第4話 異星人との遭遇
●異星人の出現
眠りに就いてすぐ、15年程で緊急起床。3人はそれぞれの席に着いてログをチェックしているが、原因は地表の変化では無く、他の要因である。キャサリンがそれを発見した。
「未知の宇宙船が近づいています。」
船長も確認した。
「認識IDが発信されていない、きっと我々の仲間とは違う様だ。」
カランもその船の詳細を調べている。
「故郷の地球に登録されている船では無い様です。別の惑星から来た船である可能性が高いです。」
「カラン、通信は出来るか?」
「いや、その前に、こちらがメッセージを受信しています。翻訳の精度は分かりませんが、概ね我々と同じで、故郷の惑星を失って宇宙を彷徨っているという内容ですね。、、、それと核ミサイルを私達に向けないで下さいと。」
「何?相手はこちらの装備をスキャンしているのか、まだ太陽系の外だというのに、カラン、そんな長距離でそこまでスキャン出来るのか?」
「いや、こちらのレベルではこの距離で内部まで知る事は不可能です。」
想像もしていなかった緊迫した事態である。敵となるのか味方となるのか、今の時点では何とも言えない。カランの意見によれば、
「こちらの核ミサイルを検知したというのは単なるブラフかも知れません。僕にはそんな凄いスキャン技術が有るのかどうか分からないですが、最初の挨拶で、その事に触れるのが不可解だと思うのです。」
「なるほど、確かにカラン君の言う通りだとも思う。しかし、我々人類が初めて遭遇する知的生命なので、油断は出来んな。」
カランは核ミサイル発射権限に、以前船長から教えて貰ったパスワードを使ってアクセスしている。前回の隕石の時にはアクセス拒否だった発射プログラムが、今はアクセス可能である。
「船長、発射プログラムはアクティブです。」
「えっ、何?ああ、そうかパスワード変更を忘れてたなあ。」
キャサリンは心配そうな顔で二人を見ている。
「初めて会った人にいきなり銃を向けるんですか?」
「カラン君、相手はきっと察知してるからプログラムは閉じておこう。」
カランは素直にプログラムを終了した。
「万一向こうがミサイル打ってきても、この距離なら十分に迎撃出来ますしね。」」
「いや、カラン君。相手も核ミサイルとは限らんよ。レーザー兵器なら勝ち目は無いだろう。」
「ですね。こっちが打ってもすぐに迎撃されます。なら、何で核ミサイルに言及するのかなあ?」
人類が初めて出会った高度文明の異星人の考えなど推測も出来ない。船長は必死になって相手方の情報を得ようとしているが、あまりにも距離が離れ過ぎている。なんとか大きさは分かるが、我々の船の10倍程である。これは驚いた!
「船長、もし戦ったら勝てる相手では無さそうですね。」
「テクノロジーも凄そうだし船も大きい。」
キャサリンは少し恐怖を感じている。
「いったいどうなるの?船長、逃げた方が良いかも。」
「キャサリン、どこへ?」
●その船が突然消えた!
キャサリンが慌ててパネルを操作している。カランも船長も同じく。何かヘンだ。突然消えた。船長がカランに確認した。
「こっちのコンピュータがハッキングされて破壊されえたのか?」
カランは色々な情報を確認している。しばらく沈黙が続いて、カランの結論。
「こちらのコンピュータには何の異常もありません。消えたのは事実です。」
「ええ?消えたって!」
船長もキャサリンもカランのモニターを覗き込んでいる。
「よく見て下さい、さっきの場所の手前付近がちょっとヘンです。」
3人がモニターを覗き込んでいると、そこから巨大な別の宇宙船が姿を現した。何か大変な事が起こっている。
「何だこれ~!」
船長は大きさを計測している。
「これは凄い、こちらから見えてる幅で500m以上、超巨大な船だ!」
カランとキャサリンも船長のモニターを覗き込んでいる。遠いので画像は鮮明ではないが、その異常な大きさは分かる。3人とも言葉が出ない、回りの空気が凍り付いた様な衝撃である。
「船長!もの凄いスピードでこちらへ近付いてます。」
船長も直ぐに確認したが、高速を超えるスピードでどんどん近付いて来て、ここから10Km付近でで停止した。
突然目の前の通信インジケーターが点滅した。
カランは船長の方を見て、
「船長、お電話が入ってます。」
船長は受信ボタンを押した。スピーカーモードで声が聞こえた。
「こんにちわ。我々は或る惑星から来た軍隊です。現在は宇宙全体での大戦争の最中です。彼らが来た理由は、あなた方が核を持っているから、それを察知したのでしょう。核は非常に危険です。今すぐ放棄して下さい。」
3人とも初めて出会った異星人の具体的な言葉に驚きを隠せない。突然いったい何を言ってる?
