18.アルトの恋バナ
俺は思わずジャンヌの言葉を聞き返す。え、こいついきなり何言ってんの?
「え? いや……その……」
「アリシアから話は聞いているって言ったじゃないですか。それに私の目の前であんなにイチャイチャしていたんです。言い逃れはできませんよ!! 私の話も聞いたし教えてくださいよ。あ、店員さん、麦酒のおかわりを、この方に!!」
先ほどまでとはうって変わり、楽しそうな笑みを浮かべて酒を勧めてくるジャンヌ。少し前までのはかなげな雰囲気はなんだったんよぉぉぉぉ!!
だけど、こっちの方が自然な感じがして、俺としては安心できる。何て言うんだろうか、聖女としてのジャンヌよりも、今みたいな普通の少女だったり、デスリッチといる時の方が活き活きとしている気がするのだ。
まあ、俺も少しくらいは吐き出してみるか……
「ジャンヌはモナと違って、俺とアリシアを強引にくっつけようとはしないんだな」
「まあ、私はあの子とは違って、NTRもWSS(わたしが先に好きだったのに)も大好物ですし……それに婚約者云々は勘違いだったのでしょう? 仕方のない事ですよ。私ができるのはアリシアが愚痴ってきたら話を聞いて、一緒に泣くことです。あなたと魔王様の恋を邪魔する事ではありません」
こうして話すと無茶苦茶まともなんだが!! アリシアがモナには俺とバカップルだと嘘をついて、ジャンヌには正直に相談していた理由が分かった気がする。
俺は一応あたりを見回して知り合いとかがいないか確認をする。まあ、魔王城の近くだからいないとは思うが念のためにな。
そして、酒を一気に飲んで本音を漏らす。
「サティさんが俺の事を多分好いてくれているんだなぁって事はわかってるんだ。そして、俺もサティさんの事が大好きなんだけどさ……あの人は大きな夢がある魔王なんだよ。俺ごときが告白なんかしていいのかなって……釣り合うのかなって思うんだよね」
俺の情けない言葉にジャンヌはただ頷いている。知り合ったばかりのジャンヌだから、酒の力か、はたまた聖女の力なのか……
今まで誰にも言えなかったことがスラスラと出てきた。
「それに比べて俺はブラッディクロスさんの様にローグタウン一の冒険者ってわけでもない。ただの中堅冒険者だよ。だからさ……もっと立派になったら告白しようと思うんだ。俺だってさ、鑑定スキルを使えばそこそこはやれるってのがわかってきた。だから四天王選抜試験に出て、結果を出せたら告白しようと思っているんだよ」
「なるほど……」
俺の言葉に彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべながらうなづいた。そう、俺はまだまだサティさんの隣に立てるような人間ではない。あっちは魔王で……俺はただの冒険者で……あっちは最強で……俺は凡人だ。だからせめて彼女に誇れる事が一つくらいは欲しいのだ。
「話はよくわかりました。一言いいでしょうか」
「ああ、聞いてくれてありがとう。なんだ?」
「ヘタレ」
「ぐはぁ……」
ジャンヌは慈愛に満ちた笑みを浮かべたままそう言った。冷徹な一言で心がえぐられる。え? 何でディスられてんの?
