5
アキラたちを乗せた船が座礁船にたどり着いたときには、塔子たちもまた救助のために乗り込んでいるところだった。
「いくぞ」
拓海の合図によりコックピットからでたアキラたちは宇宙服を身に付けると 塔子たちの船へと続く連絡通路を通過するとそのまま座礁船に続く通路を通り抜けいく。
座礁船の中へと入ると煙が充満している。宇宙服を着ているために煙を直接吸うことないものの視界が悪い。
なんとなく船内には多くの人たちが自分の意に反して無重力空間を漂っているのがわかる。
「大丈夫ですか?」
声をかけて返答のある者、まったく意識を失っているもの、様々だ。
「とにかく、運び出すわよ。日高と笠原、船内で待機。運ばれた人たちの応急処置をお願い」
日高たちは塔子の的確な指示に従って重症者を“飛鷹”へと運んでいく。
「枇々木さん。俺たちは……」
アキラが拓海のほうを振り返ると、彼は呆然と血まみれでぐったりとしている人たちを見ていた。その視線の先には、一人の女性の姿がある。血まみれで身動き一つせずに漂っている姿。彼の息遣いが荒くなる。それを何と重ねているのか、アキラでもわかる。
「枇々木さん?」
アキラの隣で樹が怪訝な顔をしている。
アキラは、突然拓海の襟首をつかみ上げた。
拓海ははっとする。
「あんた。なにぼーっとしているんだよ!? 早く指示出してください! あんたがリーダーでしょうが!!」
その眼差しは、いつになく険しい。いまにも殴りかかりそうな勢いだ。
「ああ、面倒くせえ。もういいよ。あんたは、さっさと船に戻れ。邪魔だ」
そういうと、彼を弾き飛ばした。彼の体が壁にぶつかる。
「行こうぜ」
「でも、アキラ君……」
「とにかく、運ぼう。できるだけ救助するんだよ。死なせるかよ。だれも……」
その横顔があまりにも真剣そのものだったためか。樹は、その見たことのない表情に血の気が引くのを感じた。
「アキラくん?」
なんだったのだろう。先ほどのアキラの表情。戦慄さえも走らせる何か。一瞬、アキラの中の暗闇を見たような気さえもした。
ドーーーン!!
突然、座礁船に衝撃が走る。外側になにかがぶつかったようだ。デブリなのかと、外を見るもそれらしきものはない。その代りに光線がこちらへと向かってくるのが見えた。
「ふせろ」
アキラが叫び声をあげると、反射的に自分の頭を押さえて壁にしがみつくような態勢をとった。直後、船の壁を貫いて、光線がアキラたちの頭上を通り抜けていく。
機内のいたるところから火花が散り、壁などが破壊されていく
「まずい。急がないと爆発する」
「アキラ君。間に合わないよ」
「わかっている。とにかく、歩けるものはすぐに船に乗りこんで」
煙が充満してくる。
「アキラくん。どこへ?」
樹が被害者の一人を担ぎながら、船へと向かおうとすると、人々をかき分けるように反対方向へと向かうアキラの姿が見えた。
「デッキだ。デッキ。少しでも崩壊をふせぐ」
「え? どうやって?」
「早坂くん」
聞き覚えるある声にはっとする。
振り向くと、綾香がぐったりとしている大木を抱えている姿が見えた。
「小田切。それに大木さん」
綾香はなんともないようだが、大木はけがをしているようだ。上腕と頭から血が流れている。
「どうなっているの? さっきの光はなに?」
「知らない。けれど、急いだほうがいい。もう船が持たない」
「うん。早坂くんはどこへいくつもり?」
「デッキだよ。船の崩壊を遅らせる方法があるはずだ」
アキラは駆けだそうとした。
「無理だ」
か細い声がする。
大木が目を覚ましたようだ。
「無駄だ。先ほど、私も行ってみたが無駄だった」
「どういうことだ?」
「デッキはむちゃくちゃに破壊されていた」
「破壊?」
「要するにこれはただの事故じゃない……」
大木はせき込む。血が口から飛び散る。
「大木さん」
「とにかく、急ぎましょう」
どーん
破壊されていく音がなる。
「あっ」
だれの声が上がる。窓の外。
再び光線がこちらへと向かってくる。
「やべえ」
アキラがつぶやく。
「間に合わないかも」
「どういうこと?」
「あれはとどめの一発かもってことさ」
「はア?」
「あれ食らったら、船が一気に崩壊する」
アキラの額に汗がにじんだ。
もうだめかと思った直後、光が急激に曲がって、いずこかへと消える。同時になにもないはずの空間に次々と弾丸が打たれていった。その煙とともになにもない空間から徐々に一つの機体が姿を現す。
人型の機体
まるで戦国時代の武将の着る甲冑のようなものをまとった二つ目の人型ロボット。その腕には一つのライフルらしきものが握られている。
「あれは?」
「武蔵?」
アキラがつぶやく。
「武蔵?それって、維新紛争で用いられた機体のことよね」
「ああ。たしか、あの事件ののちにすべて破壊されて、あれのデータもすべて消去したってきいた」
「そうじゃなかったということね」
いつの間にか零や飛鷹がそれを取り囲み、火炎弾を打ち付けている。
「あれだけじゃ話にならねえじゃないか」
そうつぶやくと、アキラは宇宙服に備え付けられた通信機を開いた。
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