第10話【次なるネタがあるのか?】
異空間な部屋というものは少しくらい片付けてもたいていの場合異空間なままである。しかし結果から言えば真央の異空間な部屋の内実は他人に知られることは無かった。
忍はソードアートオンライン全27巻が詰め込まれた『二個入りメロンの箱』を真央の家の玄関先で受け取ると、その重量をものともせず嬉しそうにそのまま持って帰って行った。
(……なんか平気そう……)こういうところの思考はいかにも真央であったが、一方でまた別の感情も心の中にはあった。
(……『上がってって』と言えば良かったのかな……)
真央の心、その心象風景の中には荒涼たる風が吹きすさんでいた。
「ちょっと待ってて、持ってくる」と言って『二個入りメロンの箱』を玄関先まで持ってきてしまったのは真央の方だった。やはりどこか(部屋を見られたくない)と思ってしまったのだ。
(……でもなにかが違うような気がする……)ざらりとしたものを感じた真央。
(……これって、わたしじゃなくて、わたしの持っている物に用があるような……)
今さらながらに忍に『上がってって』と言えば良かったのかと後悔する真央。それをできていれば少なくとも反応だけは確認できた、と。
——しかしそれはもはや過ぎたこと。喫緊の懸念事項は……
(……全部で何日貸すことになるんだろう……)
それからの真央の学校生活は平穏の中の不穏だった。もちろん真央は学校で毎日忍と顔を合わせるのだが、『いつ返してくれるのか?』などと訊く勇気があるはずも無い。『どこまで読んだのか?』すらも催促しているようで非常に訊きにくかった。
かと言って『ソードアートオンライン』以外で忍と何かを話そうにも、バスケットボール部所属の人間となにをどう話しを合わせればいいのかなど想像の埒外だと頭を抱えるほかない。
(やっぱし陽キャの体育会系って苦手……)
やはりラノベという媒介が無ければ〝自分には話題も無い〟のだと改めて自覚する真央。
しかしそこはある意味まったくの取り越し苦労だった。忍が〝他のお薦め〟を訊いてきたからだった。
(ほ、ほんものの陽キャは底が知れない……)と心底妙な感嘆をする真央。誰とでも合わせられるそのアジャスト能力は半端じゃなかった。ともかくも得意分野で訊かれた以上は応えなければならない。
(……SAO以外でメジャーなものは……)、真央はかんがえた。
(これなら……ギリギリかな……)、と、そういうタイトルばかりを選んで話題とした。なにせこの流れではやはり学校に持ち込むことになる可能性大だったから。しかしその会話は必然的にオタクのそれになっていった。
そうやってどこか悶々としたものを心の内に抱えながらも過ぎていった真央の5日。でも逆に言うとたった5日だった。貸してから僅か5日後に忍は————
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