「師団長! 師団長!」


 アキラが船のデッキに叫びながら駆け込んでくる。何事かと振り向くよりも早くデッキ(飛行機で言うコックピットのような部屋)の真ん中にある師団長席に座る西郷に詰め寄った。

 それにデッキ担当の団員たちが思わず団長席に視線を集中させる。詰め寄られた西郷もまた目を丸くしながら仰け反った。


「何だ? 早坂」


「設計図! 座礁船の設計図みられませんか?」


「設計図? なぜ?」


「設計図を見れば、大体の構造がわかります。それで完成図を作成すれば、探しやすくなるはずです」


「完成図ってのは?」


 あとから、追いかけてきた拓海が尋ねた。


「そのままの意味っすよ。設計図を見れば、船のだいたいのビジュアルの検討はつくということです!」


「おい、あの船の設計図は記録しているだろう?」


 西郷はすぐさま彼らのいうことを理解したらしく、オペレーターの一人である梅原のほうをみた。


梅原もすぐにモニターのほうを確認する。


「はい。大丈夫です。データは保存してあります。いまそちらに出します」


 梅原はすぐさま座礁船の設計図データを団長席に備え付けられたモニターにだした。


 アキラはのぞき込む。


「かわろうか?」


「はい。すみません」


 西郷はアキラに席を譲る。アキラが椅子に座ると、慣れた手つきでキーボードをタッピングする。すると、モニターに出された設計図があっというまに立体的な船形へと変化し、座礁船の全貌が明らかになった。


「これですね」


「ああ、たしかにこんな形をしていた」


 西郷はうなずいた。


「けど、これって……」


 映し出された座礁船の想像図を見たアキラは、目を見張った。


「師団長。この船……。おれ、見たことあります」


「見たことある? どこで?」


「おれが月へ来る前に立ち寄った船です」


 南条と拓海は、お互いに見合わせた。


「それはどの位置だ?」


「ここからだったら、そんなに遠くはありません。動線上にあったから、さほど動いてはいないはずです」


「チェック頼む」


 西郷に言われて、梅原をはじめとするデッキの団員たちはデータ詮索を始めた。


「ありました。確かな反応です」


「よし、それじゃぁ、いこう」


 西郷が叫んだのを見計らったように着信音が鳴り響いた。


「たく、こんなときに……はい、こちら、第89師団新選丸」


『こちら、月面コントロール。救難信号発令しました。ただちに信号受信を……』


「おい」


 南条の掛け声でデータ担当が救難信号受信を確認する。


「反応ありました。これは……」


「どうした?」


「12時の方向2000。例の座礁船のある場所です」


「まさか……」


「あの座礁船にぶつかったのか?」


「いえ、別です。たしかに位置はほぼ同じですが、おそらくデブリに押し流されたのでしょう」


 デーダ担当の推測に南条は顎をさすった。


「わかった。とにかく、至急捜索に出た零部隊を呼び戻せ。これから救助へむかう」


「アイアイサー」


「船外活動中の団員につぐ。至急、帰還し、次の任務の準備に取り掛かれ」


 オペレーターが船外活動をしている零船に指示を出す。


「君ら持ち場につきなさい。飛鷹にて待機せよ」


「はい」


 拓海と樹はすぐさまデッキを出ていった。


「チューブ!頼む」


「アイアイサー」


 アキラの肩に乗っていたチューブが突然南城の肩に飛び乗った。


 驚いたのはいうまでもない。それを確認するよりも早くシートから立ち上がったアキラは、デッキから出ていこうとする。


「おい! 早坂!」


「師団長。そいつ、頼みます。あとはそいつが分析してくれますんで!」


「はっ? おい、分析って……」


 西郷の質問に答えることなく、デッキから出て行ってしまった。どういうことだろうと憶測するよりもはやく、チューブによって、その答えはもたらされた。チューブの口があき、中からは導線が飛び出してくる。それが団長席のパソコンと接続され、モニターのデータが次々と変化していった。やがて未完成だった船の形がはっきりと形になっていく。


「なるほどね。こいつは優秀なもんじゃ」


 西郷は関心すると、すぐに気持ちを切り替えた。


「これより救難信号は発令地点へ向かう」


 すぐさま、団員に指示を出した

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