「こりゃダメだあ!」
船長は思考スピードをヒューマンモードから3段階上げた、カランもキャサリンも船長に合わせた。
続いてまたメッセージが届いた。
「今からそちらにホログラムを送りますが、宜しいでしょうか」
まあ、どう見ても圧倒的なテクノロジーの差、はい、どうぞと言うしかない。
「どうぞ、歓迎いたします。」
思考スピード3倍なので、船長の反応早い。突然船内に明るい光が現れて、背の高い金髪の女性が現れた。
「始めまして、私はマリアです。勿論この名前は皆さんに受け容れてもらい易いでしょうし、この姿も違和感の無いと思われる形です。」
ホログラムと言われても、全く信じられない。どこからどう見ても普通の人が目の前に居る。圧倒的なテクノロジーの差には驚いていると同時に、不思議な事に、忘れかけてた生身の人間の様な魂を感じる。
「さっきの種族は我々が攻撃すると察知して次元移動で逃げました。でも、あなた方が核を持っているなら、彼らだけでなく、他の種族もそれ察知して、また現れるでしょう。その時、あなた方は全く無力で、非常に危険です。だから核兵器を放棄して下さい。」
船長にはとても受け容れられない提案。この先何が起こるか分からない。だから最終手段として核は必要だ。船長はそう考えただけで、何も言葉を発していないのに。
「ミカエル船長さん、お気持ちは解りますが、その様な、これが必要となる様な未来を心配しておられるなら、必ずそういう未来になります。あなた方の計画は理解しています。だからこそ核は放棄して下さいと言ってるのです。」
これは大問題!核を放棄するんて完全にルール違反であるし、この先の任遂行に大きな支障が有る。とても受け容れられない。しかし、想定外の妨害を考えるならば、、、重大な決断を迫まらている。するとマリアは思考を読み取って発言した。
「あなた方の悩みは理解しています。ルールは大事です。しかし、未来に不安を持っているのなら、その様になります。未来はあなた方が創造するのであって、他者の干渉を許すべきでは無いです。」
3人ともビックリ!言葉で言って無いのに、考えが伝わってる。
とにかく短時間で非常に重大な決断を迫られてる訳で、船長としては極めて困難な立場である。しかし圧倒的なテクノロジーの差を目の当たりにして、我々が如何に小さく弱い存在であるのか、、、提案を拒否する理由が思いつかないし、今すぐ決断しなければならない。思考モードを3倍にアップしていた3人は、通常のヒューマンモードに戻した。つまり、こういう判断はAIより、人間の直感に従うのが良いと思ったからである。3人ともしばらく無言で考え込んでいたが、船長は決断した。
「解りました。どうすれば良いでしょうか?」
カランもキャサリンも、ビックリ。特に真面目なキャサリン。
「船長、ルール破るんですか。」
カランも、船長と同じくこれ程のテクノロジーの差では、従うしかないと考えてえいる。
「具体的にどの様な手順で放棄すれば良いのでしょう?」
マリアは微笑んで、3人の顔を見た。
「皆さんは勇気が有ります。正しいご判断です。あなた方の計画は、とてつもない忍耐と努力が必要ですが、非常に大事な任務ですよ。私達は理解していますし成功を祈ってます。それでは私の船に照準を向けて、全ての核ミサイルを発射して下さい。バリアが有りますので、どうぞご心配なく。」
全く予想もしてなかった展開になって、核を全て放棄してしまった。しかし、マリアが言ってた「未来はあなた方が創造するもの」という言葉には3人とも深い真実が有る様に感じた。何か催眠術に掛かったのかも知れないが、済んでしまった事は考えても無駄。未来に向けて粛々と任務遂行するのみ。
●予定より早いが、サル達どうしてるかな。
また寝ても良いが、起きたついでに、ちょっとサル達を見に行こうか。
「カラン君、今日は留守番してくれないかな?モニターで見るんじゃなくて、実際に近くで見たいんだよ。」
「ああ、勿論イイですよ。」
今日は久々にミカエル船長とキャサリンがバルーンで飛び立った。船長は大気圏内の飛行を楽しんでいる。
「キャサリン、バルーンって楽しいよなあ、縦G横Gがあって。」
