5-【おやすみの贈り物】


「ねぇ、ママ。私ね、ママってすごいなって思ってるの。」


娘が不意に話し始める。



「ん、何で?」


寝返りをすると綺麗にアイロンがけされたシーツが肌に触れ心地良い。


その日、私たち母娘はホテルの一室にいた。



「私が小さい頃、ハンドメイドでいろいろな物を作ってくれたり、毎日手作りのおやつを用意しておいてくれたよね。それから、抑揚のある語り口で絵本を読んでくれたり…ママが、『ビューーン!!』とか読むとさ、私が『キャッキャッ!』みたいな。覚えてる?」


「覚えてるよ。」


私が微笑むと娘が続ける。



「私が不登校になった時、ママは無理やり学校に行きなさいって言わなかった。なかなかできる事じゃないと思う。すごく有り難かった。たくさん手間かけちゃったな…。」


「手間だなんて思ってないよ。他の方ができないような体験させてもらったから、こうして今も仲良しなのかも。」


私の言葉を聞いた娘の目が潤む。


「ママ、ありがとう。これからは親孝行させてね。」


「こちらこそ最高の贈り物をありがとう。」


旅は娘からのプレゼントだった。



『龍馬伝』の撮影に使われたという浜辺に程近い山間にあるホテルで娘の言葉が続く。


「ママは、お料理も上手だし頭も良いし本当にすごいママだよ。」



無事に高校を卒業し、医療従事者として働く娘から贈られた親孝行旅行。


荷物を2人分抱えて歩いた娘の声が眠そうである。



私は、『おやすみの贈り物』をくれた娘に心からの感謝の気持ちを込めて言う。



「おやすみ。」


「おやすみなさい。」



寝息を立て始めた娘の顔は、絵本の読み聞かせをしていた頃の幼くて可愛らしい表情そのままだった。

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