2.ジャンヌ
ちょうどよかったです。アルトさんやサティ様のお力を借りたかったんです」
「別にいいけどさ……なんでジャンヌがこんなところにいるんだ?」
意外な再会をした俺とサティさんは、ジャンヌに街にあるカフェの個室に連れられていた。ちなみにモナは最新刊を買った後色々と街を見てくると言ってどこかにいってしまった。
まあ、ジャンヌの正体を知らないのだ。彼女がいないほうが色々とやりやすい。
「はい、実はですね、今回のサイン会ですが、私主催なんですよ。オベロン様の素敵な作品を世に知らしめようとして企画したのですが……」
「新しい四天王がさっそく職権乱用しているんですけど、ここは魔王として注意すべきでしょうか……?」
「その様子だと何か問題があったのか?」
ジャンヌが言いにくそうに言葉を濁す。サティさんの突っ込みももっともなのだが、四天王のってみんな職権乱用してない? むしろ、アグニとかデスリッチは普段どんな仕事をしていたのだろうと思ったがそれを言ったらサティさんが悲しそうな顔をしそうなので触れないでおく。
「はい、オベロン様がサイン会に乗り気ではないのです。元々書くのも乗り気ではなかったようで、そこは四天王権限をつかって無理やり書いていただいたのですが……今回のがとどめですっかり拗ねてしまったんです」
「あー、そりゃあ、あれを書いてた時は勇者に聖女がNTRされていたと本気で思ってたからな……」
まあ、実際はデスリッチがストーカーであり、それを彼もわかってしまったのだ。このまま黒歴史となっている『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』を書くのは拷問に近いし、ましてやサイン会なんてもってのほかのことだろう。
「あの、ジャンヌさん……あまり、四天王の権利を私欲としてあまり使わないでいただきたいのですが……」
「お言葉ですが魔王様、元聖女である私は人と魔物の関係性を改善するために四天王に選ばれました。そして、今回の本は人と魔物両方から人気を得ている作品となります。それを書いたのが魔物だとわかれば人と魔物の和解のきっかけになると思って企画をしたのですが、何かまずかったでしょうか?」
「う……確かに……ジャンヌさんの言う通りですね……失礼しました」
この変態聖女レスバ強いな!! 確かにジャンヌのいう事は正論なんだけど、絶対自分が続きをよみたかっただけだろ……
言い負かされてちょっとしょんぼりしているサティさんは後で慰めておこう。
「わかっていただけたら嬉しいです。それでですね……実は元々オベロン様とは、私が四天王に選ばれてちょっとギクシャクしていたのですが、今回の件でさらに気まずくなってしまったんです。冷たくされたり、放置プレイは望むところなんですが、気まずいのは嫌なんですよぉぉぉぉ!! やっと見つけた運命の人(ご主人様)なんです。オベロン様の親友であるアルトさんなら話を聞いてくださるはずです!! なんでもしますから、助けてくださいぃぃぃぃぃ!!」
「うおおおおお、抱き着くな。サティさんそんな殺気に満ちた見ないでください!! てか、俺は別にデスリッチと親友じゃねえっての!! あいつとはただの敵だぁぁぁぁぁ」
半泣きで抱き着いてきたジャンヌの柔らかい感触に一瞬ににやっとしそうになったがすさまじい圧力をサティさんから感じて慌てて悲鳴を上げる。
わざわざこんなところまで来たのに俺はこいつらの恋話にまきこまれるのかよぉぉぉぉ!!
そして、半泣きになっているジャンヌを宥めた後に俺たちはデスリッチが泊っているという宿屋へと向かっていた。
街を歩いているときづいたことがある。
「ここも人と魔物が一緒に暮らしているんだな……」
「はい、ここ『ハルハバラ』は元々が魔物と人の領土の境ですからね、ここの方々は私の父の代から人と商売などを積極的にやっていたんです。あのお店とか結構人間の方々にも人気だと、聞いたことがありますよ」
「へぇーー、そうなんですね……獣人メイド喫茶だと……」
サティさんが指さした方を見ると、獣耳にメイド服の女の子が「萌え萌えキューン♪」とか言って、客引きをしているのが見える。
うおおおおお、リアルけも耳メイドだぁぁぁぁ!! なんというかすごいけど、方向性がオタク方向に特化してないか?
「ふっふっふ、それだけじゃないんですよ!! この『ハルハバラ』では年に二度の即売会で発売された本が流出していることでも有名なんです!! 『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』の同人誌とかも売っているんですよ!! アリシアと冒険をしていた時にこっそり買いにいったのが懐かしいです」
「その時から自由だったんだな……」
良い思い出のように言っているが、勇者パーティーとしてそれはどうなのだろうか? まあ、アリシアやモナなら簡単に誤魔化せそうだし、ホーリークロスさんはジャンヌの本性にも気づいて、ガス抜きをさせていた気がする。
「あ、ここです。ここにオベロン様が泊っているんです。今の私の恰好変じゃないですよね?」
「ああ、頭は変だけど外見はまともだから安心してください」
「んんんん!! 罵られるのは嬉しいのですが、やはりオベロン様に比べるとダメダメですね。もっと心をえぐるように、かつ冷たく言った方がいいですよ」
「なんでだめだしされてんの? 」
「アルトさんは罵るのが好きなんでしょうか……?」
なんかサティさんに変な誤解をされた気がするな……デスリッチがとまっているという宿は一階が食堂になっているごく平凡な宿である。
そして、俺たちが入ると同時に何やら楽しそうな声が聞こえてくる。
『ははは、貴様もなかなか良いことを言うではないか?」
「でしょう!! 勇者なんかよりもオベロン様の方がすばらしいのに……あの聖女は男を見る目がなかったのよ!!」
すっかり出来上がっているのか、空になったワイン瓶をテーブルに置いてモナとデスリッチが楽しそうに語り合っていたのだ。
あれ、こいつら仲悪くなかったっけ……?
「そんな……モナにオベロン様がNTRされてる……」
そして、ジャンヌがこの世の終わりだという表情でうめき声をあげるのだった。
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