「ですね。有機体だった頃と同じ感覚、いつも気持ち良いです。」
急旋回したり宙返りしたり、今日の船長はまるで子供の様。キャサリンもカランもクスクス笑っている。そうこうしている内にサル達の上空に到着。
「キャサリン、ちょっと地上に降りてみるので上で待機してくれないか。」
「了解です。こちらは上空から観察してます。お気を付けて。」
船長は1Kmほど離れた地点に着陸した。キャサリンはサル達の数を数えている。カランは軌道上から広い範囲を見て異常が無いか調べている。
地上に危険が無いと知ったサル達は地上に降りて楽しく暮らしている。今のところ食料も十分有るので、何の問題も起こっていない様である。カランから通信が入った。
「船長、サル達はどうしてます?」
「ああ、まだ直立歩行はしてないが、平和で楽しそうだ。それから子供が元気に遊んでるよ。」
「それはイイ傾向ですね。」
船長は離れた位置から望遠モードで観察している。隠れる所が無いのであまり近付けない。しかし、楽しそうで平和である事はハッキリ分かる。歩いて移動しながら、色んな角度から観察している。彼らは周囲に豊富に有るイモ類には全く気付いていない。一時間程が経過して、キャサリンから通信が入った。
「船長、個体数は増えてますが1%程度ですね。まだ15年ですし。」
「そうか、でも子供が楽しそうなのは良い傾向だと思うよ。」
「ですね。」
カランは母船内で二人の動画データにタグ付けしている。
「船長の仕事って、けっこう忙しいんやなあ。」
ボソッと一人事言いながら。
船長はバルーンに戻って来た。
「キャサリン、ぼちぼち帰ろうか。」
「そうですね、こちらも特にこれ以上調査する事は無いです。」
二人が母船に戻って来た。
「お疲れ様でした。」
カランが笑顔で出迎えた。
「船長、今日はこのまま寝ます?」
「まあ、それでも良いが、ラーメンでも食って寝るかなあ。」
ラーメン好きのキャサリン。
「おお、それはイイですねえ。HAKATAYA行きますか。」
「キャサリンはいつも豚骨やなあ。」
「カラン、別に他でもイイけど。」
「いや。豚骨好きやで、船長どうです?」
「いいね、もう2億年も食ってないし(笑)。」
そういえば、バーチャルタウンでラーメンは食っていなかった。飲みながら話をするのがメインだったので。今回は難しい話は無しで、美味しいラーメン食って寝る事にしよう。核を全て放棄という、とんでもない重大な決断をした後なのに、呑気にラーメン食う。まあ、これは有機体人間と異なる特徴と言える。過ぎた過去を反省して未来に生かす事はあっても、不要な感情はサラッと流す。任務遂行の為に、若干意図的に設計されているのかも知れない。
●それから1000年後。
本来は100年毎のはずなのに、設定を間違えたのか?既に1000年が経過している。ソリッド頭脳でも勘違いは有る。各自の個性を最大限再現する事も必要だが、最も大事なのは閃きとか勘といった、コンピュータが最も不得意とする処理を、AIによって引き出すという点である。これが無ければ想定外の事態に対応出来ない。勘違いはそのマイナス面として時々登場する。
「ええ~、何これ!」
キャサリンはログを見て驚いている、船長もカランも同じくである。サル達は5割ほど増え、ほぼ2000匹、しかも、周辺のイモ類も食料としている、
「キャサリン。これは凄い進展だなあ。たった1000年で、食料は木の上だけでない事に気付くとは。」
「船長、そうですよ。凄い知能が有ると思います。」
「実は前回地上に降りた時、サル達にイモ類の存在を気付かせる方法は無いものかと考えてたんだよ。余計なお世話になるところだったな。」
カランは地上のサルを観察していて、イモを掘るのに道具を使っている事に気付いた。
「まさか、なんという事だ!道具を使ってますよ。」
「ええっ!道具を?」
キャサリンは驚いてカランのモニターを覗き込んだ。カランは、更に驚くべき物を発見した。
「キャサリン、ここの黒い部分。火を使ってるんやないか?」
船長もカランのモニターを食い入る様に見ている。確かに火を使った跡に見える。
「そんなアホな、たった1000年で?そんなに頭が良いのか。他の異星人が来て教えたのかなあ?」
