年下の男の子
鹿
第1話
アタシはあの日、出会ってしまった。
第一印象は、学生かとも思ったし、アタシよりも少し年下??35歳くらいかな。とも思った。
あの頃に行き始めた感じのいいこじんまりした居酒屋さん。
常連の彼をママさんが紹介してくれたのは今でも覚えてる。
彼は何だか疲れていた。
生気がなくって、疲れていた。
でも、アタシの話を聞いてくれて、当時勤めていた会社のパワハラちっくな悩みに親身にアドバイスをしてくれた。
アタシは彼をすっかり気に入ってしまった。
当時、一応付き合ってる人はいたけど、アタシの話しは聞かないし毎日どこで何してるかもわからない。
突然、連絡が来て飲みに行ってホテルでセックスするか、向こうの家でご飯作って猫と留守番というパターン。
困って連絡してもなしのつぶて。
特に何も求めていないけど、アタシの誕生日も覚えていない事には正直閉口した。
そんな事より、アタシは彼を気に入ってしまったのだ。
自分のことより人のことばかり考えて自分を押し殺して生きてるような気がして、今思えば母性本能なのかもしれない。
いや、きっとそうだったと思う。
そして、それは今でも続いてると思う。
アタシは結構行動派だ。
彼の家はどこら辺くらいは聞いていた。
ある日、彼の家の近くでぼや騒ぎがあった。
何だか心配でいてもたってもいられなくなった。
彼の事務所の名刺はもらってたので、事務所のアドレスに、メールしてみた。
そしたら、そんなに近いわけでもなくって結局大丈夫とのこと。
でも、それで彼の個人アドレスをゲットした。
アタシはいっつも、割と積極的。
彼は過去には忘れられない人がいるみたいだったし、アタシもそこまで考えてなかったけど、お店の常連さんとかが、勝手にセッティングしてくれたり、2人が気づかない内に周りが何かを進めていた。
余計なお世話。
ある日、すごく酔っ払って家まで送ってもらうことがあった。
すごくあっためて欲しかった。
抱きしめて欲しかった。
でも、彼は紳士で帰っていった。
好ましい。
こんな男は過去いない。
すごいなー、あ、でもアタシに魅力はないだけ?とか考えた。
でも、次に送ってもらった時には彼はアタシをあっためてくれた。
アタシはやせてる人とか貧相な人は好きじゃない。
肉付きがよくって、がっしりしてる人にぎゅーっと抱きしめられるのが好き。
彼はビンゴ。
思えば過去付き合った人はみんな痩せてたかもしれないけど、アタシも太ってるわけじゃないから骨がお互いぶつかって痛いのだ。
だから、がっちりしてる人が好き。
気持ちいいもん。
一度寝ちゃえば話は早い。
二人で色々出かけるようになった。
アタシたちは、いろんなとこに飲みに行った。
映画も行ったし、買い物やらゲーセンやら、恐竜展やら、鉄板やらフレンチやら・・・・・。
一番好きなのは、公園。
芝生でごろごろしておしゃべり。
本屋も好き。
お互い勝手に自由行動して、これを買ったとか、これどう思う?とか貸し借りしたり、楽しい。
そういうの大好き。
あと好きなのは、アタシの料理を喜んで食べてくれるところ。
小食な男は嫌い。
ぼそぼそ食べる男も嫌い。
美味しい、美味しいってモリモリ食べてくれると嬉しくって、一人で笑ってる。
だから、たまに作り過ぎて彼は、毎回ちょっと困ってた。
そんなところも非常に好ましい。
そんな感じもいつまでも続かない。
彼は真面目な男の子だから、この後のことをなんだか考えてくれたようだ。
でも、彼の未来にアタシはマッチしないみたい。
当たり前だ。
アタシは未来なんぞ考えてない。
早く消えてなくなる事ばかり考えている。
毎日生きるのが苦痛だ。
今日も生きてる。
起きると毎日思う。
ということは、今日も生きなきゃいけないんだ。
そうやってずっと生きてる。
だから、結婚とかしてみたいなーとも思うけど、本当に大事な人とは申し訳なくて出来ない。
だから、彼との未来はない。
飲み友で、姉と弟。
それがいいところだろう。
アタシはずっとそう考えてる。
だから彼が考えてくれてる事はありがたいけど、お門違いなわけである。
くっついたり離れたりしてるけど、アタシを必要としてくれる限り、アタシは彼に誠意を尽くす。
彼は素直な子だし、デリカシーのないところ・・・というかはあるけど、気の利く素敵な男の子だ。
多分、結構もてると思うんだけど、鈍感だから気づかないんだろーなって最近思う。
アタシの誕生日なんて、それはそれは素晴らしい気遣いをしてくれたんだから!!!
あとは、一緒にいるととても楽しくって、アタシは彼といるとき、一日で一番笑ってる。
勝手に微笑みが浮かぶ。
嬉しくって、楽しくって。
だから、アタシは彼といるとほっとする。
癒される。
ありがとう・・。っていつも思う。
彼は、体調の事を気にかけてる。
アタシも心配。
出来る事は何でもするけど、彼はすぐに自分で何とかしようとする。
頼ってくれていんだけどな。
今後、どうなるかわからないけど、この関係が後半年くらいはもてばいいな。
彼は彼の道があるから、アタシは邪魔しない。
予定が合えば、話を聞いてもらったり、彼の話も聞いたり。
家族のいないアタシには何だか家族がいたらこんな感じなのかなって、一緒にお風呂に入ったりしてると思う。
セックスもしたりしなかったり。
会って、ポツリポツリと会話してるだけでいいんだ。
顔見て元気ならいんだ。
そして、彼が困ったときとか、話したいときに、アタシを求めてくれればいい。
アタシは多分その内、消えてなくなる。
水面の泡のように。
年下の男の子 鹿 @chi-sable
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