林檎の王様と真っ赤な国

世一杏奈

第1話 白い餅

誰が言ったか


何処で言ったか




いろどり山のその向こう


クレヨン町も越えてった


キャンパス野原のその先に


真っ赤な国があったとさ




そこはどうして 赤しか許さぬ国なのだ


お城も赤色


服も赤色


食物 粧飾 真っ赤っ赤


お空も地べたも赤色で


見渡す限り 真っ赤っ赤




この国のルールはたった一つ


赤色だけを愛しなさい




* * * * *




お城は今日も賑やかだ


真っ赤な国の王様は


ぷくぷく太った林檎の王様




彼を支える従者達


みんなみんな 赤色さ




つやつやトマトの右大臣


ざらざらザクロの左大臣


道化の得意な達磨くん


酒好き赤ワイン伯爵に


綺麗好きなルビー嬢


芸中肌の紅葉卿と


仲の良い良い庭師の薔薇じぃ


美味しい料理を作るのは


自分のアシも使って調理 一流シェフのオクトパス


みんな大好き かわいいカワイイ苺姫


誰もが変わらぬ 赤色さ




赤でなければ許されない


暮らすことすら許されない


この国のルールはたったひとつ


赤色だけを愛しなさい




* * * * *




ところがどっこい


ある日の正午


国を訪ねた "餅" がいた


それは白色 そりゃ目立つ




「白い餅が現れた! 誰かどうか捕まえろ!」


ザクロ大臣大慌て


ごうごう ごうごう 怒鳴っている




「早くこちらに連れてこい。早く処罰しなければ」


トマト大臣 立派なヘタを さすりさすり


冷静沈着 指示を出す




それは白色 そりゃ目立つ


捕らえられないわけがない


あっという間に城の中


餅はあっさり捕まった




* * * * *




林檎の王様の目先には


縛られ だれた 餅がいる


耐えきれないな 白い餅


うわわん うわわん 泣きだした


必死に喉から訴えた




「王様聞いて! 話を聞いて! ボクは赤が好きなんだ! 興味をもって来てみただけだ! だらかどうか、ボクを食べないで!」


「餅よ、よくよく聞きなさい。この国のルールはたったひとつ。赤色だけを愛しなさい。お主は本当に好きなのか」


「もちろんさ!」


「ならば白い体はいらないな。さっさと着色してしまえ」


「待って、待って、待ってくれ。ボクは確かに赤が好き。だけど白も好きなんだ。たまには緑も味わいたい。いろんな色が好きなんだ」


「そんなものは要らないな。赤だけ愛せぬというのなら、お前を焼いて食ってやろう」


「どうかそれは、ご勘弁……!」


「焼くのが嫌なら煮てやろう。煮るのも嫌なら揚げてやろうか」




聞く耳持たぬ 林檎の王様


餅はぶるぶる震えている


覚悟を決めた白い餅


最後の手だと 声あげた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る