召喚士が陰キャで何が悪い【Web版】

かみや@( * ´ ω ` * )

01-藤間透が陰キャで何が悪い

01-01-藤間透が陰キャで何が悪い

 藤間透ふじまとおるは陰キャである。

 これは小学校、中学校と一貫した、俺に対するクラスメイトの認識だ。


 パリピなやつらは徹底的に俺を虐めたし、抵抗すれば徹底した無視に転じた。人は誰かをおとしめないと生きていけない生命体なのである。


 ならば、この境遇に甘んじている俺は、むしろありがたがられる存在ではないのか。クラスの抱える陰気、闇、そして悪意の標的を一身に浴びて人身御供ひとみごくうとなっている俺は、飢えた虎に自らの身を投げた釈迦しゃかのように手を合わせられるくらいのことがあってもいいのではないか。


 しかし高校──それも進学校ともなれば、露骨なイジメは影を潜めるようだ。


 パリピはパリピなりに成長して『誰かを舎弟にしてる俺カッケー』から『あんな陰キャに声をかけてやってる優しい俺カッケー』に進化する。

 心ならず陰キャも並行して、パリピのストレス発散サンドバッグから進化エサへと進化する。かみなりのいしとかつきのいしとかアレだ。俺の場合は間違いなくやみのいしだろうけど。

 ん? 俺すこしカッコよくね?


 ちなみに、小中と一貫した陰キャという俺の評価は、高校一年生になっても変わることがなかった。……何が悪い。べつに変えようとも思わない。


「藤間くんもなにか意見はあるかい?」


 話を急に振られて我に返ると、茶髪のイケメンが黒板からキラキラしたオーラを放ちながら俺に爽やかな笑みを向けていた。

 嫌味は感じられないが、クラスの話し合いに参加しない俺に、議長という立場から、責任感でこうやって問うているのだろう。

 頬を置くため机に乗せていた肘を戻し、万が一のために用意していた答えを返す。



「あー……べつにそれでいいんじゃないっすか」



 イケメンは「ありがとう」ともういちど俺に笑いかけ、教室を見渡して次の議題へと移った。


 ……それでいい。

 イケメンはイケメンらしくしていればいい。

 俺はこれまで通り、十五年生きてきた藤間透の続きをやるだけだ。


 ふたたび机に肘を置き、手の甲に右頬を乗せる。

 イケメンの声をBGMに見た窓には空が広がっていて、きっと青いはずのそれを見ても、俺の胸には灰色の雲があるだけだった。


──


 チャイムの音から下校の許可をたまわり、後ろ手に鞄を持つ。

 近くの席にいた女子たちの会話が耳を打った。


「ねーねー今日どうするー? アルカディア行くー?」

「んー、金欲しいし、行こっかなー」


 脳内で舌打ちし、ひとりで教室を出てひとりで下駄箱へ向かう。

 アルカディアってのはゲームセンターでもカラオケでも、タピオカ専門店でもない。

 就寝時にみるはずの『夢』を利用して行く異世界。


 ──それがアルカディア。

 異世界へ行きたいと思ったとき、就寝前にちょちょいと携帯端末の設定をONにすれば、その日の夜、俺たちは夢を見ない。


「……んあー……」


 その代わりに、目覚めるのだ。 


「……ハロー、ワールド」


 剣と魔法の異世界アルカディアで。

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