第41話 天啓眼

「・・・異能が目覚めただと?・・・馬鹿な事を・・・仮にそうであったとしても、すぐにこの俺に勝てると思っているのか?思い上がりも甚だしい。」


 逃げる為に様子を伺っていた『牙』構成員の男は、話を聞いていて自分の戦闘する相手が、攫ってきた灯里に変わった事に、安堵していた。


「(・・・このままアルテミスやあの小僧を相手にするのは分が悪い。ここは一先ず小娘を人質に取り、離脱するのが最善・・・さっさと終わらせるとしよう。)」


 そこで灯里に向き直る。

 灯里は、相手の体勢が整ったとしてナイフを構える。

 その構えは、ナイフの構えというよりは、剣術の構えだった。


「準備は出来たみたいね。よくも色々やってくれたわね。きっちりシメてあげる。」

「・・・ほざくな小娘。俺は『牙』の第2師団第3戦闘部隊隊長『念動』のリー・ガンメイ。殺してやる。」

「出来るものならやってみなさい。あたしは廻里流剣術の廻里灯里よ。尋常に勝負!」


 灯里はそのまま前傾姿勢で走り出す。


 リーは手を灯里の方に翳した。


「吹き飛べ!」


 その瞬間、リーの近くに落ちていた石が浮き上がり、灯里に飛んでいく。

 数十の石礫。


 灯里は、大きくサイドステップをし、その全てを躱しながら近寄る。


「ふん!近づかせると思うか!」


 リーは、2メートルほどの距離まで接近した灯里を、全周囲に力場を発生させ弾き飛ばそうとした。

 しかし、灯里はバックステップで、その力場のギリギリまで下がって躱した。


「(むっ!?・・・偶然か?)」


 そのままでは、再度ナイフの間合いまで近づかれてしまう。

 リーは、サイコキネシスで灯里のナイフを持つ腕をねじ切ろうとした。


 すると、灯里はサイドステップでその範囲から逃れながら踏み込んで来た。


「何!?」


 灯里が間合いまで踏み込み横薙ぎをした。

 

「くっ!?」


 リーは腕に切り傷を作り上がらもなんとか躱し、そのまま灯里のいる方向に手を向けた。


「死ね!」


 灯里のいる方向に、灯里の全身を包めるほどの力場を、弾丸の様に飛ばす。

 灯里は更に加速してその範囲から出て力場を躱した。


「ぐっ!やはり偶然ではないのか!!どうなっている!?」


 狼狽するリー。

 その反対に、灯里は落ち着いていた。


「(身体が軽い・・・そしていつもより速度を出せている。身体能力が上がっている?それよりも・・・)」


 金色に光る灯里の目には、リーの生み出す力場がしっかりと見えていた。

 

「(・・・よし、こいつの攻撃を利用して、自分の能力の把握に使おう。)」


 何度も飛んでくる力場を、余裕で躱していく灯里。

 

「・・・すげぇ。」

「・・・あの子には、敵の攻撃が全て見えているのね。でも・・・それだけじゃない?」


 感心する健流と、考察する姫乃。


「(・・・なんとなくわかる・・・こいつの力は、基本的に一つの動作しか出来ない・・・だから、攻撃が防御を兼ねる事はあっても、攻撃と防御は同時に発動は出来ない。だったら・・・狙いはカウンターね。)」


 灯里に目覚めた能力。

 それは、見えないものを見るだけでは無く、どのような能力かも漠然と把握出来ていた。

 しかし、その本質は違う。

 能力把握は大詰めを迎えていた。


「くそっ!馬鹿な!この俺が能力に目覚めたばかりのガキに!」


 リーは焦っていた。

 リーのサイコキネシスは本来強力な能力だった。

 見えない攻撃は間合いを測り難くし、種類もわからない。

 攻撃すら力場で弾く事ができ、防御も万全だ。

 

 しかし、灯里には通用しない。

 わば、天敵のような存在だった。


「(そろそろ能力も把握できた。こちらからも攻撃しよう。さて・・・カウンターを狙うにしろ、どうする・・・ん?)」


 その時、コマ送りの様に、リーの手がこちらに向けられるのが見えた。

 そして、そこから飛んでくる力場も。

 躱そうとサイドステップしてリーを見ると、腕をあげようとした所で、サイドステップが尖すぎて、私を見失ったのが見えた。

 

「(今のって・・・)」


 検証の為に再度集中する。


 すると、リーの側に落ちている石が浮き上がって、こちらに飛んでくるのが見えた。

 今度は回り込む様に走り出す灯里。

 リーを見ると、石はまだ膝ほどに浮き上がったままだった。


「(やっぱり!間違いない!これ、数秒先が見えてる!)」


 これこそが灯里の真の能力だった。

 未来視。


 灯里の能力は、言うなれば、本来持ち得る灯里の鋭い勘が、更に強化されたようなもので、先ほどからリーの能力を看破したり、攻撃を躱したりしているのはその恩恵だった。

 そして、直感が導く映像が、未来視の元になっていたのだ。


「(それなら!)」


 灯里は勝負を決めるべくまっすぐに突っ込む。


「焦ったな!馬鹿め!」


 リーは正面に大きな杭のような力場を生み出した。

 これはリーの切り札で、手を翳したりもしていない。


 基本、中・遠距離型の能力のリーには、近距離戦闘の相手はほとんど突っ込んで来る事が多いので、対人戦闘の為に生み出したリーの切り札だった。


「(串刺しになれ!)」


 灯里はまっすぐ突っ込み・・・先端が触れそうになる瞬間、半歩前に出て身体をずらしながら距離を詰める。


「なっ!?」

「甘いわね。」


 冷たくそう言ってナイフの間合いに入ると、そのまま、


「廻里流剣術 烈!」


 ナイフを反転させ、峰で頭部を打ち据える。


「がっ!?」


 頭頂部から股間まで衝撃が走り、リーはそのまま気絶し倒れ込んだ。


「ふぅ・・・」


 灯里は息をつく。


「・・・勝ちやがった。」

「・・・全てを見通す目・・・さながら天啓眼てんけいがん、と言ったところかしら・・・凄いわね・・・私なら・・・」


 健流は呆然としている。

 姫乃も、能力についての考察を終わり、今度は自分が戦った時のシュミレーションをしていた。


 灯里は、健流に向き直る。


「健流!どう!?勝ったよ!」

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