第3話 嘘
帰宅するといつものように鞄だけを玄関に置き、直ぐに隣の家のインターフォンを鳴らした。
ピンポーン、と軽快な音が耳を打つが、いつもと変わらず、その向こうから返事はない。予想していたことだが、はぁと溜息を吐き、ポケットから取り出した合鍵を使って、鍵のかかったその玄関の扉を開ける。
「お邪魔します」
一応、いつもちゃんと、その断りをいれてから玄関に足を踏み入れた。
見慣れた靴に、目的の人物が今日も引きこもっていることを確認してから、その靴の横にそっと自身の靴を揃えた。
「ほんと、お前、いつまでそうしてるつもり?」
「………」
目的の人物ー朔也ーは、リビングではなく自室のベッドの上にいた。ベッドに突っ伏して寝ているのかと思ったら、挨拶するように片手が上がった。それを確認して、息を吐くと共に毒づいた。律の毒は残念ながら、朔也にはなんの効果も無い。
「ほらっ! 飯はっ? 昼は食べたんだろうな?」
だらりとベッドから落ちた腕を引っ張り、彼をベッドから引きずり落とそうと試みる。しかしまた、残念ながら、彼はびくともしなかった。
「…………先輩から、聞いたぞ」
この言葉の方が、容易に彼をピクリと動かした。
「……何を?」
「……お前さ、ひょっとして……」
言うべきか否か、言葉が口から出るその瞬間まで、律は悩んだ。けれど、結局、口にせずにはいられなかった。
「…………嘘を、ついているんじゃないのか?」
「……」
「お前は、先輩の彼氏でも何でもない。……そうなんだろ?」
朔也は、遂に何も言わなかった。
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