第9話【全27巻】
忍は真央にとんでもないリクエストをしていた。それは、
「ソードアートオンライン全27巻を全部貸して欲しい」だった。
「ぜんぶ?」真央は思わず訊き返した。そうしたら忍は「全部」だと言う。「全部を一気読みしたい」と。
真央は逡巡した。
(ソードアートオンライン全27巻は一財産だ……)
しかも27冊もの本を無造作にスクバの中に突っ込まれればそれだけで表紙に折り目がつき、カバーが曲がり、汚さないように丁寧に丁寧に読んできたのが全て水の泡となる。
(『読書用・保存用・布教用』と、同じ物を三つずつ買うのがヲタクなどというのは俗説だ。普通に物量が三倍になり部屋が死ぬ)
しかし『貸せ』と脅されたわけじゃない。このラノベをきっかけに友だちができないか、と思ったのは他ならぬ真央自身なのだ。
一応は、
「重いよ」と言ってみたがそこは相手が陽キャ。
「だいじょぶだから。わたし体力に自信あるし」と戻ってきてしまった。
「……さすがに学校に27冊持ってくるのは無理だから……、わたしの家まで来て……」と真央は答えるしかなかった。
かくして真央は期せずして葉山忍を自宅へと招くことになったのだが、部屋に上げるか上げないか最後まで迷った。はっきりと言えるのは一般人から見たら真央の部屋は異空間過ぎて、その異空間ぶりを真央も自覚していたから、迷うのである。
(……これが似たもの同士だったら……)と真央は思ったが、そこは真央思考。オタクの部屋が全てとっちらかっているとは限らない。
真央は〝全ては忍次第〟と覚悟を決めた。
(……最低限の掃除はしておこう……)一応常識的な価値観もある真央である。
問題は〝梱包〟である。〝梱包〟こそが問題であった。
(……ソードアートオンライン全27巻を輸送時に傷物にしてはならない……)
真央は『二個入りメロンの箱』の中にソードアートオンライン全27巻を詰め込み、そして新聞紙をくしゃくしゃに丸め緩衝材として突っ込み、念には念を入れてその上紐で縛った。
持ってみると、
(ぐわ、この重量!)
真央はその大荷物を静かに床に降ろすと、
(……とにかくできる限りの最善は尽くした……)、と改めて諦観した。思考は相変わらずこんな調子の真央である。
他日、真央は忍の部活の無い日、ふたり並んで一緒に下校した。むろんそれは雨の日ではあってはならない。さすがにココだけは譲れなかった。
そしてこれは真央にとっては高校入学以来初めての誰かとの下校。それが狙ったわけでもないのに現実化してしまった。しかしその心中が落ち着くことは無く、会話もどこか上滑りし終始ドギマギし続けていた。
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