第2話 桜木玲の秘密
「付き合って下さい」
「いいぜ。キミのためなら喜んでキラーン」
……というようなやりとりがあっておよそ一ヶ月が過ぎたある日。
俺と桜木は地元のろくに繁盛していなさそうなちみっちゃいスーパーに買い物にきていた。
とはいえ、別に結婚したというわけでも同棲生活を開始したというわけでもなく、たんに桜木が「私の家に遊びに来て」というのでお言葉に甘え、本日は桜木邸へご招待される運びとなったわけだ。
そして、どういうわけだか都合がいいことに(と言っていいのか分からないが)、今日は桜木の両親はともに不在ということらしい。そのようなことは度々あるらしく、桜木自身は慣れたような手つきで夕飯の食材となるニンジンやジャガイモ、牛肉などを買い物かごへ放り込んでいく。どうも肉じゃがを作るつもりのようだ。
一通り必要なものはかごの中にそろったらしく、俺は桜木の後に続いてレジカウンターの前へ。たった一つしかないレジには二人ほどおばちゃんがいて、他愛ない世間話をしているようだった。
チラチラッ、とおばちゃん二人組が俺たちを見る。ついでにレジ打ちのおじちゃんも。
たまに買い物に来る桜木はともかく、今日はお菓子の箱に付随するおまけのように俺が後ろに控えているからな。桜木が男をはべらせて買い物にくるのが珍しいのだろう。だがそれはあくまで『桜木玲が見知らぬ男を連れて歩いている』のが珍しいのであって、『桜木玲が俺を連れて歩いている』ことが珍しいのではない。というか、この場合男の方は別に誰だっていいのだ。
よからぬ憶測を話し合うことで盛り上がっているおばちゃん二人が清算を済ませ、桜木が買い物かごをレジに置く。無口で無表情が売りのレジのおじちゃんがかごの中身をピッピ、とバーコードリーダに読み込ませていく。途中レジに何かを入力して、会計が出た。
「八百二十七円」
無愛想な声で、金を請求してくる。桜木は鞄から結構高そうな財布を取り出し、その中から請求された金額と同額を取り出しておじちゃんの手に乗せる。ちなみに、「俺も払おうか?」と提案してみたのだが、「いいよ、これくらい」と苦笑気味に一蹴されてしまった。桜木がそう言うのであれば何を言わないが、正直胸の内にモヤのようなものが溜まってしまう。
「……今夜、体で返してもらうから」
「えっ……それってどういうこと?」
フフフ、と微笑むだけで、桜木は答えようとしない。それどころか、とっとと清算済ませて袋を持ち、スーパーの出入り口まで歩いて行ってしまう。
現代にしては珍しく、このスーパーはまだ自動ドアではないようだ。手で押したり引いたりして開閉し、ドアの上の方に取り付けられているベルが鳴ることによって来客を知らせるタイプのものだ。
なので、俺たちが出て行く際にもベルが鳴る。そして出て行こうとしたところで、向こう側から黒いコートにサングラスにマスクに手袋に不自然にL字形に膨らんだポケットの男がやってきた。強引に店内に入ると、落ち付きなくキョロキョロとあたりを見回している。
「何だあいつ」
少々不満に思いつつも、桜木がさっさと歩いて行ってしまうので、小走りで彼女の後を追う。
それからは特筆するべきことも無く、俺たちは楽しくお喋りしながら桜木邸へ向かうのだった。
◇
学校では深窓の令嬢みたいな扱いをされている桜木の家は、意外なほどに普通で、少々どころではない驚きが俺の心中を支配していた。
「えっと……」
どこにでもあるような二階建て。屋根は赤に近い紺色で、まあ特別金持ちというわけでも変わっているというわけでもない外観だった。
本来であるならば、驚く要素など微塵も無いのだけど……。
そのことに呆気にとられていると、玄関の前で桜木が手招きしている。早く来い、ということなのだろう。
俺が桜木のもとへ向かうと、彼女は満足そうに一つ頷いて、ポケットから家の鍵らしき物を取り出した。それには鍵が二つ付いており、扉の方にも鍵穴が二つ付いていた。いわゆる、二重ロックというやつだ。
桜木の両親は、防犯対策に熱心なようで。
桜木がその鍵を使って二重ロックを解除し、家の中へと入る。俺は恐る恐る顔だけを覗かせる形で玄関内に視線を走らせる。
これまた普通。
使っている素材は少しばかり上等そうだが、デザイン的には俺んちにあるのと対して変わらない靴箱に、先ほど桜木が出してくれた再客用のスリッパ。玄関マットはシックな感じのする落ち付いた色合いで、まあ悪くないセンスだと思う。
「何してるの? 入ってきたら」
クスクス、と口もとに手を添えて笑う桜木。可笑しそうに細められた目もとがチャーミングで、凄く可愛かった。
お邪魔します、と俺は体を滑り込ませる形で玄関へと入る。桜木の用意してくれたスリッパを履き、パタパタと鳴らして彼女の後に付いて行く。
どこへ行くのかと思っていたら、台所だった。座ってて、と指示されて隣のリビングのソファに座る。正座で。
ここで、何度と無く頭を過ぎった疑問が再び去来する。
どうして桜木は俺を夕食へと招待してくれたのだろう?