カランは熱センサーを使って、現在燃えている所がないか探しているが、センサーには反応は無い。
「カラン、キャサリン、現地に行って詳しく調べてくれ。」
「勿論です船長。キャサリン行こうか。」
二人はバルーンで飛んで行った。船長は過去に異星人との接触がないか調べている。
地上に降りた二人は直ぐに、木の枝を石で削っているサルを発見した。
「カラン、あんな風にして尖った道具を作ってるんだ。」
「なるほど、メチャ頭良さそう。尖った石、きっと黒曜石やろなあ。」
キャサリンは草原の方を見た。
「カラン、あれ見て。イモを掘ってるよ!」
「何と、太い枝をハンマー代わりにして掘ってるのか、ビックリ!」
何という凄い知能の持ち主なのか。
「キャサリン、これって遺伝子操作が効いてるの?」
「それはよく分からないけど、彼らは非常に危険で緊張を強いられる環境から、突然安心な環境に変わった訳なので、余計な心配が無くなった分、他の能力が開花したのかも、と思うけど。」
遺伝子操作とは、隠れている潜在能力に刺激を与えるだけの事であって、思い通りの方向に導くなんて事は出来ない。環境が変化して、それに適合する能力が出てくるかどうか、ただただ見守るだけの地道な作業である。今回は我々が手を下して環境を変えた。しかし、それが良い方向に向かっている。
さて、次は火を使ったと思われる場所の調査であるが、サル達に自分達の姿を見られない様にしたい。それはサル達の意識に、不要な異物的な考えを与えないという配慮である。でも、遠くから分析するのではなく、現物を調べたい。カランは船長に連絡した。
「船長、燃え跡のサンプルを採集したいのですが、近くにサル達が居ない場所ないですか?」
「カラン君、近付くつもりか?」
「そうです。どうやって火を起こしたのか知りたいので。」
「まあ、そう焦らなくても、今は朝だ、きっと夕方になれば火を起こすだろう。」
「ですが、実物を分析したいのですが、、、また次の機会にしましょうか。」
「その方が良いと思うよ、いくらでもチャンスは有るよ。」
「分かりました。それじゃキャサリン、戻って画像分析しようか。」
キャサリンはイモを掘り起こした跡を撮影してる。
「既にデータは大量、先にこれらを分析しましょ。」
●知能は他の地球から送られて来る。
夕方から、あちらこちらで煙が上がり、日常的に火を使ってる事は明らかである。現物サンプルを分析するまでも無く、画像を見ているだけで分かる。どうやって火を起こしたのかはさほど重要では無い。この様な大きな進化は「閃き」によって起こる。著名な科学者による発明とか発見と同じである。
で、それは何処から来るのか?人類以外の動物には殆どそれは無い。「閃き」が何処から来るのかは謎であるし、もっと不思議なのは「閃き」を得る種が人類だけで有るという点。3人はそれぞれ地上の様子を見ているが、カランの説「地球同士の会話」が気になる。
船長が調べた結果、異星人の干渉は全く無い。ならば何故に短期間で知能が発達したのか?こういう現実を目の当たりにすると、どうしてもカランの説が気になる。他の地球に住む生命体が彼らを覚せいさせているのだろうか?さっきから船長がカランにちらちら視線をを向けて、何か言いたそうである。船長は何気ない言葉で尋ねた。
「カラン君、どう思う?」
カランは何を尋ねられてるのか何となく気付いてはいるが、どう言葉にすれば良いのか迷っている。勿論、カランの気持ちは、キャサリンにも伝わる。
「例えば地球くん同志の会話と関係あると思ってる?」
「キャサリン、子供の頃にママから頭がバカになると言われて、誰にも言って無いけど。この宇宙には創造主である神が居て、その子供達が地球なのかなあと思ってるんや。愛で満たされた平和な世界に、何故か人間というのが現れて地球を傷付ける。」
船長はカランを見て笑っている。
「ははは、人間は害虫みたいな存在だね。」
「そうですよ船長。人間が居なければこんなに平和なんです。」
「カラン君解った。きっと何か境界線の様な物が有るんじゃないか。今、彼らの道具は自然界に普通に有る物。これが鉄や火薬やコンクリート等となると、次元が違うかも知れないな。」
