8
「師団長! 師団長!」
アキラが船のデッキに叫びながら駆け込んでくる。何事かと振り向くよりも早くデッキ(飛行機で言うコックピットのような部屋)の真ん中にある師団長席に座る西郷に詰め寄った。
それにデッキ担当の団員たちが思わず団長席に視線を集中させる。詰め寄られた西郷もまた目を丸くしながら仰け反った。
「何だ? 早坂」
「設計図! 座礁船の設計図みられませんか?」
「設計図? なぜ?」
「設計図を見れば、大体の構造がわかります。それで完成図を作成すれば、探しやすくなるはずです」
「完成図ってのは?」
あとから、追いかけてきた拓海が尋ねた。
「そのままの意味っすよ。設計図を見れば、船のだいたいのビジュアルの検討はつくということです!」
「おい、あの船の設計図は記録しているだろう?」
西郷はすぐさま彼らのいうことを理解したらしく、オペレーターの一人である梅原のほうをみた。
梅原もすぐにモニターのほうを確認する。
「はい。大丈夫です。データは保存してあります。いまそちらに出します」
梅原はすぐさま座礁船の設計図データを団長席に備え付けられたモニターにだした。
アキラはのぞき込む。
「かわろうか?」
「はい。すみません」
西郷はアキラに席を譲る。アキラが椅子に座ると、慣れた手つきでキーボードをタッピングする。すると、モニターに出された設計図があっというまに立体的な船形へと変化し、座礁船の全貌が明らかになった。
「これですね」
「ああ、たしかにこんな形をしていた」
西郷はうなずいた。
「けど、これって……」
映し出された座礁船の想像図を見たアキラは、目を見張った。
「師団長。この船……。おれ、見たことあります」
「見たことある? どこで?」
「おれが月へ来る前に立ち寄った船です」
南条と拓海は、お互いに見合わせた。
「それはどの位置だ?」
「ここからだったら、そんなに遠くはありません。動線上にあったから、さほど動いてはいないはずです」
「チェック頼む」
西郷に言われて、梅原をはじめとするデッキの団員たちはデータ詮索を始めた。
「ありました。確かな反応です」
「よし、それじゃぁ、いこう」
西郷が叫んだのを見計らったように着信音が鳴り響いた。
「たく、こんなときに……はい、こちら、第89師団新選丸」
『こちら、月面コントロール。救難信号発令しました。ただちに信号受信を……』
「おい」
南条の掛け声でデータ担当が救難信号受信を確認する。
「反応ありました。これは……」
「どうした?」
「12時の方向2000。例の座礁船のある場所です」
「まさか……」
「あの座礁船にぶつかったのか?」
「いえ、別です。たしかに位置はほぼ同じですが、おそらくデブリに押し流されたのでしょう」
デーダ担当の推測に南条は顎をさすった。
「わかった。とにかく、至急捜索に出た零部隊を呼び戻せ。これから救助へむかう」
「アイアイサー」
「船外活動中の団員につぐ。至急、帰還し、次の任務の準備に取り掛かれ」
オペレーターが船外活動をしている零船に指示を出す。
「君ら持ち場につきなさい。飛鷹にて待機せよ」
「はい」
拓海と樹はすぐさまデッキを出ていった。
「チューブ!頼む」
「アイアイサー」
アキラの肩に乗っていたチューブが突然南城の肩に飛び乗った。
驚いたのはいうまでもない。それを確認するよりも早くシートから立ち上がったアキラは、デッキから出ていこうとする。
「おい! 早坂!」
「師団長。そいつ、頼みます。あとはそいつが分析してくれますんで!」
「はっ? おい、分析って……」
西郷の質問に答えることなく、デッキから出て行ってしまった。どういうことだろうと憶測するよりもはやく、チューブによって、その答えはもたらされた。チューブの口があき、中からは導線が飛び出してくる。それが団長席のパソコンと接続され、モニターのデータが次々と変化していった。やがて未完成だった船の形がはっきりと形になっていく。
「なるほどね。こいつは優秀なもんじゃ」
西郷は関心すると、すぐに気持ちを切り替えた。
「これより救難信号は発令地点へ向かう」
すぐさま、団員に指示を出した
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