どうして両親がいないという今日、俺を誘ったのだろう?
桜木は一人っ子かな?
三つ目は割とどうでもいい。問題は一つ目と二つ目だ。
どうして桜木が俺を夕食へ招待したのか。それは両親がいなから。一人で食べる夕飯ほど味気無いものは無いだろうしな。そして二つ目。両親がいない日をわざわざピックアップして俺を誘った理由。
家の中には誰もいない。いるのは俺と桜木だけ。
つまり、二人っきりということだ。何をしようが、見咎める者はいない。どんなことをしても平気……。
それはつまり、桜木は今夜俺と、
「どうして正座なんてしてるの?」
「どわっひゃあっ!」
台所から桜木から声をかけられて、意味も無く慌てて振り返った俺に桜木は目を丸くしていた。まあ、それはそうだろう。俺もびっくりしたが、桜木だって驚いた様子だ。
勝手に高鳴っている心臓の鼓動よ静まれと念じながら、俺は至って平静を装う。
「ど、どうした?」
「どうしたってこっちの台詞だけど……?」
「俺は何ともないぜ?」
「そう? ならいいんだけど」
あっ、と桜木は何かに気づいたようにポンと手を打った。それから、イタズラっぽく笑むと、
「分かった。女の子の家に連れて来られて、緊張してるんだ。普段はクールな振りしてる癖に、そういうところで案外純情なんだね」
桜木は何が可笑しいのか、小さく声を上げて笑っている。
この際、俺が純情かどうかなどどうでもいいのだが、確かに俺は緊張している。しかし、それは何も女の子に家に遊びにきたことに由来してるわけではない。
今夜の、俺たちのことを考えて緊張しているのだ。
とは説明できず、仕方が無いので桜木の言うように女の子の家に遊びにきたから緊張してる、ということにしておいた。決してひよったわけでなく。
そうやっておよそ十分から十五分正座していると、台所の方から肉じゃがのいい匂いが漂ってきた。その匂いに食欲を刺激され、俺の腹の虫が鳴き出した。
グウ~、と。
「あはは。お腹空いてたんだね。それじゃあ、できたからこっち来て。一緒に食べよ」
「あ、アイアイサー」
俺は正座の状態から立ち上がり、台所へ行く。既に食卓に着いていた桜木の向かいに許可を取ってから座る。
「それじゃ、いただきます」
と、桜木が手を合わせるのに続いて、俺も同じような文言を口にする。
まず白米に箸を付け、次にホウレンソウのお浸し。そして肉じゃがという順番で三角食べをする。白米の暖かさにお浸しの水っぽさが合わさり、そして肉じゃがの風味と甘みが解け込んでいく。
一言で言ってしまえば、凄い美味。
「うん、美味い」
「ホントッ! 嬉しい」
桜木は心底嬉しそうに目を細めた。
◇
夕食を食べ終えると、俺たちは食卓でのんきにお茶を啜っていた。ずずず、と緑茶を口に含み、ごくんと飲み下す。
ホッと息を吐くと、桜木の方に目をやる。
何だか、さっきからそわそわして、緊張している感じだ。視線なんて不自然なほど泳ぎまくっているし、体は落ち着きなく左右に揺れている。
どうした、のだろう?
と、俺が首を傾げていると、リビングの方からボーンボーン、という古臭い柱時計の音が聞こえてきた。見ると、七時を指し示している。
そろそろ、帰るか。今夜は何も起こらなかった。まあ、桜木の家に来れただけよしとしよう。
「それじゃ、俺はこれで。晩飯美味かったよ」
そう立ち上がろうとして、しかし俺の動きは中途半端に止まってしまった。
理由としては、桜木が上ずった声で止めてきたから。
「待って」
「な、何?」
「あの……その……」
歯切れ悪く、顔を逸らしまくる桜木。つーかこの中腰体勢結構きついんだけど。
そんな俺のつらさを分かっているのかいないのか、桜木はなぜか照れたような興奮しているような、頬を赤く色づかせ、意を決したかのように俺の方を向いた。
そしてこれまたなぜか、自分の分の湯呑みを持っている。おそらく、あの中にはまだ緑色の液体がたっぷりと入っていることだろう。そんなもんを持って俺に近づいてくる理由が、全くと言っていいほど分からない。
桜木の意図が読めない。
リビングの方からはテレビが点いていないため、時計が時を刻む音意外聞こえてこない。
桜木の足音が、一歩、また一歩と近づいてくる。
「何を、するつもりだ?」
答えは帰ってこなかった。ただ、上気したような瞳で俺を見上げているだけだ。ちくしょうめちゃくちゃかわええ。こんなわけ分からん状況じゃなきゃ心ゆくまで鑑賞したいところだが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
ついに、壁際まで追い詰められてしまった。冷蔵庫の隣。
俺は背中の固い感触を確かめて、これ以上逃げ場が無いことに愕然とする。
まずいっ!