キャサリンもその意見には同感である。
「自然と共存ってイイですね。何で私達は鉄などの金属を使う様になったのでしょう。」
この事は多くの人にとっても謎であって、文明の境界線かも知れない。鉄鉱石を見つけて、それを高温で溶かして道具を作る。どう考えても、そういう発想は出て来ないはずである。
「やっぱり誰かが教えたってこと?」
船長とカランも同意。船長は立ち上がって二人に言った。
「これが我々の任務だなあ。どうだろう、鉄を教えなくても文明は築けるかも知れない、そう思わないか?鉄が有ったから世界戦争になったのだろう。故郷の地球とは別の文明でも良いんじゃないか。」
二人とも大きく頷いた。カランもハッとして立ち上がった。
「それはイイですねえ、任務違反にはなりませんよ。どんな文明を築くかは自由です。」
キャサリンは回転椅子でグルグル回って、凄く嬉しそう。
「うん、うん、それだわあ。」
今日は東京のお寿司屋、KOTOBUKI。勿論にぎりも旨いが、バッテラが絶品!サバの上の薄い昆布、日本食って、何でこれ程までにアートなのか?しかもシンプル。旨いと感じるのは味だけでは無いのが証明されてる。
●ほぼ直立歩行になっている。
100年毎のルーティーンを100回程繰り返して観察しているが、明らかに体型の変化が有る。手が短くなって足が長くなって来ている。キャサリンは詳細なデータを記録しているが、それを見るまでも無く、1万年前の体型とは明らかに異なる。カランは特に手に注目しているが、やはり直立した事による手の機能は著しく進化している。
「カラン、手の進化、凄いよね。」
船長とキャサリンは、それぞれ自分のモニターでカランのレポートを観ているが、こうやって進化の過程を見ている内に、木登りしていたサルと現在の彼らが全く異なっていると気付く。最近の子供達は木登りが下手で、木から木に飛び移る事が出来ない。
「カラン君、どう思う?ぼちぼち別の種になってると思わないか?」
キャサリンもその様に考え始めている。船長がキャサリンに尋ねた。
「キャサリン、生物学的にはどう考える?」
「交配可能かどうかが種の違いですけど、今回は遺伝子を詳しく調べてみます。」
その為には血液採取が必要、しかも気付かれない様に。キャサリンはカランに血液採取のナノロボットを発注していたが、やっと完成した。
「キャサリン、これで大丈夫だと思うよ。」
「さすがはカラン、どうも有り難う。今日使ってみるね。」
補充用のバルンコバルト僅かな量を使って、8ミリの蚊型ロボットが完成していた。赤外線カメラが付いているので、夜間サル達が寝ている間に血液採取が出来る。
「血液採取したサルには発信器かタグを付けたいけど、サルってお互いにノミ取りするから、異物を発見したら、取り除くか壊すやろ。」
「カラン、今はそこまでしなくてイイよ。ビデオ撮影だけでOK。異変が起こってるかどうか分からないし、まああ、何か発見してから考えよ。」
「そうやね。今回は異変があるかどうかの確認という事で。」
夜になるのを待ってカランとキャサリンは、同じバルーンに乗って飛び立った。サル達は背の低い木の下に、ワラや木の葉を敷いて、スヤスヤと安心して寝ている。現在、上空2000メートル。カランはハッチを開けてモスキートロボットと採集キットを投下した。
「キャサリン、カメラ映像見えてる?」
「見えてるけど、クルクル回ってて目が回りそう(笑)。」
「見えてるならOKやな。」
しばらくしてモスキートロボットロボットが着地した。
「さあ、どれから行く?」
「出来るだけ小さな子供を優先的に選んで。」
「つまり、最新の遺伝子やね。」
カランがモスキートロボットを操作している。生後間もない小猿を見つけた。
「これから行ってみようか?」
「そうね。」
血液採取したらモスキートロボットは採集キットに戻り、別の容器に血液を移した後、針とタンクを完全洗浄してから飛び立つ。非常に時間が掛かる地道な作業であるが、二人は根気よく淡々と作業している。船長は採血キットから送られて来る情報を整理して、後でキャサリンが作業し易い様に、データ整理をしている。
やがて空が明るくなり始めた。ぼちぼち夜明けが近い。
