第4話 人生計画を立てた子
「よし! これで目標一個達成!!」
じゃじゃーん! と陽気な声が部屋に響き、ゲーミングチェアがクルクルと回った。薄暗い部屋で、鮮やかなゲーム画面だけが、大きなパソコンのディスプレイから光を放っていた。部屋には漫画やゲーム機などが乱雑に、しかし、ついうっかり踏んでしまう様な位置でない、きちんと考えられた適当さで置かれていた。
缶ジュースなどが置かれた、広々としたテーブルの上に、一冊の手帳が置かれている。箇条書きされた言葉が並び、新しいページの一行目に、赤いチェックマークがついていた。
[ゲームを24時間ぶっつづけで、ソロプレイする]
声の主はにんまりと満足そうに笑った。
「よしよし、順調だぜこれは」
『
「こんちわっす、ハザマさん」
青年は隈のできた、しかしながら満足そうに輝いた瞳で答えた。持ち前の癖っ毛がふわりと揺れた。
「いっぺん一人で、ゲームぶっつづけでやってみたかったんすよね。いつもは誰かとプレイしてるから、なかなかチャンス無くて」
『ふだんやっている人は、今回は都合が合わなかったんですか』
「ああ、最近疲れたから連絡絶ってる」
『喧嘩したんですか』
「いんや? 普通に普段からの疲労とかが溜まっただけっすよ」
頭の上で腕を組み、あくびをしながら彼は答えた。
「…………あいつのあのテンションは、今に始まったことじゃないんですよ。好きな物の話をしているときはイキイキしていて、楽しそうです。普段なら、気にならないんですけどね、最近はそれがシンドイ。まるで初めてその場面に遭遇したみたいに、今までの経験値がリセットされたみたいに、イライラするんですよ。突然発作みたいにその話をされたとき、何度も同じ話をしてくるとき……」
『ふむ』
「うっせえな。って思って。しつこいな、バカみたいだ、誰目線だよ? って。そんなにやられたら逆に萎えるっつうの。……ひどいでしょ。普段の俺なら、そこまで酷いことは思わないですよ。ジャンルや程度は違えど、俺も似たようなことはやってるからさ。ただその表現方法が違うだけだって、そう思って素直に話を聞けるんだけど。最近はそれはできない。だから、ああ、自分は疲れてるなって気づいてさ。避難してきました」
『なるほど』
「でも、もう少し早く気づけたらよかったっすね。きっと冷たい態度は相手にも伝わってしまったから。そこは反省点だ」
『自分の声に耳を傾けるのはダイジです。君はそれができている、スバラシイ』
「ありがとうございまーす」
ふとテーブルの上の手帳をパラパラとめくり、彼は満足そうに中身を見た。
「せっかく自分でリミットを決めた人生っすからねー、変に我慢して過ごしたくないでしょ。向こうも気まずいだろうし。時がたてばまた復活しますよ」
『やっぱり意識は変わらないんですか』
「うん。10歳の時に決めてましたから、それに合わせてやりたい事リスト作って、計画に沿って生きてきたんですよ。今更変えませんって」
彼が手帳の最期のページをめくると、
[20歳の誕生日の前日ギリギリに、街の皆と遊んでから自殺する]
と書いていた。その言葉を、まるで恋文に書かれた文字のように、あるいは信託のように、大事そうに彼は撫でた。
「そういえば、成人年齢が18歳になるんすよね」
『はい』
「俺より年下の、俺と同じこと考えてた奴可哀そうだなあ」
『なぜですか?』
「だって、自分が成人するまでに死んでやろうって考えて、計画たててたのにさ、急に成人年齢変えられたら、寿命が減っちゃうじゃん。慌てて計画変更しなきゃだし、めんどくさいよ」
チェアの上に両膝を抱えるように座って、クルクルとチェアを回す。唇をムニムニと甘噛みする癖を発しながら、彼は思い出した様に話しかけた。
「この街をなくすかどうか、って話が出てたんだって?」
『なぜその話を』
「噂で流れてくるよ。この街にいる奴らの条件を考えると、成人年齢が変わったら街の持つ意味が変わるから、なくした方が良いんじゃないかって話だろ?」
『ええ、まあ。でも、まだ決まったわけではないのです』
「[19歳とは、狭間に住む年代である。高校生という枠組みを離れた彼らは、大学に進んだり就職の道を選ぶ。18歳になると、世間からは、ほぼ大人の扱いをうけるだろう。18歳未満閲覧禁止のコンテンツも見れる様なり、自由度はあがる。しかしながら彼らは大人ではないのだ。成人していない彼らは、「子供の頃は見逃されていた責任を徐々に背負い込むことを求められ、しかしながら立派な大人の仲間としては扱われない」子供と大人の狭間を生きるのである]だったよね。宣言」
『よく覚えていますね』
「まあね。そんで、その考えで行くと、確かに成人年齢が18になると、その狭間はなくなるように見えるかもしれない。でもさ、変わらないと思うんだ。狭間はあるよ。ずっと。法的に大人になっても、やっぱり大人の象徴である酒やタバコはできないわけだから、「大人なんて名ばかりだ!」ってなる子は絶対いるよ。真の成人にはなれない」
『春子ちゃんも、似たようなことを言っていました』
「やっぱり?」
そばに置いていたチョコレートを口に含んで、口内で溶かしながら彼はつづけた。
「それにぶっちゃけ、最初の宣言、俺あんますきじゃないんだよね。中卒で働いてる人とか、留年した人とかもいるわけで、一概に19歳が高校を卒業したとは言えないんじゃんか」
『確かに。そうですね』
「だからさ、この街はあった方が良いよ。俺は予定通りもうすぐいなくなるから、結果は見れないけど、ココの存在に救われる奴らはいっぱいいると思う」
・・・
「この街はなくならない。ただ、今の狭間を生きる19歳が絶滅するだけだよ」
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