何がまずいのかは一向に分からないが、とにかくまずい。嫌な予感がする。むしろ嫌な予感しか無い。
この後の桜木の行動を予測不能だが、もし無理矢理に予想するとするならば、状況的に考えて、彼女が手に持っている湯呑みの中身を俺にぶちまける気だ。いやそんなはずはねえっ! 桜木に限ってそんなことはしないはずだ。
根拠を示せと言われるとちょっと難しい感じなのだが、ただの予想なのでそんなもんを提示する必要はない。
必要なのは、今のこの状況に対する打開策だ。
俺は左右に視線を飛ばすが、桜木の進行を止められるだけの武器は落ちていない。その間にも、桜木はジリジリと俺との距離を詰めてくる。
一歩。
二歩。
三歩。
俺たちの間の距離が目測でおよそ数ミリまで縮まった。そこで桜木の動きは止まり、お茶の入った湯呑みを天上高く持ち上げた。
桜木の目は完全にイッちまったやつのそれだった。
「ま、待て桜木。話し合えば分かる」
何をどう話し合えばいいのか謎のまま、とりあえずそんなことを口走ってみる。が、聞く耳をどこかへと消失させた桜木は勢いよく湯呑みを振り下ろす。
やめてえええっ! と叫ぶ暇は無かった。バシャッ、と湯呑みのお湯を頭からひっ被り、服とかビショビショだ。お湯がぬるくなっていたのが、せめてもの救いだろう。量自体はそれほどでも無く、このまま帰っていたら間違いなく乾く。何の問題もない。
問題は桜木だ。何というか、目の奥に狂気じみたものを浮かべて、鼻息荒く手をワキワキさせている。普通なら、それ俺の役目じゃね? みたいなことを想ったりもしたが、口にするだけの勇気が無く、このまま帰してくれそうな雰囲気でも無い。
突破、できるだろうか。バーサークモードを発現させた今の桜木に、俺は太刀打ちできるのだろうか。
どう、すれば……、
「お風呂に入らないとね」
俺が状況への打開策を練っていると、どの辺りがどうなってそういうふうな結論に至ったのかまるで見当が付かないか、桜木はそんなことを呟いた。彼女の声はもちろん俺に聞こえてきて、その意味するところも理解できる。
だが、なぜ風呂?
つい先刻まで抱いていた桜木との甘い一時とは無縁そうな空気の中、桜木がなぜ風呂などというワードを言ったのかが分からない。もう分からないことだらけだ。
「や、大丈夫。そんなに濡れてないし」
「そんなこと無いよお……すっごいビショビショ」
桜木が俺の頭に手をやり、お茶で濡れた髪を触ってくる。
誰のせいだ、誰の。
俺は必要以上に顔を近づけてくる桜木の匂いやら少しだけ覗く胸もとやらに目が行き、まともに思考することが困難になってきた。
「さあ、入りましょ?」
「……ハ、ハイ……」
ヤバイ。頭がボーッとしてきた。むかし酔った親父に無理矢理焼酎飲まされた時の感じと似ている。なんつうか、頭の中がフワフワして、地に足が付いていないような、妙な感覚だ。
「リビングを出て付き当たりの左手にお風呂あるから」
「リョウカイデス」
ギーギー、とできそこないのからくり人形のような挙動で風呂場まで向かう。桜木に言われた通り、リビングを出て付き当たりの左手へ。
確かに、風呂はあった。服を脱いで扉を開けると、なぜかしっかりと湯船にお湯が張っている。風呂沸かしている時間は無かったと思うだけども、そのことについてはあまり深く考えないことにする。
とりあえずお湯で体を流す。すると、さっきまでフワフワしてた頭の中が少しだけスッキリする。
何してんだろ、俺。
出ようかとも考えたが、着替えとか無いし、それに今出てもきっと桜木と気まずい空気を共有するハメになるに決まってる。ほとぼりが冷めるまで、というと今度は俺の方がのぼせ上ってしまう可能性大だ。
用意周到に脱衣所の籠の中に収まっていた小さなタオルを俺の大事なところに当てて、湯船に入る。
ここが、桜木家の風呂……。
全体的にはこじんまりとしていて、普通というか、うちの風呂と大して変わらないような気がする。ただ、家族の誰かが掃除好きなのか、なんか妙に綺麗だ。うちの人間がズボラなだけかもしれないが、排水溝に髪の毛一本引っ掛かっていない。こんなとこを見る俺も俺だけどな。
ここで、桜木はいつも体を洗っているのか。
