第2話 白い餅の、白い友人

「林檎の王様、あなたはほとほと勿体ない」


「はて、勿体ないとは何事か」


「世界にはいろんな色がある。青、黄、緑に、紫、橙。なにも赤に限らない。それすら知らずに赤だけ好くとは、なんて勿体ない御人だろう」




餅は やれやれ 鼻で溜息


林檎の王様 わなわな 真っ赤




「それは侮辱か! 無礼者! やはり焼いて食ってやろう!」


「いやいや、いやいや、そうではない。落ち着きなさいな、王様よ。ひとつ提案したいだけ。赤しか知らない王様に、ボクが色を教えましょう」


「その必要は全くない。ルールはひとつ、赤しか愛さぬ、それだけだ」


「最後まで聞いてみて下さい。ボクの友達に紙がいる。紙は魔女さ、どんな色をもつくり出す。どうです、私が連れてきます。さすれば、王様は赤のみならず、多くの色を知れますよ」


「ルールはルールだ。王が破ることなどあってはならない」


「王であるからルールを変えられるのです。赤しか知らないあなたはただの無知。だけど紙の魔女に会えば、あなたはただの無知ではなくなります」




林檎の王様 眉毛をひん曲げ 考える


林檎の王様 語気を荒めに 我を折った




「なんて生意気な餅なんだ。そこまで言うなら連れてみよ」


「仰せのままに。紙の魔女をお連れします」




交渉成立 はしゃぐ餅


張眉怒目 林檎の王様


ザクロ大臣 捕まえて


餅を見張れと指示を出す




ザクロ大臣 断れず


一人 しょんぼり 干からびる


なんせ 紙の住処の森まで


城から三日の道のりだ




* * * * *




ラッタラ歌う 白い餅


三日なんてへっちゃらさ




ひいひい息切れ お供のザクロ


三日経つ頃 疲弊で酸化




お城の大臣 引き連れて


二人は 紙の住処 森の中




森は静か? いや違う


きらきら光る色たちの


楽しげ踊るパレードだ




青は歌うよ 空に聞く 爽やかな朝がくるのだと


赤はいたずら そこらでぽっぽっ 鳴き騒いでかけっこ中


黄はちかちか 踊って光る 元気いっぱい心の配達


他にもいろんな 色のパレード


たくさんの色の美しさ




赤しか知らぬ ザクロ大臣


目をぱちくり 心うきたち


「こんなものは初めて見るぞ」




色にのまれる ザクロ大臣


しめしめ笑う 白い餅


すたすた森の 奥まで進み


ぺらぺらな家を 見つけると


餅はすたすた 歩いて行って


白い紙の戸を叩き


親しげ にんまり 声あげる




「やあ! 紙! 久しぶり!」




戸の先 現れたのは壮麗な


無色な瞳の紙の魔女




「ああ。餅。久しいな」




白い身体 白い長髪


白いマントを靡かせて


餅を見つめる 紙の魔女

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