章に輝く

エリー.ファー

章に輝く

 ずっと、ここに立っている。

 不思議な気持ちである。

 波風もない。

 水面である。

 水平である。

 一体、何と比べて水平なのだろう。というか、その何かの何を見て水平であると分かるのか。

 私はここに立って目を閉じる。

 風が聞こえる。誰かの声のようである。しかし、そこに何か意味があるかと考えることはない。ただの事象である。思い続けるのは結構だが、私は私を突き放さなければならなくなってしまう。

 こんな話を聞いた。

 あの山の向こう側には、多くの人がいるそうだ。皆、楽しそうな声をあげて生きているが、結局のところ、どこに行っても寂しい人間は寂しいままそこで暮らしているそうだ。集まって、何かをするわけでもなく、集まるための理由を探すわけでもない。

 孤独なのだ。

 一人のまま、生きていく。

 まぁ、人間なんてそんなものなわけで。

 まぁ、命なんてそんなものなわけで。

 最初から、ずっとそんなものなわけで。

 私は天才である。

 才能もある。

 水面に立つこともできている。

 私にとっての世界がそこにあるが、世界にとっての私がいるわけではない。

 だからこんなにも悩まずに生きているのだろう。皆があそこまで自分を殺しながら、どこかで自分の黒を吐き出して生きているのが不思議でならない。それなら、逃げてしまえばいいのに。

 このようにして。

 水面に立てばいいのに。

 誰にも怒られないし、止められることもない。確かに、何も知らない人間から見れば不思議な光景かもしれない。でも、私が私であることを知ってしまえば、誰も疑わなくなる。それは常識となる。

 本日も快晴であると思いたい。

 天気ではなく、その先ばかり見ているから、知らないことも多い。

 無知であることを誇ってはいないが、無頼のまま私は命を使っている。

 いや。

 無頼でもないか。

 生きていた。

 今日も私は生きていた。

 誰かと一緒に生きていた。

 少し気取ってはいたが、自分の知っている散歩道に意味を見出そうとしていた。遊びである。深くはない。誰かがやっている指遊びのようなものである。

 誰かの足音が聞こえたので、私は歩みを進めることにする。同じところにいても意味がないので、足跡のない所へと向かう。雪が降れば、最初に踏み入れるのは私である。そのままそこに城を建てるのも私である。

 春になり、夏が来て、秋が通り過ぎ、冬に至る。

 私の体をすり抜けて、何も残さぬ春夏秋冬と、未来を脅迫するかのような熱を持った生き方が、自分の体のどこかにあることを意識する私との間に発生する光。

 私は大人になってしまったようである。

「お前、言うほど大人じゃないよ」

 本当に。

「そう、だからまだ大変だよ。お前、残念だったね」

 何がだ。

「お前、面白いよ、これから」

 それは私の視点からということか。

「違うよ、こっちの視点だよ」

 そんなのお断りだ。

「しかし残念ながら、お前は納得できる」

 どうしてだ。

「それがお前を肥大化させて、巻き込むきっかけとなる」

 意味が分からない。

「お前の望みはこの景色の向こう側を見ることか」

 分からない。

「だとしたら、お前はいつかお前の背中を見るようになるだろう」

 謎解きか。

「いや、事実だ。望まなくとも遠くへと、望まなくとも光の速度で、望まなくとも達する」

 何が言いたい。

「伝わることはない。達した後だ。寂しくなるな」

 おい、どこに行く。

「お前が遠ざかっているのだ。さらばだ、愛しい人よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

章に輝く エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