「ぐっ……なに考えてんだ、俺」
そんなことを考え出すと、俺の意志とは関係無しに桜木のあんな姿やこんな姿(主に風呂で体を洗っていたり浴槽でゆったりしている場面)が脳裏を過ぎっていく。
無意味に、心臓が一秒あたりの鼓動の回数を増やす。ドキドキドキドキドキ。
風呂場だから当たり前だが、真っ裸だ。そして服の上からしか見たことの無い桜木の胸の大きさと形を勝手に想像し、勝手に悶絶し始める。
クソッ……、と浴槽のお湯を手ですくい、顔を洗う。が、一度始まった思春期の妄想はそんなことで収まるはずが無く、それどころが肥大化の一途を辿った。
有り得ないことに、有り得ないが、桜木がここで足を大きく開いて有り得ないしているんじゃないかとか自分の胸の有り得ないを摘まんで有り得ないーとか叫んでたり。
「……そんな分けあるか、馬鹿か俺は」
ただでさえ熱めのお湯に浸かっているというのに、こんな妄想ばかりしていたら俺のアレがビートして体中がファンキーなことになる。……いかん、本気でのぼせてきたようだ。
他人の家で長風呂してるのもなんなので、もう出ようと座っている体勢から立ち上がった。とはいえ、滾り出した俺のビックマグナムを沈めにゃならんので、脱衣所でしばらく待機となるだろうが。
そうやって、入ってきた時と同じ要領で出ようとすると、目の前に半裸の桜木がいた。
「えっ……?」
「はっ……?」
互いに間抜けな声を出し、状況を認識するのにしばし時間を要した。「きゃあああああああああああっ!」叫んだのは桜木だ。俺は慌てて浴槽へとダイブする。それほど深くはない浴槽の床に膝をぶつけて痛かった。
「桜木っ! おまっ! 何でっ!」
驚きのあまりか、嬉しさのあまりか、俺の舌はあまりよく回らず、言葉を紡ぐことに失敗して思いっ切り噛んだ。痛い(泣)。
バッチリ、見てしまった。桜木玲の、胸。
当然、と言えば失礼になるだろうが、妄想より小さい。だがしかし、手のひらに収まりそうな大きさのそれは、まるで新幹線のようにすばらしくいい形をしている。中央部の鮮やかなピンク色のぽっちも小さくて可愛く、桜木の白い肌によく映える。
そして、俺はこんな状況だというのに、疑問などではなく、桜木の胸を思い起こしている自分にいささか呆れる。
もっと、考えるべきことがあるだろう。
擦りガラスの向こうで、桜木が声を震わせながら、
「きゅ、急に空けられたらびっくりするよ……」
「俺だってびっくりしたわっ! 何してんだよおまえっ!」
何だって半裸だったんだっ! しかも、スカートに手をかけていた。ということはあれからまだ脱ぐ気だったのか。だからなぜっ!
「……一緒に、入ろうと思って……」
控えめな、桜木の声が飛んでくる。そしてその一言は俺から思考力を奪う爆弾としては強力すぎるものだった。
その発想は無かったわ……。
一瞬にして、体中が熱を持つのを自覚した。それも、さきほどの桜木で妄想していた時とは比べ物にならないくらいの熱さだ。
駄目だ。風呂の湯気やらなんやらとこれから桜木が入ってくると思うとあたまがよくわまりすぎないこともないきがするがふにゃにゃなや。
視界が霞む。頭がボーッとする。まるで天国にいるかのような心地よさが俺の中を蹂躙していく。
ああ、ぼく、しんじゃうんだね。
夢であれば冷めないで欲しいと願いつつ、俺は浴槽の縁に体を預け、目を閉じた。
◇
火照った体に、心地よい風が送られてくる。それもクーラーや扇風機といった情緒の欠片も無い文明機から送られてくる風ではなく、緩やかに、一定のリズムで優しく送られてくる風だ。
そして、枕もとで感じる柔らかさも、いい感じだった。まるでむかし母さんがよくしてくれた膝枕みたいに心地よかった。男は少なからずマザコンだというが、もしや俺もそうなのかもしれない。今度の母の日にカーネーションでもプレゼントしよう。
しかし、あれは夢だったのだろうか? よく思い出せないが、凄く得した気分にさせられる夢だったな。願わくば、もう一度見たいものだ。
そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
そして、俺は一瞬だけ体を固くした。
どこだ、ここは?
