な・・・に・・・?」

 

 健流はそれを聞き、怒りが限界を越えようとしていた。

 胸の奥に沈めた筈の怒りの炎、これが一気に巨大な炎に姿を変えたようだった。

 そして、それは・・・健流の四肢に繋がる鎖を焼け落とすような幻覚を覚えさせた。


「なんだ?別に気にする事はないだろう?お前はすぐに死ぬのだから。」


 健流は俯いている。

 しかし、それを見た灯里の背筋に氷柱が入れられたようにゾッとした。

 健流の身体から、赤い何かが溢れて来ていた。

 灯里にはそれが良いものには思えなかった。


「て・・・め・・・え・・・ら・・・」

「!?健流!?駄目よ!」


 思わず灯里は健流を制止する。


「てめぇら!!一人残らず殺してやる!!!」

「健流!!駄目!!」


 しかし、灯里が止める間もなく、健流は飛び出した。

 その速度は、天啓眼を発動している灯里ですら追えないほどだった。


 ドオン!!


 ベンジャミンの隣にいた強化兵が、健流に殴りつけられ、部屋の壁まで吹き飛ばされ、めり込んでいた。

 壁には血しぶきが舞い、叩きつけられた男は間違いなく絶命していると思われた。


「な・・・に?」


 ベンジャミンは呆然としている。


「がぁぁぁぁぁぁ!!!」


 健流は、荒れ狂う獣の様に、赤いオーラを発しながら、その場にいた強化兵に襲いかかった。

 

「ぎゃあああああ!」

「ああああああああ!腕が!腕がアアア!!」

「ああああああ!?げぇ!!」


 ある者は腕を引きちぎられ、ある者は足をちぎられ、首の骨を折られた。

 絶命している者も多数いる。


「な、な、なんだ?どいう事だ?」


 ベンジャミンは、これまで様々な能力者を見てきたが、理性が無い獣の様に暴れまわる能力者など見たことが無かった。

 明らかに普通とは違う。

 

「(・・・こいつは危険だ!・・・撤退するか?)」


 ベンジャミンは自分が健流に負けているとは思っていない。

 しかし、明らかに常軌を逸している健流を見て、万が一を考えてしまった。


 そんな時だった。


「健流!駄目!!」


 壁に突き刺さり、動けなくなっている強化兵に、止めを刺そうと飛びかかった健流の前に灯里が立ちはだかった。

 

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