schiller0

野林緑里

プロローグ

 お前はなにがしたい?


 その男が問う。


 いつの頃のことだったのだろうか。


 記憶はあいまいなのだが、なんだか異様に血なまぐさい匂いがいたるところに漂っていたことだけは覚えている。その異臭しか漂わない大地の中、幼い俺は行くあてもなくさ迷い歩いていた。


「見つけた」


 そこには誰もいない。転がるのは無数の亡骸と壊れた機械と焼け落ちた家屋だけだった。


 誰もいない。


 誰もが動くことをやめている。

 

 すでに息絶えているものもいれば、ぼんやりとして空を眺めているもの。

 

 ひたすらだれかを探してさまよう子供たち。

 

 その中に自分がいるのだが、俺には探している人などいない。そもそも、そんな人がいたならば、俺の生まれた意味もあったはずだろう。俺は探しているのは人ではない。


 なら、何を探しているのかというとはっきりしなかった。


 なにかを探そうとしているのに、俺にはその目的がなかった。


 そんなときだった。


「やっと見つけた」

 

 突然一人の男が話しかけてきたのだ。


「だれ?」


 俺は彼の顔が逆光ではっきりと見えなかったがどこかうれしそうに笑っていることだけはわかった。


「おれは君を助けにきたんだよ」


「はい?」


 意味が分からなかった。


 助けにきた?

 それは俺のことなのか。それともこのあたりを親を亡くしてさまよう子供たちすべてのことなのか。


 俺にはピンとこなかった。


「君のように失った子供たちだよ」


 俺が問いかけるよりも早くそう答えた。

 

 失った?


 その言葉に俺はなにを失ったのかと考えた。


 そもそも俺はなにを持っていたというのか。


 俺にはなにもなかった。


 生まれたときから何もない。だから、失ったものはない。


「ほとんどは親だろうな。けど、君は元々親なしだろう? だから、失ったのではないのかもしれない。だけど、居場所は失っただろう?」


 確かにそうだ。


 ほんの少し前まで俺がいた場所は失った。


 どうやら、彼は行き場を失った子供を拾いにきたらしい。


 彼の姿が明確になっていく。


 まだ若い。


 十代後半といった感じの男だった。


 後に彼が二十八だと聞かされてたときには俺を含めだれもが度肝を抜かされたものだ。


 それはここで語ることではない。


 若いということもだが、俺が驚いたのは彼を見たことがあったからだ。


 俺が居場所を失った事件の現場にいた男だった。


 すべてを破壊されて、さっきまで笑っていた仲間たちの屍ばかりが漂っていた血の大地。


 茫然としている俺の目の前に彼がいた。


 軍服で身を包んだ彼が俺のほうに手を伸ばしてきた。


 けれど、俺は逃げた。


  怖くて逃げてしまったのだ。


  それからどれくらいさまよったのかわからない。


 気が付けば、男が俺の目の前にいたのだ。


 彼はもう迷彩柄の軍服を着ていない。


  私服を着た彼は最初に見た切羽詰まった顔ではなく。穏やかな表情で話しかけてきたのだ。


 男はいう。


 俺のところにこないかと……。


 猜疑心をもっていた俺だったが、いつのまにか男の元で暮らすことになった。


 そして、俺は男がかつて所属していた『宇宙保安警備自衛隊』を目指すことになった。



 その目的は……。

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