見慣れない部屋だった。ところどころに点々と、女の子が好きそうなファンシーなぬいぐるみが二、三個置かれている。窓枠にはレースのカーテンがかけられており、あまりひアkりを遮る役割を果たすとは思えない。そしてなによりも気になったのは、俺の手のひらに伝わってくる感触だ。
もにゅもにゅと、柔らかい。
その柔らかいものを何度が揉んでいると、上方から艶っぽいというか、色っぽいというか、まあそんな感じの何ともエロイ意味で男心を擽る甘い声だ。
おそるおそる、眼球を動かす。
「もう、くすぐったいよ」
と、可愛らしく頬を膨らませ、唇を尖らせている桜木がいた。反則ギリギリアウトーなくらい俺のハートを打ち抜いてくる。
そこで気付いたのだが、今俺は横になっている体勢だ。そして俺の顔を上には桜木の顔。んで、桜木はエスパーの類いじゃないはずかだから俺の上で寝ているわけがない。そんな体勢でもないし。
座っている。正座している? 俺じゃあるまいし、自分ちで正座するやつなんて剣道場の一人娘くらいしか思い浮かばない。
最後に手のひらに伝わってくる「あん……」もにゅもにゅ感。そこから総合して考えるに、導き出される答えは(エルエル風に)……。
……膝、枕、だと……っ!
答えを導き出したことで、俺の体は跳ね起きる。それはもう勢いよく転がっただるまよりも高速で。
あっ、と桜木が少々どころではなく残念そうな声を出す。えっ?
「何で起きるの?」
「いや、重いだろ?」
「全然大丈夫だよ。むしろ気持ちイイくらい」
もっかいここに寝て、と膝上を示してくる。彼女の仕草に俺はゴクリと喉を鳴らした。
おねだり……。
そんな単語が頭を過ぎり、そんでもって意地悪してみたくなる。
「……お願い、ここに出してって言ってみ?」
「? 何で?」
「ええけん」
「変なの。まあいいけど。お願い、ここに出して」
くぱあっ、と桜木が大きく開いて見せる。いや口を。そして俺はグッと拳を握った。
イエスッ。
たとえアワビさんじゃなかったとしても、なかなかにエロイ。そして、喰ったことないけどアワビっておいしいんだろうか?
まあそんなことはどうでもいい。
そんなことより、
「なあ、俺どうなったんだ?」
「んーとねえ、お風呂でのぼせちゃったみたいだよ?」
「何でだ?」
よく覚えていない。
桜木の方を向くと、そっぽを向いていた。微妙に頬が赤らんでいる気がするが気のせいだろうか?
「わかんないけど」
「そうか」
何だか、とても幸せな夢を見た気がする。白くて、とても柔らかそうな夢。
「ああ駄目だ、思い出せない」
グシャグシャ、と頭を掻く。ぼんやりとした輪郭は覚えているのだが、詳細が定かじゃない。人型の何か……背丈、と言って差し支えないのか分からないが、大きさ的には桜木と同程度。だが、胸部にあたる個所が今の桜木より人周りほど小さない気もする。
あれは、何だったのだろう。
俺が必死に思い出そうと首を捻っていると、桜木が慌てたように言ってくる。
「と、ところでさ、もう遅い時間だけど、今日はどうするの?」
「時間? 今何時だ?」
「えっと……九時?」
桜木につられるようにして、俺も机の上のデジタル時計を見る。すると、確かに夜の九時を示していた。そして窓の外を見ると暗い。つまり夜の九時であることが明示されていた。俺唖然。
確か風呂に入ったのが五時ごろだったから、かれこれ四時間は眠りこけていたことになる。その間、ずっと桜木の膝枕……いやそんなことはどうでもいい。よくないけど。
この場合、問題なのは現時刻である。
九時……いつもなら家で毎度お楽しみのバライティ番組が始まる時間だ。そして、共働きである父さんと母さんが帰ってくる時刻。
やっぱり、心配するだろうか。一人息子がこんな時間まで連絡も無しに帰って来ないというのは。
「俺、帰るわ」
「お父さんとお母さんには連絡しておいたよ? 今日はみんなで勉強会するから帰らないって」
「……はっ?」
俺の心配を先読みしていたわけでもないだろうが、見透かしたように言う桜木に俺は空いた口が塞がらない思いだった。
「勉強、会?」
「うん、そう」
何がそんなに嬉しいのか、笑顔でのたまう桜木。俺はホッとしたような安堵したような不思議な気持ちになった。
「どゆこと?」
俺が尋ねると、桜木は笑顔で、
「今夜は私と二人っきりってこと」
と返してくる。その意味するところは、つまり……ええっ!
