話は香るけど
堀川士朗
話は香るけど
「話は香るけど」
堀川士朗
細かい事をよく覚えていると思われるかもしれない。だが、たいがいの事は忘れてしまった。
過去へ。
夏。
僕の名前は森川チロ。
大勝大学に通う二年生の19歳だ。
アパート。
喜多区寂尊(きたくじゃくそん)にある僕のアパート。
僕は南側に面したアパートの部屋の窓を開け放つ。
カーテンは洗わないもんだみたいな事を、村上さんはどっかの森的な小説で書いていたが、僕はその日久しぶりにカーテンを洗って干した。
明日の日曜日、宝弘子(たからひろこ)が来るからだ。
大学の一年後輩、一年生。
ロリータファッションのよく似合う、ハーフみたいな顔をしているかわいい小柄な茶髪の女の子だ。
僕の彼女ではない。弘子には高校一年から付き合っているという彼氏がいる。
でもまあ、僕ら二人はたまにデートし、アレもいっぱいやってきた。
僕と弘子はそんな関係。
新入部員として僕の入っている演劇サークルに体験入部した時から、僕は弘子にモーションかけまくりでまあそんな関係となったのだ。
朝ご飯を食べて、歯をみがく。
外出着に着替えて、八万出して買ったスポーツタイプの自転車を漕ぐ。
長い長い坂を降りながらヴィネラ・アイスのラップを口ずさむ。
15分ほどで大勝大学に着いた。
今日は午前中だけの授業だ。
僕は高校生の頃成績優秀だったけど、あえて偏差値のあまり高くない大学を選んだ。
ゆったりたっぷりの~んびりなキャンパスライフを満喫したかったからだ。
だから授業もユルくて楽だ。
コマ数も少ない。
その分、女の子たちとのデートにあてられる。
大学に隣接している喫茶店トロピックで水出しアイスコーヒーを飲んで演劇サークルの稽古まで時間を潰す。
サークル、劇団ハリネズミ座。
僕の書いた脚本「習慣少年フレンド」の上演が迫っている。演出は同級生の山里くん。
僕が主役の舞台だ。部長である僕の権限だ。
僕のお気に入りの宝弘子にはヒロインを演じてもらう。部長である僕の権限だ。
もう一人、僕の好きな米田今日子さん。かわいい丸顔の、背のあまり高くない女の子。彼女はもうサークルを引退している。一年先輩の三年生だ。
僕の彼女ではない。今日子さんには結婚を前提として付き合っている彼氏がいる。
でも僕が一年生の時からちょいちょいデートを重ねている。
僕と今日子さんはそんな関係。
今日は米田今日子さんとデート。池袋の喫茶店でお茶する。
「トースト」
「ん」
「今日子さん、ここのトースト厚切りでしょう」
「そうだね」
「でも下の方までバターが染みてる」
「話は変わるけど、私予知能力あるんだ」
「へえ」
「少し先の未来が分かるの」「すごいですね」
「来年辺りどっかでデカい地震が起きるわよ」
「どこ?」
「わかんない。多分、関西方面とかじゃないかな」
「関西か。怖いですね」
「話は変わるけど、地震が一番怖いよね、地震雷火事親父だと。親父は怖くないよね。親父狩りされてる一方だから」
「それだと、地震雷火事チーマーになりますね」
「だね」
それから僕らはカラオケに行った。
僕はコピれ~とかのラップっぽいのを主に唄った。
今日子さんは恥ずかしがって一曲しか唄わなかった。
僕は生ビールを頼み、今日子さんはカシスオレンジを注文した。
僕は酒を飲むとすぐ真っ赤になる、この人の丸顔が大好きだった。肝臓が弱いんだな。
ガンマGTPって奴か。
「今日子さんの顔って」
「うん」
「かわいいですよね」
「何が」
「丸くて。形が。キュートだと思います」
「話は変わるけど、昨日テレビでやっててさ、長年伝来の、とか継ぎ足しのタレ、とか言うけどあれ汚いわよね。絶対カビとか生えてるよね」
「いや、どうなんでしょう。温度管理とかちゃんと、いつもかき混ぜかき混ぜやってるから大丈夫なんじゃない」
「そうかな。でも菌は入ってるよね」
「うん」
「やばくね?」
「え」
「食中毒起こさない?」
「え?でも有用な菌でしょ多分」
「そっか」
「無菌は無理ですよ。継ぎ足しのタレは」
「そっか」
その後もお酒は進んだ。
カラオケルームの中で、僕らは短いキスをした。
キスし終わったら今日子さんは女神のように優しく微笑んで手で唇を拭って僕を見つめた。
もう一度キスした。
去年死んだ母親。
以前中華屋に行ってタンメン頼もうとしたら、やめなさいタンメンなんか食べるのはと母に言われて怒られて謎だったんだけどあれは何だったんだろうな。
死んだから謎が全く解けない。
さすぺりや~。
習慣少年フレンドの公演も無事に終了して、今日も弘子を部屋に呼びアレをした。
壁は薄い。
アパートの隣の部屋は貧乏家族四人が暮らしていて、小学校高学年の男の子ども二人に教育上よろしくない事おびただしかったが仕方ないよね。
僕ら若いんだもん。
僕19弘子18。
「あ弘子、僕がトイレとかで部屋にいない間部屋を荒らさないでね」
「え。うん。はい」
「僕トラウマがあるんだ。中学生の頃友達を家に上げた事があるんだけど、どうしてもカルピス飲みたいって言うから僕が台所でカルピス作ってる間に部屋のベッドの下に隠しといた五百円玉の貯金箱の中身盗まれたんだ。二回も」
「えええ」
「そいつ、大屋ヨーイチって言うんだ」
「ひどい奴ですね」
「絶対に一生許さないよ。今頃詐欺容疑かなんかで捕まってんじゃないの。大屋ヨーイチは死刑になって地獄に墜ちれば良いよ。奴は」
それから東京ハンダース池袋店に行き、手作りで弘子の作りたがっていたクマのぬいぐるみの材料を買いに行く。材料費は僕持ちだ。
先日は渋谷のスペイン坂で食事したし、この間は東京ドームの地下に新しく出来た遊園地に連れて行き、ハードコアパンクカフェで高いステーキをご馳走してあげた。
この女には僕はもう100万円ぐらいデート代を注ぎ込んでいる。
圧倒的な虚しささえ感じるほどだ。
このけだるい感じは何だろう。
中野のムサシノ館っていう映画館に今日子さんとイギリスの文芸映画を観に行ったんだ。
映画は冗長で退屈でつまらなかった。
暗闇の中、僕は今日子さんの手をずっと握っていてイチャイチャして今日子さんも抵抗しなかった。
今日子さんの髪の匂いをかいで、僕は元気になった。
良い匂い!
フローラル!
フレグランス!
ポップコーンもぐもぐ。
もうエンドロールが流れている。
今日子さんは中野ブロンドアウェイを歩いていた時もチャーミングだった。
中野ブロンドアウェイに入っているマンダレイク中野店で古本の漫画を選んでいる時も、僕らはそれはもう仲良く手を繋いでいた。
実際には恋人同士じゃないのに。
僕は今日子さんを一人占めにしたかった。
もどかしくて、もどかしくて、僕は邪道拳を撃ちたくなった。そこら辺にいる野良猫とかに。
中野駅前ではローズ真言教が街頭演説してて被り物をした真っ白い服を着た人たちが躍りながら「我々は~清廉潔白な~んだ~からね~」とか奇妙な踊り的な事をなんかやってたけど見なかった。
アパート。
日曜日。
寝ていた。
ドアをノックする音がする。
開けるとおばさんが立って小冊子を手にしていた。
「すみませ~ん。私たち全国解放的国民健全会議のものなんですけど。今、中国の侵略に対する……」
興味ないんですみませんとドアを閉めても良かったが、僕は暇だったので○○ガイの振りをする事にした。
「それは白黒熊猫共和国の事かポン?」
「はい?」
「白黒熊猫共和国の事を言っているのかポン?」
「や、あの」
「白黒熊猫共和国はとても良い国だポン!かわいいかわいいパンダを日本にレンタルしてくれるポン。そんな良い国の事を悪く言う奴らは僕が許さないポン!キエーッ!」
僕は台所にある包丁を手にして振りかぶった。
「あ、あ、あ、失礼致しましたーっ!」
「ホシェーッ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
全国なんちゃら会議のおばさんは去った。
やれやれだぜ。
暇潰しにもならなかった。
ああ、今日も宝弘子とデートだ。退屈だな。新宿をブラブラしてゴールデン街で飲んで夜の花園神社のお稲荷さんお参りしてホテルに入ろう。
結局、一泊した。
僕らはベッドに寝そべりながらホテルのテレビで、
「40分で支度しなぁっ!……余裕~~!」
のギャグでお馴染みの芸人が自宅マンションから飛び降り自殺したニュースをただまんじりともなく眺めていた。
悲しいとも何とも思わなかった。
明け方。ああ、腸が鳴っとるがな。掃除完了しましたー言うて。
カラスも。
カラスも鳴いている。
十月となり、明らかに街の香りが変わった。
僕は今日子さんと巣鴨を歩いていた。
巣鴨だから老人ばかりいる。
「風が秋の匂いになりましたね。キンモクセイが泳いでるみたいです」
「モーリーは詩人だなぁ」
「文学部ですから」
と言って今日子さんを優しく抱き寄せた。
老人どもがうらやましそうに僕らを見ていた。
良い匂いがした。
抱きたいと思った。
アレ的な意味で。
でもそれは今日子さんが許さなかった。
ああ、撃ちたい邪道拳。
「上野の」
「ん?」
「上野のパンダ観に行きませんか?」
「パンダ?」
「パンダ観たいな」
「そっか。話は変わるけどモーリーは将来どうしたいの?」
「進路ですか。僕は来年辺りからある世界的に有名な演出家の舞台に出る感じになるので今稽古場に通っています。勉強させてもらってるんです。森下にある稽古場で」
「そうなんだ。すごいね。役者の道なんだ」
「はい。今日子さんは?」
「私?私はそうだなー。平々凡々な会社員かなー。事務の」
「そうですか」
「もう、会えなくなるねー」
「……やです」
「ん?」
演劇サークルの綾辻舞之介(あやつじまいのすけ)先輩。三年。
彼に誘われて酒を飲みに行く。
綾辻先輩は酒の飲み過ぎで肝臓をやられている。ええ、まだ22歳なのに?
でも酒を飲みに行く。
あと茅部(かやべ)先輩。三年。カヤッペと呼ばれている。
二人ともこの間の習慣少年フレンドの舞台に出演してもらった。芝居はケレン味たっぷりでとても良かった。
僕は一年生の時からこの二人のガタイの良い男の先輩に酒を飲みに連れて行ってもらい、焼酎や生ビールを飲んで、吐いて、また飲んで、また吐いて飲んでして酒に強い体質に鍛え上げてもらったのだ。
居酒屋はにぎやかだ。
大学が多い街の居酒屋なので僕らのような学生が多い。
立ち上がってイッキ飲みしている若いのもいる。
隣の座敷には仙黄大学のふたつの演劇サークル、劇団病気とレーヨン80℃の人たちが飲んでいて、知り合いだったからメンバーとちょっと乾杯して挨拶した。
茅部先輩通称カヤッペが杏露酒ハイを飲みながら嬉しそうにニヤニヤ笑って僕に話しかけてきた。
「モーリー、お前は女にモテるけどな」
「え」
「モーリーはコンビニ番長だからな」
「え?」
「コンビニ番長」
「それどういう意味ですか?」
「コンビニみたいに24時間いつも開いてる存在。女にしたら、誰でもいつでも恋愛に利用出来る便利な男」
「……コンビニ番長ですか僕は」
「うん。コンビニ番長。コンビニ番長だよ」
「……」
「モーリー、お今日には注意しろよ」
「え」
何だよお今日って。
お経かよ。
あ、今日子さんの事か。
違う。あの人は、そんな人じゃない。
何だよ。
カヤッペとはしばらく飲みに行かない事にした。
アパート。
僕と弘子はとりあえず後先も考えず濃厚なアレをやった。
汗をかいたので頭と脇の下からお酢じゃなくてオスの臭いがする。
何だこれフェロモンか?
とりあえず汗を流したい。
歩いて五分、二人で近所の銭湯に行く。
カラダごしごし。
泡風呂からの水風呂が気持ちいい。
四人の醜い感じの老人が互いに背中を洗いながら、
「♪そ~れ一等兵と二等兵と三等兵と四等兵」
と繰り返し繰り返し繰り返しやかましく唄っていて、浴室内にそれがすごく反響して非常に嫌だった。
僕は老人が嫌いだ。
もう人生終わってるのに、なぜおめおめと、ぬくぬくと、生きていられるのだろう?
消えろ。
あとがつっかえているんだよ。
弘子は先に上がっていてフロアでマッサージチェアにチョコンと座ってチョコ味のアイスキャンディーを食べていた。
もう夜中になっていて、僕は弘子の学生寮まで彼女を送ってあげた。
帰り道。
独り。
歩く。
月が出ていた。
静かな、静かな夜だなぁ。
こんな夜は例の映画のラストみたいに幸せいっぱいに入水自殺したくなるよ。
こんな事を聞いたらきっと、今日子さんは笑うだろうなぁ。
夜は好きだ。
沈思黙考出来るから。
明日の朝は、小鳥の声で目を覚まそう。
小鳥は、キュビズムキュビズムと唄う事だろう。
冬になった。
僕は同級生で同じ学部の映像研、羽場くんに頼まれて羽場アキヨシ監督作のオムニバス映画「夢」に出演する事になった。
ロケ地のひとつに僕のアパートの部屋が選ばれた。
ある主人公がギャグ的な悪夢に毎夜さいなまれるといった内容だった。
僕は夢の住人で郵便配達夫。
網タイツを被り日本刀と拳銃を手に主人公のアパートに押し入り、銃口を相手のこめかみに突き付けながら、
「ケンタさんですね。郵便です」
と言って去る。
そんなワンシーンを今日撮影する。
撮影当日トラブルが起きた。
もう夕方を過ぎていた。
オモチャだけど銃やら日本刀やら持って撮影していたら、どうやら警察に通報が行ったらしく、警察官二人がアパートの部屋にやってきた。
緊張が走る。
僕は頭から網タイツを被ったままで、いやこれはあくまでも自主映画の撮影ですと事情を説明した。
羽場監督と主人公役の子も少し慌てていた。
冬なのに焦りの汗がにじんだ。
どうしようもない時間が流れた。
この状況の方が映画の内容よりはるかに「夢」で、面白いよなと僕は思った。
夕暮れ。
悪い予感がした。
今日の弘子は何だかいつもよりソワソワしていた。目が泳いでいた。
洋食屋さんに行って注文している時、
「私、ちょっと電話かけてきますね」
と言って、僕の注文したSランチが運ばれても弘子は戻ってこなかった。
店の窓を見ると、男に手を引っ張られている弘子の姿があった。
急いで食べ終えて勘定を払い跡を追った。
だけどからだと脳が追跡を拒否して、緩やかな亀の速度でしか走れなかった。
もう良いよ、やめといた方が良いよと脳が本能的に語りかけていた。
駅の改札。
弘子の彼氏は、長髪で長身のえんぴつみたいに痩せた男で永久に売れないバンドとか絶対やってそうで、弘子趣味悪いなぁと思った。
彼氏は僕の顔をほっそーい目でにらんでばかりいた。
全然怖くない。
男が弘子を連れ去っていく。
弘子が彼氏をタイミングよく呼びつけていたのだ。
彼氏に強引に手を引かれ、
「モーリーさんごめんね」
と、半泣き状態な弘子の表情には牝豚漫画チックな笑みが張り付いていて、その混濁とした表情のミックス度合いがとてもとても気持ち悪かった。
一言で言うとひどくブサイクな顔面に見えた。
どうでも良かった。
すぐに来た電車は二人とその他関係ない人たちを吸い込んで走って行った。
僕はそれ以上追う事はしなかった。
ほんとどうでも良かった。
