第42話 灯里の救出後

 戦闘後、サポート班が来て、敵の回収と、研究員の救出をし、本部に向かっている。

 そう、本部である。

 これには事情がある。

 無事救出した姫乃が、アンジェリカに報告の電話をした際、


『友人の子が異能に目覚めたんだって?だったらその子も連れて来なさい。』


という指示があり、姫乃が確認すると、灯里も了承したため、その運びとなった。

 車中では、灯里はとにかくテンションが高く、


「健流もヒメノも異能を持ってるの!?どんなの?」

「なんか組織とかって凄い!」

「バイトってこれだったのか!あたしもする!」

「これならあの子に勝てる!見てろよ〜!」


と、ただひたすら喋り続け、健流と姫乃を閉口させていた。

 しかし、これも途中から変わった。

 姫乃が、研究員の女性に質問した事からだ。

 それは、攫われた事への心当たりを問いかけた時だった。


「・・・私は、現在極秘の任務中でした。実は・・・異能が付与された武器が一つ紛失しているのです。

「なんですって?」

「そして、それを管理する部署のトップが、秘密裏に措置するために、私に調査の任務付与をしていました。」

「・・・それ、長は知っているの?」

「・・・わかりません。けど、私は上司に口外するなと言われましたので・・・もしかしたら知らないのかもしれません。」

「・・・なんてこと・・・」

「ですが、こうなった以上、お話する他無いと思っています。」

「そうすると・・・まさか・・・スパイがいる?」

「おそらく・・・そうでなければ、私がエデンの研究員であることは、わからないと思います。」

「そうよね・・・きな臭くなってきたわ。」


 そうしている内に、本部ビルに到着した。

 すぐに4人はアンジェリカの執務室に通される。


「はじめまして。廻里灯里さんだね?ようこそ『エデン』へ。」

「・・・はじめまして・・・て、なんであたしの名前を・・・それになんで子供が?」

「ああ、こう見えて私は数百年を生きているからね。」

「数百年!?」

「それよりも・・・君の名前を知っていた理由を話そうか。大和くんと姫乃くんがエデンで働いている事は聞いてるかな?」

「はい。さっき聞きました。」

「うん。それなら簡単だ。一応『エデン』は秘密組織だ。だから、交友関係にも調査が入る。それに・・・君の場合はちょっと特殊でもあるが・・・」

「特殊?」

「ああ、私の異能は『神託』と言ってね?神様から直接情報を貰えるのさ。」

「へ〜・・・って神様!?本当にいるんですか!?」

「まぁ、世間でいう神様かどうかは別として、いるにはいるよ。そして、私達はその神託に沿って行動しているんだ。その神託に、君の事があった。あの場を見せれば、君に異能が目覚めると・・・」

「・・・そっか・・・それで研究員の女の人が私をおぶって・・・」

「そう、それは私が指示したんだよ。」

「そうだったんですね・・・」

「それで、どうする?」

「どうする・・・って何のことです?」

「君は、異能に目覚めた。姫乃くんの命名の『天啓眼』というね。それで今後どうするのかって事だよ。組織に所属するも良し、勝手気ままに生きるも良しさ。但し、その能力を悪用するつもりなら、私達の粛清対象になる可能性があるけどね。」

「・・・・・・」


 そこで、灯里は真剣に考え始めた。


「あのな・・・灯里。ここで働くって事は危険だって事で・・・」

「健流。そんなのわかってる。私が知りたいのは一つだけ。私が入ったら、健流を助ける事が出来ますか?」


 灯里はアンジェリカを見る。

 アンジェリカは、頷いて、


「勿論だとも。それに、色々と組織としても、金銭面なんかで手助けする事も出来る。実際に、大和くんも姫乃くんも居住から生活費、学費もこちらで出しているからね。」

「・・・なるほど。」

「あと、君の場合は親御さんの許可もいる。どう説明するかも合わせて考えないといけないし・・・もう一つあるけど、そちらは私が対応する。」

「もう一つ?」

「それは・・・すまない。説明出来ないんだ。でも、それをおろそかにしたら、多分エデンは崩壊するだろう。それくらい危険な相手なんだ。」

「・・・それなら、俺が行こうか?」

「長、健流が行くなら私も行きますよ。私達ならどんな相手だって・・・」

「絶対に、駄目だ。」


 アンジェリカの厳しい表情に、思わず息を飲む三人。


「勝つ、負けるとかいう相手では無いんだよ。戦ったら破滅が待っている。そういう相手なんだ。既に、今回の件で頭を下げに行くことにしているので、その際に、もし、君がエデンに入るのであれば、相談して見ようと思っている。・・・今から胃が痛いよ・・・」


 アンジェリカの表情が歪む。 

 健流達には何があるのかまったくわからない。

 しかし、物理的にどうこう出来ないというのは伝わってきた。


「・・・入ります。」


 灯里は、表情を真剣にして、アンジェリカに告げた。


「私は、自分の気持ちに気づきました。なら、それに向かって最善を突き進むだけ。だから、その為にも入ります。」

「・・・そうか。歓迎しよう。ただし、君の場合は、学校生活も色々あるだろうから、応援要因とさせて貰う。要は、参加できる時は参加してもらう、という事だね。」

「はい。ありがとうございます。その方が、私も助かります。」


 そして、灯里は健流と姫乃を見て笑った。


「これからよろしく!健流!」

「・・・ああ、よろしくな灯里。」

「ヒメノ!負けないからね!」

「灯里さん。よろしく。何の事かわからなあけど負けないわよ。」


 そう言って握手して笑顔でにらみ合う二人。


「おやおや・・・これは・・・」

「面白くなって来ましたね・・・」


 そう言ってアンジェリカとクリミアは微笑む。

 そして、


「それではこの件は終わりだ。大和くんは廻里くんを連れて、本部を簡単に案内してくれたまえ。姫乃くんは今回の件の詳細を報告して欲しい。」


 健流と灯里は出ていく。

 そして、本題が始まった。

 姫乃と研究員の女性は、詳細を説明する。

 その内容に、アンジェリカとクリミアは、表情を険しくして、すぐにどこかに内線を入れた。


 10分後、部屋に一人の男が入ってきた。

 でっぷりと太った40代の男だった。


「これは長・・・どうされま・・・」


 そこまで話した所で、近くに女性研究員がいたのに気づき、言葉を止め、顔色を青くする。


「堺。どうなっている。何故紛失をすぐに報告しなかった。」

「そ、それは・・・」

「今回、この子は攫われた。情報が漏れている。完全に後手に回ってしまった。お前・・・どう責任を取るんだ?」


 アンジェリカから凄まじい圧力が放たれる。

 それは、姫乃をして息を飲ませる程のものだった。


「あ・・・あ・・・」


 男はへたり込み震えている。

 アンジェリカは、圧力を弱めた。


「全て話せ。隠し事は許さん。その後、貴様の処分を決める。」


 アンジェリカはそう言い放つ。

 子供の様に見えても数百年を越えるもの。


 その力は、他に比肩する者は組織にはいない。

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