第57話 桜花という女性

 その女性は、セーラー服を来ていた。

 長いサラサラの黒髪。

 凄まじく整った顔。

 モデルの様にスラッとしているのに、ふくよかそうな胸。

 美少女から美女へと変貌を遂げている最中である事がよく分かる容姿。

 

 この様な山中に居るのが、不釣り合いな存在だった。

 その存在に、敵は驚き、動きを止める。


 そして、健流と灯里は驚愕した。

 何故なら、この女性は二人が良く知っている女性だったからだ。


「な、なんで・・・こんな所に姐さんが・・・」

「桜花ちゃん・・・?」


 それは、健流が姐さんと慕う女性で、灯里にとっては従姉妹であった。


「久しぶりね二人共。後、健流、姐さんって言うな。」

「イテッ!?」


 健流は頭を小突かれていた。

 その事実に驚く健流。

 何故なら、距離は20メートル位あったにも関わらず、目を離していない筈なのに、一瞬で健流の目の前にいたからだ。

 健流の目ですら追い切れなかった。

 しかし、健流はその事に気づけなかった。

 あまりの想定外な事に、頭が回っていなかったのだ。


「ひでぇな姐さん・・・ってそんな事より逃げてくれ!ここは危ねぇ!」


 健流のその言葉に、灯里も我に返る。


「そうよ!桜花ちゃん、なんでこんな所に一人で居るのか知らないけど、早く逃げて!」


 健流と灯里は、状況を思い出し焦った。

 何故なら、桜花と呼ばれた女性は、異能を持たぬ一般人の筈だ。

 こんな所に居たらどうなるかわからない。

 健流と灯里も、この人数相手に、桜花という女性を守りきれるかわからなかった。

 

 そんな三人の様子を見ていた敵部隊の指揮者は、驚愕も収まり、すぐに指示を出す。


「・・・誰だか知らんが、その様子では無能力者の一般人のようだな。おい!かまわんから始末しろ・・・というのも、もったいないか。出来れば確保しろ!上玉だ!俺たちで飼うぞ!」

「おっ!部隊長話せるじゃねーか!」

「あんな上玉見た事ねぇ!これは楽しみだ!」

「あー早く犯りてぇ!あの綺麗な顔が歪むのが今から堪らねーな!」


 口々に下卑た言葉を発する敵部隊に、健流と灯里は怒りをあらわにし、


「てめぇら・・!!んな事させるか!!」

「そうよ!その前にあんた達をぶっ飛ばしてやるんだから!」


と叫んだ。

 しかし、


 ゴチン!

 ゴチン!