確かに、俺は思春期真っ盛りの高校一年生だ。何というか、そういうエロイことを考えないかと言えばそんなことはないし、興味が無いかと問われればバリバリ興味ありますと答える。だがしかし、実際にこんな展開になるなどと誰が予想しただろうか。少なくとも俺には予想しえなかったことだ。きっと、他の誰にも想像が付かなかっただろう。
二人っきり……今夜、俺と桜木の二人っきり。大事なことなので二度言いました。
しかし、でも、ええっと。
「もー、どうしたの? 私と二人っきりっていうのが嬉しくないの?」
ずずいっ、と桜木の顔が近づいてくる。おもくそしな垂れかかって来て、彼女の自己主張控えめな胸が別に厚くもない俺の胸板に押し付けられる。
今まで、俺が桜木から介抱を受けていたベッドに倒れ込む。ドキドキドキドキドキ、と心臓の鼓動がクソ早くなった。
いい匂い。
甘くて、脳味噌までとろけてしまいそうな香りが鼻腔を擽る。胸以外の、桜木の肢体が俺の体に押し付けられて、俺の体温が急上昇する。風呂に入っているわけでもないのに、またのぼせ上がってしまいそうだった。
気を紛らわせるために、この状況と全くと合致しない質問をしてみる。
「なあ桜木、どうして勉強会なんて嘘吐いたんだ?」
「……だって、正直に女の子と二人っきりなんて言ったらなんて言われるかなんて想像付くし、それにただの女友達って言うんだったらまだいいけど、二人っきりになる相手が恋人だって知られたら変な誤解されちゃうから」
「変な、誤解……?」
「そう。例えば、エッチなことしてる、とかね」
ペロリ、と桜木が俺の首筋に舌を這わせてくる。ゾクリ、と背筋に何かが走り、頭の中がぼうっとする。
「間違いじゃ、無いだろ」
「そうだね。私も、最初はただ一緒にご飯を食べるだけって思ってたんだけど、ずっときみの顔を見てたら我慢できなくなっちゃって」
それで、こんなことを?
ピチャッピチャッ、と水っぽい音が部屋全体に響く。桜木は首筋から胸元、そして下腹部へと舌を這わせていく。
「ああ、そこから先は俺のビッグマグナムがっ!」
ズボンの中で窮屈そうにテントを張るソレに一瞬桜木は目を丸くしたが、すぐにニコッと俺に微笑むかけ、ゆっくりとファスナーを下していく。
桜木って、こんなやつだったか? 俺は学校での彼女しか知らない。もし桜木がこういうやつだとしても、なんら責められるようなことでも無いんだろう。
でも、これはなんか違う気がする。俺が求めているものと一致しないように思う。
確かに、俺はエロイことに興味があるし、そういうアレも経験したいとは思っている。だが、こんな不意打ち見たいなことで……、
「駄目だっ!」
パンツの下から俺のモノを取り出そうとしている桜木の両肩を抑え、素早く立ち上がった。そのまま部屋の出口まで行くと、勢いよく扉を開ける。
「待ってっ!」
後ろから桜木の声が飛んでくるが、そんなもんに構ってはいられない。俺は廊下を走り、階段を駆け降り、ひた走る。
案外普通の家なので、玄関まではすぐだった。
後もう少しで辿りつきそうになって、しかし、俺はその場で盛大にずっこけた。
何がっ、と問うことはしなかった。足許に、長方形の薄い箱のような物が転がっていたから。
きっと、これに躓いたのだろう。いや、躓いたというよりは足もとを見ずに走っていたため、足に当たったこれにびっくりして足を引き、バランスを崩して転倒、というところだろう。
冷静に、そこまで予想して、その箱を手に取る。
「何だ、これ?」
表には、可愛らしい二次元美少女が大きく描かれている。全体的に日やけ気味で、水着に麦わら帽子という一昔前の田舎の少年をほうふつとさせる衣装を纏っていた。
煽り文句に『恋して愛してエッチして。ひと夏の思い出をきみとつくりたい』というのが躍っていた。
「…………」
何だ、これ?
理解が追いつかない。
DVD? にしてはやけにがっしりと重たい。なるで、何か紙の束が入っているような。
俺はその箱を開き、中を見てみる。すると、隠すこともせずに大きなその胸を誇示するかのように下から支えている女の子(二次元)が顔に白いモノを付けて微笑んでいた。左側に分厚い説明書らしきものが同封されている。
俺はその説明書らしきものを取り出し、開いてみた。するとそこには、あられもない美少女(二次元)の姿が。
「これっていわゆるエロゲってやつじゃ……」
その手のコンテンツにはあまり詳しくないが、そのくらいのことは分かる。
それにしても、何で桜木んちにこんなもんが?
