賭け試合の決着
「じゃあなっ! あばよっ! この大ハズレ野郎っ!」
「くっ!」
俺は尻餅をついた。オリバーのナイフが襲い掛かってくる。必死にもがいた末、オリバーの足が俺の足に引っ掛かる。
「ちぃっ! 小細工しやがって!」
オリバーは体勢を崩した。
「て、てめぇっ!」
「きたねぇぞっ! 姑息な真似しやがってっ!」
手下達が俺を非難してくる。
「な、なにが汚いのよっ! あんた達の方がよっぽど汚い事をしてきたじゃないのっ!」
カレンがそう主張する。往々にして、こういう連中は自分でする分にはいいが、人からされると文句を垂れるものだ。そういう生き物なのだ。
おかげで距離が取れた。道具屋で購入した魔道具(アーティファクト)が役に立つ機会(チャンス)だ。
【消耗アイテム保有一覧】
ポーション回復量小×4※効果HPを小程度回復させる
ポーション〈回復中〉×10※効果HPを中程度回復させる
毒消し薬×10※毒状態を治す
聖水×10※アンデッドに対する特攻効果
フレアボム×10※中程度の爆裂系魔法が閉じ込められている
フロストボム×10※中程度の氷魔法が閉じ込められている
サンダーボム×10※中程度の雷魔法が閉じ込められている
「食らえっ!」
俺はフレアボムを一個、取り出し、オリバーに投げつけた。オリバーの目の前で、爆発が起きる。
「うわっ!」
オリバーが怯んだ。よし……聞いているようだ。俺自身に魔法は使えないが、魔道具(アーティファクト)を利用すれば、それなりの効果は得られる。オリバーの弱点は魔法だ。魔法攻撃で攻めるんだ。
「食らえっ! 今度はこいつだっ!」
俺はフロストボムをオリバーに投げつけた。
「く、くそっ! きたねぇぞっ! こいつっ!」
「魔道具(アーティファクト)を使うなんて、なんて卑怯な奴だ!」
オリバーの手下達が騒いでいる。身勝手な言いようだ。自分達の都合が悪くなると「汚い」とか、罵ってくる。まあいい、勝てればいいんだ。勝てれば。相手の弱点を突くのは闘いの基本だ。道具(アイテム)を使用するのも戦略の一つだ。
俺はボムをいくつも投げる。大体、半分くらいに減った。使用したボムの数は計15個。そのどれもが命中したわけではないが、相手に相当なダメージを負わせる事ができた。
「ステータスオープン」
俺はオリバーのステータスを確認する。
HP :50/200
これだけ弱れば俺の剣でもトドメを刺せる。俺はSP(スキルポイント)の残量を確認する。俺の現在のLVは5だ。SPは50程溜まっていた。
通常スキルの一つくらい、覚える事ができるだろう。俺は通常スキルを習得する。
【取得通常スキル】
竜斬り※竜を倒せる程の大技。竜に対する特攻効果。
俺は竜騎士としてのポピュラーな通常スキルを習得した。竜斬りだ。大技な攻撃ではあるが、当たればダメージが大きい。本来は竜相手に使用するものではあるが、人間が相手だったとしても、大きなダメージを与える事ができる。
普通は当たらない攻撃だ。相手は素早い暗殺者(アサシン)なのだから。だが、魔道具(アーティファクト)で弱らせた今のオリバーが相手なのだから、十分に当たるはずだ。
「これで、終わりだ!」
俺はスキル【竜斬り】を発動させる。俺は剣を大きく、振りかざす。
「く、くそっ! や、やめろっ! そんな攻撃食らったらっ!」
「リーダー!」
「竜斬り!」
俺は竜斬りをお見舞いする。剣を振り落とす、大雑把な攻撃だ。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああ!」
オリバーが断末魔のような悲鳴を上げた。
「やったっ! お兄ちゃんっ!」
「リーダー!」
「う、嘘だっ! リーダーが負けるはずがねぇ! 俺達のリーダーが! しかも、こんな竜騎士なんて、大ハズレ職業に選ばれた奴にっ!」
「ありえねぇっ! こんなの夢だっ! 夢に決まってるっ!」
「負け惜しみはよしなさいよっ! 勝ったのよっ! お兄ちゃんはっ!」
「うっ……ううっ」
悪運の強い奴だった。オリバーのHPは。
HP :1/200
になっていた。僅かなところで、オリバーは踏みとどまったのだ。この状態だったら、死者すら復活させると言われる秘薬エリクサーで復活させるまでもない。普通にポーションをガブ飲みすれば、回復できる事だろう。
俺は剣を振りかざし、握りしめる。これだけ弱ったのなら、いくら暗殺者(アサシン)のこいつとはいえ、避けられはしない事だろう。
「とどめだっ!」
俺は剣を振りかざす。もはやこいつ相手に技など必要ない。
「ま、待てっ! 待ってくれっ! 俺の負けだ! 降参だっ!」
オリバーは降参した。
「ふう……勝ったのか……俺は」
俺は胸を撫で下ろす。格上相手に勝つ為には手段を選んでいられなかった。形振り構わずに掴み取った勝利だ。
「やったっ! お兄ちゃんの勝利っ!」
カレンは両手を上げて喜んでいた。
「立てますか? リーダー……」
「あっ……ああっ……あんな野郎、雑魚だと思って油断しちまったぜ」
手下に肩を借りながら、オリバーは立ち上がる。
「……くそっ。汚い手使いやがって。あんなの、リーダーの負けのうちにも入らないですよ」
連中は負け惜しみをしていた。
「ちょっと! どこ行くつもりなのよっ!」
カレンは叫ぶ。
「何って? ……勝負は俺の負けだ。敗者は大人しくこの場を去らせて貰うぜ」
オリバーはすっとぼけていた。
「この勝負を受けた、大前提を忘れたのっ! この勝負は賭け勝負なのっ! 賭け勝負っ! だからお兄ちゃんは勝負を受けたんじゃないっ! 私達は負けたらオリハルコンの装備を受け渡す危険を冒したのよっ! なんでそのままどこか行こうとしてるのよっ!」
カレンは至極真っ当な主張をしていた。
「ちっ……やるよ」
オリバーはネックレスを投げた。
俺は『聖竜の涙』を手に入れた。
「これで文句ないだろ」
「最初から大人しく渡してればいいのよ」
「じゃあ、俺達は行かせて貰うぜ。あー、いてー……ポーションだ。宿戻ってポーション飲まないと傷が癒えないぜ」
オリバー達はこの場を去っていった。
「良かったね……お兄ちゃん。珍しいアイテムもらえて」
「ああ……そうだな。思わぬ収穫だな」
俺は『聖竜の涙』をアイテムポーチに入れる。いずれこのアイテムを使う機会がある事だろう。今すぐにではないが、いずれ。竜と出会う時に必要になってくるはずだ。
「冒険者ギルドへ向かうか」
「うんっ! そうしよう!」
色々とあったが、俺達は冒険者ギルドへ向かう事になった。思わぬ寄り道ではあったが、それなりの成果があったのがせめてもの救いだった。時間の浪費にならずに済んだ。
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