春の夢

うえはら

春の夢

 俺はあの人の夢を見る。

 彼女は甘い香りとその美しい容姿で俺を魅了する。


 ―――ピピピ、ピピピ


 俺は今日もベッドの横にある時計のアラームで目覚めた。時刻は7時、いつものように顔を洗い朝食を食べる。


「お兄ちゃん、醤油とってー。」


「おう、はいどうぞ。」


「はいどうも。」


 俺には中学生の妹がいる。少し生意気なところもあるが、それ以上に愛らしくなんでも許してしまう。俺たちの両親はどちらも出張が多く、家にいない時間の方が多い。だから妹とはまるでパートナーのような関係である。


「早く食べてくれない?お皿洗えないんだけど。」


 と思っていたがさっそく怒られてしまった。これ以上怒られたくはないもんで、俺はささっと朝食を食べ終わると歯磨きをして、高校の制服に着替える。俺ももう2年生、この制服も着慣れたもんだ。

 

 玄関を出ると心地よい風が吹いていた。春というのは人間にとって素晴らしい季節だ。こんなにも過ごしやすい時期は春だけだろう。俺の好きな春は世では出会いの季節とも呼ばれる。俺だって良い出会いをしたいもんだが、あいにくクラス替えをしたとて周りは互いに知っている者同士だ。世の中、きれいに事が運ばないのはなぜだろうか。


 そんなことを考えていても仕方がない、俺は学校行きの電車に乗った。電車から見える景色は好きだが、さすがに毎日見ていると見飽きるというものだ。というのも、俺の住んでいる地域は世間一般的には田舎と呼ばれるようなところ。これがもし都会の高校生であれば、もう少しパンチの効いた光景を見ることができるのだろうか。


 駅につくと、美しい女性が降りるのを見た。思わず女性といったが、彼女は俺と同じ高校の制服を着ていた。つい見とれてしまい、電車から降りるのを忘れてしまいそうだった。それくらい彼女が美しかった。

 

 同じ高校生だとは思えない彼女のあとを追うように俺は歩いた。彼女を見れば見るほど俺は彼女の虜になりそうだった。そんなことを考えながら歩いていると、俺の肩を誰かが軽く叩いた。振り向いても誰もいない。


「おっ騙されてやんの。」


「お前か。」


 クラスメイトの春園創はるぞのはじめだ。彼とはかれこれ小学生からの知り合いである。こんな風に人をからかうのが好きだが、根はいいやつだ。


「そうだ、前見てみろよめっちゃ美人がい、、、あれ。」


「何言ってんだ?前には誰もいねえぞ?」


 俺は自分の目を疑った。さっきまでこの瞳に写していた彼女の姿がなくなっていた。俺の幻想なのか、はたまた彼女が人ならざるモノであったのか。彼女の美しさをもう感じることができないと考えると悔やまれる。


「どうしたそんな顔して、ほら行くぞ。」


 創と学校に着き教室に入ると、もうそろそろSHRの時間であった。


―――ガラガラ


「はい、席につけー。今日はうちのクラスに転校生がきている。」


 

 俺は沈丁花じんちょうげの甘い香りを感じた。

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春の夢 うえはら @uehara6

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