「いや、でも……」
「でも……じゃないですよ。もちろんアルトさんの気持ちもわかります。男性は対等な立場というのを気にしますからね。ですが、魔王様のあなたを見るまなざし!! あなたのためにわざわざ変装までする行動力!! そして、プレゼントをもらった時の反応!! あれはもう、完全にあなたに惚れてます!! 告白待ちですよ!! むしろ告白しないで生殺しの方が失礼です!! 大体、魔王様は自分の立場とか、種族の違いとかそういうのをわかっているうえであなたと結ばれたいなって思っているんじゃないでしょうか? せっかく障害を乗り越えても結ばれたいと想い合っているのに……両想いなのに、プライドのためにそれを不意にするのはもったいないのではないですよ。それに……」
彼女は慈愛に満ちた笑みから、何かをこらえるような表情で言葉を続ける。
「人間も魔物だって、いつ死ぬかわからないんです。だから後悔する前に想いを告げた方が良いと思いますよ」
そう言って俺を説得するジャンヌはどこか俺を羨ましそうに見つめるのに気づく。両想いである俺を羨ましそうに見つめているのだろうか? それとも……他に何か理由があるような……
だけど、彼女の言う事はしっくりときた。そうだよな、サティさんは今の俺に好意を持ってくれているのだ。いつか隣に立てるように立派になった俺じゃない、今の俺をだ。だったら、俺は……
「ありがとう……ちょっと考えてみるよ。お礼じゃないけど、ジャンヌがデスリッチと付き合えるよう俺もサポートするぜ」
ジャンヌだって可愛いし、頭のおかしい言動さえ抑えれば芯はしっかりとしているのだ。童貞丸出しのデスリッチくらい落とせるのではないだろう。てか、あいつなら胸を押し付ければなし崩し的に惚れそう。
俺がデスリッチの落とし方を考えていると、彼女はなぜか首を横に振った。
「申し訳ありません。私は自由にふるまうのはこの一週間だけと考えているんです。教会には色々とお世話になりましたからね……裏切る事はできません。なんとかこの一週間でオベロン様の貞操を奪うだけで我慢します」
「あいつそういう事できるのかな……でも、それだけでいいのか?」
「はい、それでいいんです。私はですね……強力な力の代償でしょうか。長生きはできないそうです。教会の見立てだと20歳まで生きれればいい方だそうです。今もこの腕輪で力を押さえているのですが、これがなければ今ここにはいないでしょうね」
そう言って彼女がさする腕を見ようとしたが、何かが遮断した。怪訝な顔をして見上げるとジャンヌが困ったような顔をして首を横に振った。
結界で鑑定を遮断したのか!!
「もう、エッチですね。すぐに鑑定しようとするんですから。この腕輪には教会の秘密の技術が組み込まれているそうなんです。これを知ればあなたは教会に狙われる可能性があります。だから見てはいけませんよ」
「エッチって……」
てか、教会の秘密っていったい何なんだろうか? 何かが引っかかる気がする。
「そろそろ、帰りましょうか。あと、寿命の件は他の人には内緒にしていてくださいね。アリシアたちはもちろん、オベロン様にもです。同情で付き合われるのは辛いですからね……」
そう言ってジャンヌは立ち上がる。彼女なりに迷っていた俺の後押しをしてくれたのだろう。わざわざ自分の秘密をさらけ出してまで……
「ありがとう、ジャンヌは優しいな」
「何のことでしょうか? 私を褒めても何も出ませんよ。心も体もオベロン様のものですから。それにこれは巻き込んでしまったお詫びだと思ってください」
そうして俺達は会計を済ませて店を出る。じっくりと話し込んでいたからだろう。すっかり夜になっている。人通りが少なくなるかと思いきや、吸血鬼やアンデッド、人狼など夜行性の魔物達で街は賑わっていた。
そういえばホーリークロスとの待ち合わせの時間がそろそろ近いな……
「どうしました?」
「ああ、ちょっと待ち合わせがあってさ。でも、まだ時間はあるし、魔王城まで送って行くよ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。帰り道はわかりますし、私も勇者パーティーの一員ですからね。四天王クラスで無ければ遅れはとりません。それに、オベロン様にアプローチをするのにサキュバスがやっている店でちょっとエッチな下着を買ってみようかと思いまして……もしかしてついてきたいですか?」
「いや、大丈夫です」
ジャンヌとそんなところに行ったのがばれたらサティさんにマジで悲しい顔をされそうである。てか、ぶれないな。こいつ……
そうして、俺達は別れを告げて、ばらばらになる
「待ち合わせの場所はっと……」
待ち合わせの場所を目指して街を歩いていると、どんどんと人通りが減っていく。そして、数少ない通行人はこそこそとしており、挙動不審である。
なんか嫌な予感がするんだけど……
「人間のお客さん!! 安くしとくよー。人の世界では考えられない快楽に満ちた夢を見せるよ!!」
露出の高い尻尾の生えた女の子に声をかけられる。これってサキュバスじゃねえか!! てかここって風俗街じゃ……
まあ、人通りは少ないしな……そう思って気を取り直した俺がだが目的地に到着した俺は頭を抱える。
「マジかよ……」
その場所に大きな看板でこう書いてあった。『巨乳美少女ファンタジー王国 魔王城支部』と……
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