しあわせな3兄弟

たまごがゆ

兄弟のおはなし

「とうや起きろ。朝だぞ」

勢いよくカーテンを開けとうやから布団を引き剥がす。とうやはうーんと大きく伸びをしてからゆっくり起き上がった。窓から刺す朝の日差しに眩しそうにしている。

「今日はサンドイッチ作ったの。ピクニックにしよう!」

お弁当箱を持ったまーさがとうやに美味しそうな卵のサンドウィッチを見せる。

「やったぁ!たまごサンドだ!!」

とうやは目を輝かせてベッドから降りた。

「お姉ちゃん大好き!」

まーさの元に駆け寄ってギュッと抱きついている。じゃあ着替えてね、とまーさはとうやの頭を軽く撫でると俺に一瞥をよこした。きっとまーさもまーさの準備があるんだろう。「とうや。着替えるぞ。何が着たい?」

とうやは顔を曇らせた。着たい服がなかったのか。しかし俺はこっそり用意しているものがあった。

「これ着てみないか?」

タンスに作った隠し扉。そこを開けて一式をとうやに渡す。

「え!これほんとにきていいの?!」

とうやに渡したもの。それは俺が小学校に入学するときに着ていたスーツだ。

「俺が着てたやつでごめんな。本当は新品を買ってやりたかった。」

「ううん!ありがとう!!」

とうやは力いっぱいのハグで喜びを表現した。

「よし!着替えるか!」

俺の呼びかけでとうやはパジャマを脱ぎ始める。と、思いきや、パジャマのボタンを外そうとした手を止めマジマジと見つめている。

「どうした?どこか痛いか?」

するととうやは不思議そうな声で答えた。

「ううん!どこも痛くない!手も足も軽くて不思議な感じ!」

その後もとうやは手を開いたり握ったり、足をぶらぶらしたりした。その気持ちはわからんでもない。俺はとうやが着替え始めるまで穏やかな気持ちでとうやを見ていた。

「よし、行こう!」


無事とうやの着替えを終えて、俺たち3人は外へ連れだった。

空は雲ひとつない青空だ。ぽかぽかと暖かい。今は春なのかもしれない。住宅街の間を歩いて行く。

「まあさちゃんにゆうとくんにとうやくん!今日はいい天気だねぇ」

昔から仲よくしてくれていた近所のおばあちゃんが声をかけてくれた。

「うん!今日はね、お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒にピクニックするんだ!」

とうやの言葉におばあちゃんはあら、と嬉しそうな顔をした。

「それならこれを持っていきなさい」

おばあちゃんがくれたのは3枚の100円玉。

「何かあったときに使いなさいね」

「おばあちゃんありがとう!」

思わず3人の声が揃った。おばあちゃんはくすくすと笑う。

「あなたたちは本当に仲がいいねぇ。じゃあ、楽しんでらっしゃいな」

俺たちは少し赤面しながら、去って行くおばあちゃんに手を振った。俺たちはその後もすれ違うご近所さんたちに挨拶しながら川へ歩いて行った。

「うわ!きれい!!」

川に着くととうやがそう叫んだ。水面はきらめいていて、川沿いには桜が咲き誇っていた。

「こんな綺麗だったんだな」

俺も思わずそう呟くとまーさも同調した。

「長いこと来てなかったもんね」

ぐぅ、と音が聞こえた。誰かの腹の虫が鳴いたようだ。たしかに距離を歩いた気がする。

「じゃあ食べるか!」

俺たちは川辺に降りて座った。口いっぱいにサンドイッチを頬張る。うまい。こんなに満たされた食事は久しぶりだ。俺たちはよっぽど腹が減っていたようで、無言でただサンドウィッチを貪り続けた。気づけばあんなにあったはずのサンドイッチが綺麗に平らげられていた。

「おいしかった!お姉ちゃんありがとう!」

とうやの笑顔がはじける。そんなとうやが愛おしくて、俺とまーさは思わずとうやを抱きしめていた。

「お腹もいっぱいになったことだし、ボート借りて川を渡ろう!」

まーさの声にとうやはおー!と拳を上げる。俺たちはおばあさんに貰った300円を握りしめ、船を貸してくれるじいさんのところへ行った。じいさんは300円を渡すと無言でボートとパドルを渡してくれた。俺たちがボートに乗り込むと、じいさんは相変わらず無言だったが手を振ってくれた。とても優しい目で送り出してくれた。

とうやを真ん中に乗せ、俺とまーさで漕ぐ。昔テレビで見た時は簡単そうだったけれど、意外と難しくてなかなか前に進まない。

「これだとなかなか向こう岸に辿り着けないね」

まーさがボソリと言った。確かにそうだ。

「1、2って僕が言うからそれに合わせて漕いだらどう?」

とうやがすっくと立って声高にそういった。俺はとうやをとりあえず座らせてから考えた。そうか!とうやの考えにピンときた。掛け声に合わせてまーさ、俺の順で漕げばいいんだ。

「それ、すっごくいいぞ!ありがとな、とうや!」

とうやの頭を撫でるととうやはくすぐったそうにしながらも嬉しそうだった。そのあとはとうやの掛け声に合わせて俺たち2人でせっせと漕いだ。川は真ん中が一番流れが速いと聞く。その通りで真ん中に差し掛かる頃には流されてばかりでなかなか前に進めない。

「1、2、1、2、お姉ちゃんお兄ちゃんがんばれ!」

とうやの掛け声と応援もあって、時間はかかったがなんとか真ん中を超えることができた。

「…やっと…ついた…」

向こう岸に辿り着いたのは空が少し暗くなり始めた頃。俺もまーさも、とうやもぐったりとしていた。

「じゃ、行こっか」

まーさから順に、俺はとうやを抱えて久々の地上に足をつけた。

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