「カラン、ぼちぼち終わろうか。」
「夜明け近いしね。ドローンに地上の機材回収させるわ。」
「船長、戻ります。」
「ああ。ここからはとっくに太陽見えてるしなあ。」
船長は戻ってきたカランとキャサリンを出迎えた。
「お疲れさん。」
「あ~あ~、メチャ疲れた。」
「私もメチャ疲れたた。やっぱりヒューマンモードで長時間ってキツイよね。」
カランは一晩中モスキートロボットのリモコン操作。キャサリンは真剣にターゲット探しと撮影。ロボットモードにすれば疲れなんて感じないが、人間の直感とか閃きなど全てキャンセルされるので、こういった作業には不向きである。今日はバーチャルタウンには行かず、寝る事にした。また100年に目覚ましをセットして。
●キャサリン博士が血液分析を開始。
「あ~~よく寝た。キャサリンおはよう!」
「おはよう、カラン。良く寝れた?」
「爆睡、この感覚って有機体の時と全く同じなんよね。」
「船長、おはようございます。」
「おはよう、カランは良く寝れたかな。」
「カラン爆睡だった様ですよ(笑)。」
「ですよ、船長。」
「そうなのか、ヒューマンモードってイイよな。」
さて、今日は船長が整理してくれたデータをキャサリンが分析。カランはバルーンの点検メンテナンス。船長は地上の、他の動物達の観察。カランは非常に腹が減ったという感覚になっている。
「船長、今日は朝食を食いに行きたいですが。」
「そうか、キャサリン行くか?」
「私はお腹すいてないし、お二人で行かれては?」
「私も腹は減ってないし、カラン、遠慮せずに行って来たら。」
「イイですか、ちょっと朝食食って、すぐに戻って来ます。」
カランはロボット格納室に行って、バーチャルタウンへ。
生物学で云う「種」とは、交配によって子供が出来るかどうか。人工的にそれは可能であるが、その子供達には生殖機能はない。キャサリンの最大の目的は、突然変による異なる種が居るのかどうかを調べる事である。最初に調べるのは染色体の数で、サルは38。
船長は(後にアフリカと命名される大陸に)ドローンを飛ばして、元々サル達が居た地域を調査している。、未だ木の上で生活するサルと、その周囲の状況を調べているが、1万年以上前と全く変化は見られない。以前と同様に調和の取れた平和な世界である。
「キャサリン、元のサル達は全く変化してないよ。こっちのサル達とは全く違うけど、同じ種であるとは信じられないね。」
「人間の染色体は46なので、全く異なる種です。この様な大きな変化が、どの様にして起こるのか、全くの謎です。」
「そうだなあ、サルが本当に人間の先祖なのかなあ、、、」
カランが格納戸から戻って来た。キャサリンはカラン見て微笑んでる。
「何食べてきたの?カラン」
「ベーコンエッグと分厚いトースト、メチャ旨かった(笑)。」
「よかったね(笑)。」
「じゃあ、バルーンの点検行ってくるわ。」
船長もカランの方を見て微笑んでいる。
「カラン、宜しく頼む。」
「承知しました。」
今回の血液サンプルは105。その中で一つだけ、染色体数が確定出来ない個体が居る、キャサリンはその個体の映像を観ながら考え込んでいる。かなり長身のメス。外観以外にも何となく他と違う気がする。これは、もう一度血液採集しなければ。3人とも重大な異変だと考えてえいる。平均的な彼らの身長は120cm程なのに、その個体は150cm以上。突然変異かも知れない。命名アプリによって「トールイブ」と名付けた。
キャサリンはもう一度最初から血液サンプルを調べ直したが、他のサルと同じく48であった。まあ、ニュートリノの影響は何がえられるが、染色体の数に変化が有る訳は無い。ただ、数が読みにくいトールイブは何で特別に長身なのか。何か気になる。次回のルーティーンではトールイブは居ないが、長身という形質が後の世代にどの様に遺伝していくのか、それとも受け継がれないのか、注目すべき点である。
●個体数増加は頭打ち。
個体数は前回2200程であったが、今回もほぼ同じで有る。これは自然の法則であって、食料が限界だと推測出来る。おそらく食料問題が深刻になって来ているのかも知れない。これこそがミカエル船長の最大の関心事。食料を奪い合って殺し合う様な事が起こるのだろか。彼らはイモ類を掘り出す為に、棒の先に鋭い黒曜石を結び付けた道具を持っているが、これはそのまま武器にもなる。