「痛ってぇ!」

「あいた!?何するの!?」


 そんな二人の頭に拳骨を落とす女性。


「あなた達は、やるべき事があるのでしょう?状況に流されない!私の事は良いから、さっさと行きなさい。友達を助けに行くのでしょう?」

「えっ!?なんでその事を姐さんが・・・」

「場所は、あっちの方向にまっすぐ進んだ所にある建物内よ。さっさと行く!」

「ま、待って桜花ちゃん!どうして・・・」


 何故か事情を知っている女性に狼狽する二人。

 しかし、それよりも、


「おいねーちゃん、俺たちが黙って行かせると・・・」










。」

「!?」


 桜花という女性から、凄まじい殺気が放たれる。

 付近の森からは、一斉に鳥が木から落ち、小動物が気絶した。

 その殺気は、敵の動きを完全に阻害し、動けなくしていた。

 声を発する事すら出来ない。


 彼らには見えた筈だ。

 一歩でも動けば、命が無くなる幻想が。


 そして、それは健流と灯里も同じだった。

 桜花という女性からの、あまりにも膨大な殺気に、動けなくなってしまった。


「(なんだ!?なんで姐さんがこんな・・・)」

「(嘘!?何これ!?桜花ちゃんいったい・・・)」


「やれやれね。屑はどこの世界でも言うことは同じだわ。ほら、あなた達はさっさと行きなさい。どうせ、あいつら動けやしないんだから。」


 ポンっと肩を叩かれると、硬直から解かれ、二人はへたり込みそうになる。

 そんな二人を見て、桜花という女性は、


「二人共、頑張りなさい。」


 そう言って微笑んだ。

 その顔に少し呆然とした二人だったが、


「・・・健流、行こう?」


と、灯里が健流に言った。

 その言葉に健流は狼狽する。


「えっ!?だ、だがよ・・・姐さんが・・・」

「多分桜花ちゃんは大丈夫。そんな気がする。」


 灯里が、確信を持ってそう言う。

 桜花という女性はその言葉に頷いた。


「その通りよ。早く友達を助けてあげなさい。それと、無事に帰って来ること。良いわね?」


 健流も覚悟を決める。


「・・・わかった。姐さん、ここは任せます。」

「ええ、任されたわ。それと健流、何度も言わせないで!姐さんって言うな!」

「ひっ!?は、はい!姐さん!」


 気をつけをして引きつった顔でそう言う健流に、桜花という女性はため息をついた。


「はぁ〜・・・あなた、全然わかってないじゃない・・・まぁ良いわ。ほら!」


 桜花という女性がしっしっと手を振って、二人に離れるように促す。

 二人は頷きあって走り出した。


「・・・頑張りなさいよ。灯里・・・健流。」


 そして、桜花という女性は男たちを振り向く。

 未だ彼らは動けない。

 桜花という女性はまだ殺気を収めていないのだ。

 ピクリとでも動けば猛獣に捕食される、そんな気分だった。

 

 そのせいで、会敵した事も、建物にいる本隊に報告出来てはいなかった。


「さて・・・悪いけど、私はあの子達ほど優しくないの。悪いけど、ここで死んで貰うわね。あなた達は生きていても碌な事しなさそうだから。」


 桜花という女性が一歩踏み出す。

 指揮官の男は、ガタガタ震えながらも、なんとか口を動かし、


「な、な、何を言ってる・・・武器も持たずに、一個小隊に勝てるわけ・・・」

「あら、それが遺言?」


 その瞬間、女性の姿が消え、指揮官の後方にいた。


「・・・は?」


 知らぬ間に、指揮官の首が切り飛ばされ宙に舞う。

 そして、切り飛ばされ、薄れゆく意識の中で、指揮官が女性を見ると、女性は何故か手に刀を持っていた。


「(・・・どこ・・・から・・・?)」


 指揮官の意識はそこで途絶えた。


「時間がもったいないからどんどん行くわよ。せいぜい神に祈っておくことね。まぁ、どうせ地獄行きだろうけど。」


 そして、また女性の姿が消える。


 強化兵も、狙撃の為に隠れていた者も、異能を所持していた者も、何も出来ず、ただただ物謂わぬ躯に姿を変えていく。

 

 そして、気づけば最後の一人。

 その男は絶望して女性を見ていた。

 既に涙が溢れ、失禁し、身体の震えは止まらない。

 カチカチと歯を鳴らしながら、なんとか言葉を発する。


「ば、ば、化け物・・・」


 そう言われ、女性は不服そうに、


「あら失礼ね。こんな可愛い女の子なのに。」


と言った。

 

 男には理解できなかった。

 何故自分たちが、壊滅しているのか、何故こんな事になったのか、この女は何なのか。


「お前・・・一体なんなんだ・・・」


 女性は少し考え口にした。


「私は廻里桜花・・・通りすがりのただの元勇者よ。」


 女性のその言葉の意味もわからず、男の意識は暗転する。

 そして、その男も他の者の仲間入りをした。


 すでに、女性以外に立っている者はいなくなっていた。


「私に出来るのはここまで。後は頑張りなさいよ。」


 女性は何かを操作する。

 すると、女性は風のように消えた。


 そこに残るのは、数多くの躯だけだった。



**********************************

という事で、出てきました。

スペシャルゲストの廻里桜花さんです。

圧倒的な戦闘力を持つ彼女は何者なのか。

元勇者とはどういう事なのか。


もし、前作を読まれていない方がいらっしゃったら、前作「勇者ではありませんただの迷子です」に目を通していただけたら、詳細がわかると思います。


ちなみに、どういう経緯で手助けする事になったかは、前作のアフターでする予定です。

こちらでは、アンジェリカの伝手が、彼女らだったという事位しか触れません。

もっとも、健流や灯里も気になるでしょうから、閑話あたりで、桜花と簡単なやり取りはするでしょうけれど(笑)


そして、出演した理由については、向こうで語られる事になります。

今回の件、何故『神託』が降らなかったのか、も、そこに書く予定です。

一応、雑談として、こちらでもアンジェリカに語らせるつもりですが・・・要約されたものになるかと。


何故こちらで書けないのかも、一応、事情はしっかりとあります。

こちらでのエンディングには直接的には関係の無いようにするつもりですが・・・どちらも知っていると、裏がわかるようにする予定です。


勿論、読まなくても問題はありません(笑)

より楽しみたい方がいらっしゃったら、稚拙な作品ですが、お暇を潰していただけると。




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