と、トットット、と殺しきれてない足音を立てながら、桜木が上階から下りてきた。
「あの……」
オドオドと、申し訳なさそうに眉根を寄せている桜木。そんな彼女の表情に胸の奥がズキッと痛んだ。
「さっきは、ごめんね。嫌……だった?」
「嫌っていうか、まだ心の準備が出来ていないっていうか、俺たちにはまだ早いんじゃねえかって思う」
「そう、なんだ……嫌いになっちゃった? 私のこと」
「嫌いにはならない。ただびっくりしただけだ」
不安そうな桜木が安心するようにと、笑顔を取り繕って見せる。すると、桜木は安心したようにホッと息を吐いた。
「もう少し、時間をかけて、だね」
「ああ。俺たちの関係ってのはなんていうか、もうちょい違う感じがいいからな。キレイにつうか、ああいうのは違う気がする」
「……うん」
と納得したように頷く桜木に、俺は拾ったエロゲの箱を突き出してみた。
「で、これは何でしょう?」
笑顔を取り繕って見せた。どんな顔になっているかは、自身のことなので俺には分からない。
ただ、桜木の表情が引きつり出したのは確かだ。それに関しては自身を持って言える。
桜木は顔を青ざめさせつつ、
「どうして、それを?」
「そこに落ちてた」
俺が足もとを指差すと、桜木は更に顔を青ざめさせた。
わなわな、と体全体が小刻みに震えている。明らかに動揺しているサインだ。
俺は右手の階段の奥、電気の全く点いていない暗闇へと視線を投げた。
何も見えない。
だがしかし、この先に桜木を青ざめさせる現況があるようだ。
暗闇から、桜木へと視線を転じる。
「確かに、ちゃんと直したはずなのに……」
まるで絶望に浸り切ったというように、桜木は両の掌を見詰め、眉を寄せていた。今にも泣き出しそうだ。
そんな彼女に対し、俺は手に持っていたエロゲの箱を差し出し、
「これ、おまえのか?」
「えっ……」
何を言っているのか分からない、みたいな顔をされた。大きく見開かれたその瞳には、少しだけ涙が滲んでいる。
「いや、これおまえのかって」
しばしの間、桜木は黙り込む。必死で何かを考え込むように目を泳がせている。
何を考えているのか、だいたいの予想は付く。
そして、
「違う」
と、桜木は言った。
「これは私のじゃない。私、こんなの持ってない」
「……そうか」
明らかな嘘だ。ちゃんと直したはずなのにとか言ってたし。なによりさっきからの桜木の行動。普通のやつなら思い付きもしなかっただろう。
「それ、弟のだよ」
と更に嘘を重ねる。この間、一人っ子だって言ってただろ。
が、そんなことは指摘せず、俺はエロゲの箱を持ったまま暗闇の方へと歩み出した。慌てた様子で、桜木が回り込んで通せんぼしてくる。
「駄目。行かないで」
「……なんでだよ。弟の何だろ? 落ちてたんだからちゃんと返さないと」
「その……それ、私が預かっておくよ。弟が返ってきたら返しとくから」
「ところで、もうそろそろ十時になろうとしてんだけど、桜木の弟ってまだ帰って来ないの?」
あっ、というように桜木の口を開ける。あまり見たことの無い彼女の表情を、新鮮に感じる。
が、それより今は大事なことがある。
俺は桜木の体を押し退け、ずんずんと奥へと進んで行った。止めてくれと桜木が泣いて縋るが、歩みは止めない。
付き辺りの部屋の前に立つ。暗くてよく見えないけど、手触りでそこに扉があることが分かる。扉があるということは、ここに部屋なり物置きなりの空間があるということだ。
俺はノブを掴み、回した。キイ、と蝶つがいが錆びついた音を発し、扉が開けられる。後ろから、桜木の嘆く声が聞こえてきたが今さら止まるわけにはいかない。
部屋に入ると、ここも真っ暗だった。手探りで電気のスイッチを探り当てる。
カチッ、という音とともに、部屋の中が照らし出された。そして、その部屋の様子に俺は驚愕する。
「なんじゃ、こりゃ……」
部屋の中は、背の高い棚が整然と並んでいた。色も大きなも全て一緒。隣の棚との間隔さえ統一されている感じだった。
そして、どの棚も同じような二次元美少女が背に書かれた箱で埋め尽くされていた。ひまわりの咲くような笑みを浮かべながら、全員俺を見詰めている。その様はまさに圧巻だ。
唖然とする。
「ああ、ついに見つかってしまった……」
後ろから桜木の沈んだ声が聞こえてきた。振り返ると、今にも泣き出しそうな彼女の姿があった。
「何だ、これは……?」
尋ねると、桜木は目を逸らしたまま答える。
「ここにあるのは、全部エロゲだよ。もし知られたら嫌われるんじゃないかって思って、今まで言い出せなかったんだ。でも、そんなの駄目だよね。だから、ちゃんと言う」
すうっ、と息を吸い、
「私、エロゲ大好きなのっ! 二次元の美少女大好きなのっ! 大大大好きなのおっ!」
そろそろ十時を回ろうかという時間帯。近所迷惑になるだろうとかそんなことは考えられず、ただ呆然と罰の悪そうな桜木の顔を見詰めていた。
なんて言った、こいつ。二次元美少女大好き……って言ったか?
「ええと……桜木?」
「何も言わないでっ! 分かってるから」
言いかけた俺を遮るように桜木は手のひらを突き出して言葉を被せてくる。
あの……言わせてもらってもいいっすか?