ソリッド頭脳は3人が行動して気付いた事や考えた事、感じたり閃いた事などを適切に処理して常にバージョンアップしている。元々は物質中心の3次元的な処理が基本で有ったが、段々とそれだけでは難しい3人それぞれの考え。幸いな事にAIは極めて優秀なので、当初は予測出来なかった事態にも問題無く機能している。
「船長、故郷の地球で量子論というの聞いた事あります?」
「ああ、聞いた事は有るよ。」
「キャサリンはどう?」
「知ってるけど、オカルトでしょ?どこの大学でも扱ってなかったね。」
「じゃあ何故、地球くんの会話に理解を示してくれるのかなあ。それよりも、何で既に動植物が存在している奇跡の星に辿り付いたんだろう。」
船長も実は不思議だと思っていた。カランの方に椅子を回転させて、正面から言った。
「つまり、偶然では無い、そう言いたいだね。」
「そうなんですよ船長。何冊か本を読んだんですが、その中で、現実とは人間の思考が創り出す。という実験結果がどうしても気になってるんです。」
キャサリンもカランの方を見て真剣な眼差し。
「カラン、何?そんな実験ってあるの?。」
「きっとバカにされるかも(笑)。でも言うわ。彼らが今の場所を離れて移動するなら、その先に豊な食料が出現するかも知れない、と思ってるんやけどね、」
船長もキャサリンも、ちょっと信じられないという表情。
「そやろね、そうやと思ってたわ。ははは。」
船長キャサリンも笑ったけど、何か心に引っかかる。やはり、こんな幸運な星に何で辿りついたのか?カランの言う様に、我々が願っていたから、それに見合った現実が現れたのかも?そう言えばマリアも同じ様な事を言ってた事を思い出した。
で、サル達はどうするのだろう?食料を奪いあって殺し合うか、それとも未知の世界に踏み出すのか?ほぼこの二つしか選択肢は無いと思うが、後者を選ぶフロンティア精神に期待したい。上空から見ている限り、周囲は殆ど砂漠であって、緑の少ない環境である。
突然、キャサリンは目を閉じて、身体がフラフラ動き出した。ええっ、いったいどうした?
「キャサリン大丈夫?どうしたの。」
「カラン、何か分からないけど目眩。」
次に船長もフラフラし始めた。
「船長大丈夫ですか、目眩ですか?」
「そうだよ、何かエラーが起きたのだろうか。」
カランは全く平気で目眩も何も自覚しない。この現象は二人のソリッド頭脳の異変である事は確かだ。二人の様子を見ながら、カランには何となく推測出来る。これはエラーでは無く、メインコンピュータから大量のデータが二人のソリッド頭脳にダウンロード中の現象の様だ。しばらくして少しは目眩は治まった様だが。
「うわー、なんかメチャ気分悪い、船長どうですか?」
「同じだよ、何だこの気持ち悪さ。」
「おそらくメインコンピュータからソリッド頭脳に大量のデータが送られたのではないかと思うわ。量子力学に関するデータとちゃうかなあ。」
船長もキャサリン本当に気分悪そう。ソリッド頭脳は普通のコンピュータとは比較にならない複雑なアルゴリズムの集合体であって、それを本人の人格を理解しているAIが管理している。これまで量子論を軽視していた二人に、いきなり大量のデータが入ってきた為、ソリッド頭脳がが大混乱なのだろう。こういう場合は寝るに限る。寝ている間にAIが最適に処理してくれる。
「船長、今日はもう寝た方が良いと思いますよ。」
うんうん、キャサリンは頷いている。
「その方が良さそうね。でも、カランは何で平気なの?」
「僕は量子論を理解してるから(笑)。今日はもう寝よ。船長も寝ましょう。」
「ああ、、」
3人は格納戸に向かってフラフラと歩いて行った。
やはり量子論的な理解が無いと、今後の任務は難しいかも知れない「人間の思考が現実を創造する。」さて、ここのサル達にもそれは可能なのか?また100年眠って、次はそういう視点で観察していこう。
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