お嬢様、少しは僕の話を聞いてください!!

香田

第1話 待ってください、お父さん

コードゲームズといえば、ここ2、3年で急成長したゲームメーカーの名前である。

信じられないことに、その会社の社長は僕の父親であり、僕はあっという間に有力企業の御曹司になった。

何個も穴のあいた靴下を履いて過ごしていたのが嘘のように、今では大きなお屋敷で使用人に世話をして過ごすようになったなんて。

でも僕の貧乏癖はまだ抜けない。

床に落ちたものでも3秒ルールどころではなく普通に食べてしまうし、穴が空いた靴下だって、自分で繕ってはいている。

父親には、そんなふうだと他人から下に見られてしまうと注意されているが、僕は公立高校に通っているので、それくらい普通だと

言い返していた。

ところが、、、

「奏翔、お前には私立鹿鳴学院に転校してもらう。」

忙しくしていていつも家にいない父が休みを取り、久しぶりに二人で出掛けた日、帰りの車で父にそう告げられた。

「父さん、どうして急に転校だなんて。それに鹿鳴学院だなんて、学費と偏差値が日本一高いことで有名な高校でしょ?」

いくら会社が成功してお金があるからって、いつ失敗してまた貧乏生活に戻るかわからない。余計なお金は使いたくないから、公立の高校がいいってそう言ってきたのに。

「お前は頭がいいし、編入試験はなんなくクリアできるだろうから、勉強面での心配はないと思っているんだ。それに奏翔、お前には父さんが今しているような苦労はしてほしくない。御曹司や令嬢たちが集まる鹿鳴学院に行って、将来役に立つ繋がりを作っておきなさい。」

父さんが僕の肩に手を置いてそう言った。

確かに父さんは今、他の会社との繋がりがあまりないことでかなり苦戦している。

僕が鹿鳴学院に入って繋がりを作ることができれば、父さんの役に立てるかもしれない。

悩んでいると、幼い頃に亡くなったおじいちゃんの言葉が浮かんだ。

『家族はお互いを助けあって生きるものなんだ。冬の寒いときでも、家族みんなでくっついていたら、寒さが和らぐだろう?』

そう言って体を寄せあって、お互いを温めあったあの冬の日。

そうだよね、おじいちゃん。僕だけが我が儘でいちゃいけない。

「わかったよ、父さん。僕、鹿鳴学院に転校する。」

そう応えると父さんは僕のかたをポンポンと叩いた。

「ありがとう、奏翔。編入試験は3ヶ月後だ。しっかり対策をしておきなさい。」

父さんの表情からどれほど苦労しているのかが読み取れた。僕が父さんを少しでも助けなくては。

「はい、がんばります。」

僕は決意を胸にそう言った。


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