「気持ち悪いよね。こんなのが好きなんて。もし私が男の子だったらすんなり受け入れられたかもしれないけど、でも私、女だし……。こんな趣味、引くよね普通」
関を切ったようにまくし立てる桜木に、俺は声をかけようとした。しかし、再び桜木によって遮られてしまう。
「別れたい、よね。こんな私とは一秒だっていたくないよね」
ぼろぼろと、彼女の頬を涙が伝っていく。
「あの……」
「分かってる、分かってるからっ!」
何が分かっているというのだろう。
しかし、桜木が遮ってくるから俺の言いたいことが全く言えない。それは、何というか気持ち悪いな。
やっぱし、ハッキリ言った方がいいか。
「桜木」
「大丈夫」
何も大丈夫ではない。
俺は突き出されている桜木の手を取り、ぐいっ、と彼女の体を引き寄せる。
「聞けって。俺の話を」
「…………」
桜木の顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。これも、学校で見ることのできない桜木の一面だ。
「おまえは感違いをしている」
ハッキリと、言ってやった。桜木の思い違いを正すために、更に言葉を重ねる。
「一つ聞くぞ。おまえは俺のこと好きか?」
我ながら凄い恥かしいことを訊いている気がする。桜木の方は、通常の状態ではないからいいとしても、俺は比較的冷静な方なのでこの台詞かなり恥かしい。
が、言わないわけにはいかない。だから言った。
「答えてくれ」
黙ったまま、桜木は目を逸らしている。微細に震える唇が、彼女の心境を表していると言えるだろう。
「私、は……」
聞き取ることの難しい、か細い声で桜木が言う。
心無しか、頬に朱が差しているようにも見える。
「好き、だよ。世界で一番、誰よりも、きみが好き」
目を閉じ、こちらに顔を向け、目を開ける。桜木の瞳の奥には、恐さと期待が入り混じった、複雑な感情が渦を巻いていた。
学校で見るような、お嬢様然とした桜木ではない。誰にも見せたことのない、人間らしい弱さを、俺にさらけ出してくる。
それが、この上なく嬉しかった。
「……そうか」
ひどく穏やかな気分だった。この時の俺は、いったいどんな表情をしていたのだろう。笑っていたのだろうか、微笑んでいたのだろうか。
いずれにせよ、引いたり怒ったりということはないだろう。
なぜなら、桜木も笑っていたから。彼女の笑顔を見ることができたから。
「俺もだ」
恥かしさは消え、自然と台詞が頭に溢れてくる。その台詞を言葉にするために、口を開く。
「俺も、桜木が好きだ。最初は可愛いから付き合おうって思ってたんだけど、この一ヶ月は本当に楽しくて、今日も、大変で疲れることもあったけど、桜木が学校では見せない〝弱さ〟を見せてくれた。俺だけに、見せてくれた。だから、」
すうっと、息を吸う。
「ますます、桜木玲のことが好きになったよ」
「えっ……?」
赤くなった瞳で俺を見上げてくる桜木。
「何だよ、その顔」
「だって……絶対引かれると思ったから。絶対振られると思ったから」
「振ったりなんかしねえよ。言ったろ、俺はおまえが好きだからって」
「でも……」
「それに、おまえも言ってくれたじゃん。俺のことが好きだって。世界で一番好きだって」
「それは……まあ言ったけど」
なら、それでいい。
俺は桜木のことが好きで、桜木も俺のことが好きで、お互いに両想いだ。別れる理由なんかないし、振る理由もない。
それにたぶん、
「おまえがあんなことをしてくれたのって、俺のためだろ?」
「あっ……うん。喜んでくれることがしたかったから」
ここにある大量のエロゲ。桜木はおそらく、それらの知識をフルに使って、あんなことしようとしてくれたに違いない。だったらそれは、とても嬉しいことだ。
俺のことを想っての行動は、嬉しいことだ。
「でもよ」
桜木がビクッと肩を震わせる。次に何を言われるか分かったもんじゃないからな。
ま、そこまで酷いことを言うつもりはないけど。
「俺たちにはまだ、ああいうのは早いと思うんだ。もっともっとお互いのことを知らなくちゃならない。そうすれば、たぶん今よりもっと俺は桜木のことを好きになるから」
「……うん」
「だから、ここにあるのはそっと、おまえの胸に仕舞っていてくれ」
「……うん」
素直に、小さく頷く桜木の頭に、そっと手を乗せた。ゆっくりと、滑らせるようにして彼女の頭を撫でていく。
くすぐったそうにはしていたが、抵抗はなかった。
「んじゃ、これからもよろしくな、玲」
俺は桜木の頭から手を退かした。少しだけ残念そうに桜木が唸り声を上げる。
一歩下がり、満面の笑みを浮かべて、
「よろしくね、健斗」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます