転生した蒼竜は世界の果てで少女と唄う
松洋(しょうよう)
序章
第1話プロローグ
天界――地上よりはるか上空に位置するが、世界から切り離された完全な異界となっているその場所で、2頭の青と赤の竜が、おびただしい数の天使を見上げる形で相対していた。
天使は、顔から足の先までフルプレートな鎧を身にまとい、槍を持つもの。ローブと水晶玉のような球体を持つものなどで構成されていた。
天使たちの間から明らかに存在感の違う一体が前に出ようとする。大軍とよべる天使たちを統率するものなのだろうか、他の天使がぞくぞくと道を開ける。
深紅の髪、金色の眼、完璧なまでに端整な顔立ち。その荘厳な神の創造物は白銀の鎧に身にまとい、純白の翼を4枚、背中に宿していた。
統率者は竜たちを前に目を細める。
「なぜ、我らの邪魔をするか。そなたらも神にかしづくものであるなら、この理不尽には耐えられまい。さあ、今こそ我らと手を取り神への反逆の狼煙をあげようぞ。」
そう言うと、統率者はそっと右手を前へ差し出した。
それを見た青い竜は明らかな怒りの態度を示していた。今にも飛び掛かりそうなその竜を制止するように、もう1頭が静かに前にでる。
「我々は、神にかしづいてなどいません。ただ、狂乱に染まった暴力から世界を守るために戦うのみです。あなた方の力は世界を壊せるほどの力です。その力をふるうというならば、絶界のこの地で
統率者は残念そうに首を横に振ると、静かに差し出した右手を下ろした。
「全軍、突撃!!」
その命令を発すると、静止していた幾千もの、槍を持った天使が凄まじい速度で突進を開始した。
それと同時に怒りに燃えていた1頭の青い竜が怒号とともに巨大な口から、青い光線を放つ。
その光線が大軍を右から左へ横なぎにすると、みるみるうちに天使が爆散していく。
赤い竜も同じく赤い光線を放つ。その光線は天使たちの間をすり抜け、命令を出した統率者に一直線に向かう。しかしその光線を右手一つで軽々止めると、同じ出力で金色の光線を放ち返した。
それを察知した、青い竜が身をかぶせて防ぐ。光線は肉体に触れる前に竜の周りに展開せれた青いオーラに阻まれた。
それを、わかっていたかのように統率者は不敵に笑う。
「さすがは、神より堕ちた竜の力!有象無象の兵では相手にならぬな。では、我手ずから審判を下そうか。お前たちは、赤い竜を抑えておけ。我が、青い竜を刈り取る。」
命令を下すと、天使の兵は赤い竜めがけて突進する。
「まかせましたよ」
赤い竜は青い竜にそう告げると、天使たちを連れ添うように後方へ飛んでいく。
青い竜は、うなづくと統率者をにらみつける。
天使は笑うと、続けて静かに詠唱する。
「
統率者の全身から白いオーラが噴き出る。両手を胸の前で合わせると、白銀の剣を10数本創り出す。その剣は両手に収まる2本を除いて、天使の体の後ろに円を描くように配置された。
「我は、天位第7位。剣天のアドリエル。誉れ高き神竜どもよ、覚悟せよ!!」
アドリエルの一閃。青い竜に2本の剣を振りかざす。ガキィと、鈍い音と衝撃が竜のまとっていた青いオーラとの間に走る。
ギリギリと剣をオーラで防ぐ竜と不敵に笑うアドリエルが相対する。
竜はその笑い顔とその行動全てに対する怒りを、言葉にする。
「私は、ただ平穏に暮らし、懲役を全うすれば良かったのです。そして、ただただ、死を受け入れるだけでよかった.....。それを脅かすものは何人たりとも許しはしません。あなたが、私に相対するというならば、一片を残すことなく灰にして差し上げましょう。」
青い竜は、最初に放った光線をはるかに超える威力の光の衝撃を放つと、アドリエルの体を吹き飛ばした。
アドリエルは後ろの剣を体の前に持ってくると、それを盾にして衝撃をすんでのところで防いだ。
しかし、その一撃は、天使の中でも最上位に君臨するアドリエルに対しても、肉体へのダメージは少なくはなく、そして尊厳を酷く傷つける一撃であった。
アドリエルの顔に焦りが見える。じわりと額に汗をうかべる。
アドリエルは突進の構えをすると、一瞬で竜との間合いを詰める。
竜はその突進を軽々よけて、アドリエルの後ろにつけると、光線を背中目掛けて放つ。ドゴンと大爆発を起こしてアドリエルが前方へ吹き飛ばされる。
「くっ!!舐めるな!!」
アドリエルはなんとか体制を整えると、身体の周りの剣を竜めがけて飛ばす。
その剣を泳ぐように竜は軽々かわすと、隙を見るなり飛び交う剣を光線で撃ち落とす。
アドリエルは後方で、剣を操り攻撃を仕掛けるも次々とそれらは撃ち落とされる。
さらにアドリエルは焦る。
「馬鹿なっ!我は熾天使だぞ!ここまでの力の差があるのものか・・はっ!?」
アドリエルは後ろの気配に気づくも時すでに遅し。青い竜は、アドリエルをとらえる。
青い竜は静かに巨大な口を開けると、青い光線をアドリエルに放つ。
「ぐあっーーー!」
至近距離での一閃。回避の手段はなくアドリエルの体を焼き尽くした。
ずたずたに体が焼き尽くされた満身創痍な体でなんとか体制を戻すと、眼前の光景に絶望する。
命令を下した天使の兵は赤い竜に壊滅させられていたのだ。2頭の竜はゆっくりと合流した。
青い竜と赤い竜が死を告げに近づいてくる。
「あなたにはもう一度永い眠りにつき、狂乱の心を静めていただきます。」
赤い竜は、両手から光の輪を創り出すと、それでアドリエルを縛り付ける。
「ぐあああ!我は狂乱などしていない、理不尽な神に審判をくだすのだ!なぜ、黙っている。なぜ、従い続けられる?」
冷静さを失うアドリエルはまくしたてる。
「我ら天使はそなたたちのような操り人形のまま終わらぬぞ・・・。何度でも立ち上がり、我らの盟友と共に神々の喉元を食らう日を楽しみに待とうぞ。」
そう言うと、アドリエルはにやりと笑みを浮かべる。そして、体内の
「まずい!」
異変に気付いた青い竜は、瞬時に赤い竜の前に立つと、オーラを全開にして身構える。
刹那。アドリエルは強烈な熱波と衝撃を自らの内側より開放した。
大爆発が2頭を襲う。青い竜はオーラで衝撃を防ごうとするも、瞬時の攻撃に万全で防ぐことができそうにない。続く、赤い竜も防御の体制を取ろうにもあまりの衝撃に力をうまく制御できずにいた。
ふっと、青い竜は、後ろの赤い竜のほうを向くと、赤い竜の肩のあたりに手を置く。
「まさか!やめなさっー。」
赤い竜は言葉を言い切る前に、すっと姿が消える。青い竜は、何らかの力で赤い竜をどこかに飛ばしたのだ。
熱波と衝撃の中でオーラがどんどん弱まっていく。青い竜は静かに目を閉じる。
「これが・・・罰ですか。それなら、甘んじて受け入れるしかないですね。」
青い竜は、あきらめたように、しかしおだやかに笑った。オーラが完全に消え去ると、衝撃と光の中に青い竜も消え去った。
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