全ては彼女の演出だったのだ。
弘子と彼氏のマンネリ化した恋愛のスパイスに、僕は都合よく使われたのだ。
でもまた弘子はなんか、またなんかタイミングを見計らってなんか戻ってくる感じがなんかした。
弘子だから。
そういう女の子だから。
狡猾を絵に描いた女の子だから。
ばたりや~ん。
夜中。
部屋の時計をただじっと眺めている。
秒針が時針や分針に重なりあうこのたった一秒の間が好きだった。
その重なりをもうしばらく長い事眺めている。
僕は孤独だ。
でもそれは高い城に閉じ籠っているようなかっこいいイメージのものではなく、どっかの漫画雑誌とかがいっぱい置いてあるような油で床がギトギトの活気のある定食屋でお客さんがたくさんいる中、独りアジフライ定食食べてるような種類の孤独なんだと思う。
誰かが、側にいても、独り。
ひらひら。
ひらひら。
ひとひらの雪が舞っている。
僕は、分かりやすい愛の形が欲しかった。
今日子さんからの。
僕は弘子とも行った遊園地に今日子さんを誘った。
平日という事もあり、遊園地はとても空いていた。
今日子さんは就職活動に使うようなスーツを着てきた。
今の内からからだに慣らしておきたいのだろう。
メリーゴーランドにも乗った。
観覧車。
永遠に続くとても短い時間。
僕は観覧車に乗り、今日子さんに愛の告白をした。
「今日子さん」
「え」
「言っちゃいますね」
「ん?」
「好きなんです。大好きなんだ。今日子さんの事が」
「ん?ん?ん?」
「切ないんです僕は。毎日、あなたの事思うと。独り占めにしたい」
「……話は変わるけど」
「変えないで下さい!話は変えないで下さい!今日子さんはいつもそれだ。僕の気持ち知っているくせに」
「どうしたのモーリー」
「今日子さん!」
「立たないで、揺れる。怖い」
「僕はのんびり屋に見えてけっこう短気でキレやすいです。もう限界です!」
「ちょ、やめて!」
「僕は今日子さんの愛が今欲しいんだ!今!」
「……」
自分でも思ってる以上に怒りと哀切な声が出た。
でも、それもポーズさ。演技さ。演劇さ。
自分でもよく分かっていたし、もう一人の自分が見ていてお前なにやってんの?とか冷静な声で言っていた。
僕は誰も好きじゃないのかもしれない。
今日子さんは急に無表情になって、僕に冷たく低い声でこう言った。
「話は変わるけど、モーリー、お金貸してくんない?来月返すから」
僕は財布の中を見た。
福沢が三人、新渡戸が一人、夏目が四人いて、その中から福沢を三人出して今日子さんに渡した。
お金を受け取った今日子さんは礼も言わず能面のような顔をしていた。
後はずっと、無言だった。
しばらくして、観覧車は地上に降りた。
お金も今日子さんも、二度と戻ってこない気がした。
そしてそれは当たった。
僕はその後、三年生の時に山里くんと劇団を立ち上げたり、某有名演出家の舞台に出るようになり、日本全国の大きな劇場をツアーで回ったり、イギリスやらエジプトやらヨルダンやらの巡業にも行く事になって、全然授業に出られなくなって一年留年して、その翌年一年間仕事を休んで卒論を一番乗りで提出して大勝大学を卒業した。
今日子さんに会う事は二度となかった。
だから、上野のパンダは一緒に観に行けなかった。
悲しくは全然なかった。
僕には心が存在しないから。
今日も珈琲を飲んで元気。
でやぼりか~。
おしまい
話は香るけど 堀川士朗 @shiro4646
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