第6話 絶望する青年

 マギシとターナーは素早く、かつ丁寧に仕事に取り掛かった。


 魔法石が含まれた武器――魔武器の修理をターナーが、それ以外の武器をマギシが修理する。


 しかし、多くの武器を捌かなければならないため、間に合うかどうか分からない状況だった。


 ちょうど日が沈みきった時だった。


「できた!」


 最初に終わったのはマギシだった。


「……見せてみて。」


 一人で作業をしていると、ちょっとしたミスにも気付かないことがある。


 そこで、もう一人がチェックすることでミスを防ぐことができる。


「……うーん、まあ合格点かな。私ならもっと上手くやれるけど、お客さんには出せると思うよ。さすが、物作りは慣れてるわね。」


「よし!」


「ほら、余韻に浸ってる暇はないわよ。次に日が昇るまでには仕上げなきゃいけないから、徹夜は覚悟しなさいよ。」


「ああ。ターナーさんの作業はまだ残ってるんだな。やっぱり量が多いのか?」


「ええ、それもあるわ。魔武器をまともに扱える人はそうそう見つからないからね。私たちに頼ってくるんでしょう。」


 マギシは改めてターナーたちの凄さを実感した。


「じゃあ、ここから私の作業を手伝ってもらうわけだけど、大切な商品を壊されちゃ堪らないから、まずテストするわ。」


「テスト?」


「ええ。」


 すると、ターナーは大量の魔法石を倉庫から持ってきた。


「これを壊さずに加工できるようになりなさい。やり方は前に見せたわよね。」


 マギシは固唾を呑んだ。


「月が真上に昇るまでに完成させなさい。それまでにできなければ考えるわ。」




 マギシが魔法石の加工を始めてしばらく経ったが、何をしてもうまくいかなかった。


 魔法石は繊細なので、どうしても途中で壊れてしまう。


 マギシは、あの時見たターナーの鍛冶を必死に思い出そうとした。


 一挙一動、無駄な動きはしていなかったはずだ。


 しかし、記憶が曖昧でターナーが何をしていたかを細かく思い出せなかった。


「……待てよ?今は鍛治の途中だから見せてもらえばいいんじゃね?」


 マギシはターナーの工房を覗きに向かった。


「……何?」


「すまないが、近くで見せてくれないか?」


「……どうぞ勝手に。あまり近づくと火傷するよ。」


 一見、普通の鍛冶に見えた。


(うーん、どう見てもやり方は同じだよな。力加減の問題か?)


 そのとき、マギシはひらめいた。


(そうか!見た目だけにこだわっていたが、魔力の流れを見てなかった!)


 すると、すぐさまマギシは、ターナーの体内に流れる魔力の流れを読んだ。


(……これは!?)


 小屋の方から足音が近づいてきた。


「マギシ!この本見て!」


 小屋で本を漁っていたミリィだった。


「マギシって『放出系』の魔法は使えないよね?」


「ああ、俺は『強化系』だ。『普通魔法』も使えん。」


 魔法は『個性魔法』と『普通魔法』という分け方の他に、『放出系』と『強化系』に分けられる。


『放出系』は、ミリィの魅力魔法や炎魔法のように、魔力を何らかの形に変換して放出する。


 一方、『強化系』は、魔力によって自身の能力を強化することができる。


「この本には『魔法石の加工には一定量魔法を流し込む必要がある』んだって!」


「俺もさっき気付いたところだ。」


『強化系』の魔法は、あくまでも魔法を体内に留めて置くものであり、放出することはできない。


 魔法石を加工するには魔法を流し込む必要があるらしいのだが、『放出系』でなければ魔法を流し込むことはできないのだ。


 話を聞いていたターナーはピタッと手を止めた。


「……君、『普通魔法』使えないんだ。」


「ああ、だから俺に鍛冶は――」


「言ったでしょ?練習すればできるようになるって。ミリィ、『普通魔法』は習得可能なんでしょ?」


「ええ。でも、『強化型』の人が『普通魔法』を習得するのは難しいみたいよ。私も見たことないわ。」


「……そうなの?」


「え!?知らなかったの!?」


「ごめんなさい、私そこらへんは疎くて――と言うことは――」


「……俺には最初から魔法石の加工は無理だったってことだ。申し訳ない。」


「……まあいいわ。おじいちゃんが腰痛めた時から間に合わないのはわかってたから。お客さんには説明しておくから。気を落とさないでちょうだい。」


「……。」




 日が昇ると、お客さんの集団が武器を引き取りに来た。


「おい!俺の武器まだできてねぇのかよ!急いでんだぞ!」


「……申し訳ありません。祖父は急病で。」


 小屋の奥の方からカーターが腰をさすりながらやってきた。


「おお、すまんすまん。全部わしの責任じゃ。この子は許してやっておくれ。イテテ……。」


「ちっ。じいさんがそういうなら……。」


 アックスは尋ねた。


「結局間に合わなかったのか。」


「ああ。俺のせいだ。不甲斐ない。」


 マギシは昨日の出来事をアックスにすべて話した。


「……そうか。『放出系』が使えないと魔法石の加工ができないのか。」


「ミリィにも謝らないといけないな。」


「え!?何が!?」


「ほら、物を作って金を稼ぐって約束したのに――」


「い、いや!いいのよ!そんなの!体質なら仕方ないよ!」


 ふとアックスは疑問に思った。


「……待てよ?俺の記憶違いだったらすまないが、お前の父も『放出系』は使えなかったぞ?」


「え!?じゃあどうやってこの魔除けのペンダントを――」


 そのとき、武器を引き取りに来た客が一人こちらに向かってきた。


「おう、アックス団長じゃねえか。いや、元団長か。」


 マギシはアックスに尋ねた。


「知り合いか?」


 アックスは無言で頷いた。


「君たち、こいつと一緒に旅するのはやめた方がいいぜ。」


「……どういうことだ。」


「知らねぇのか?こいつ、裏切りもんだぜ。お前たちもいつ裏切られるかわかんねぇぞ?」


「――どういうことだ?」


 アックスはうつむいたまま、固く口を閉ざした。

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