第6話 全部もらってあげたの


「盗みを働く子はクビよ」

「怠ける子もいらないわ、出ていってね」


 旦那様は執事の言いなりに使用人を雇用していたらしくて、使用人の質もあまりよくなかったのよね。

 最初の方はメイドですら私を下に見ていたようだったけれど、私が旦那様から委任されているということを理解すると、みんなちゃんといい子になったの。

 そう、それでいいのよ。


 でも、せっかく旦那様のためにおうちを整えても、旦那様はどんどんと帰宅なさる日が減っていったの。


「そうか、旦那様はおうちが嫌いなのね?」


 そのことにようやく気づいたの。

 それなら、このおうちは私のものにしてしまいましょう。

 お屋敷があるから、旦那様は帰ってこなくてはいけないのだから、嫌いなものは捨てさせてあげなきゃ。

 だから、お屋敷の名義人を私に変えたの。

 法律家さんは領主はお風呂の時でもこの印璽を手放さないというのに、よく奥様にお渡しになりましたねって驚かれたわ。

 私が旦那様の妻ですから、信じていただいている証ですって言ったら、わかったようなわからないような顔をしていたけれど。 


 執事が止めようとしたけれど、法律家さんのお話を聞いて、私がちゃんと正しい手続きを踏んで書類を作成していったら「私が止めようもありません。私をはじめとしてこの家に仕えている者は、貴方を主と認めます」と言われたの。

 つまり私があの使用人たちの雇用主になったのよね。

 どちらでも構わないわよね。

 だって彼らのお給料の計算とか支払いとか、そういうお仕事、もともと全部私がしてたのだから。



 次に領地ね。

 領地があるから、旦那様は縛られているんだわ。

 可哀想な旦那様……。だから伯爵家が持っていた分の領地は全て私の名義に変えたの。

 そしてそれを、農民のものと交換したりして区画整理をして。

 あまり耕作に向かなかった土地を耕していたりしていた農民からは感謝されてるわ。


 さぁ、もっともっと旦那様がおうちに帰ってくる理由をなくして差し上げなければ。

 旦那様の負担になりそうなものは、全部もらってあげましょう。



 おかげで法律のことにちょっと詳しくなったから、私でも会社を作ることができるのに気づいたの。

 ちゃんと専門の方を雇って勉強したのよ。


「じゃあ、こうしましょうか。治水工事と水道事業は、こちらの会社で請負ましょう。そうすれば伯爵家の負担が少なくなるわ」


 いいアイディアを思いついたの。

 伯爵家で何かをやるには、儲けたとしても儲けは全部伯爵家に入るからみんなやる気がでないのよ。

 でも株式会社でみんなに株を配ったら、自分の会社で儲けた分は自分たちの利益にもなるからがんばるのよね。

 だから、水道事業と抱き合わせで、伯爵家に独占権があった塩と酒の販売事業も売ってしまって会社はそれの収益で、水道事業の損失を補填するようにしたの。

 おまけに伯爵の土地の耕作権は暇な時には会社の人にそこの領地を耕してもらえば、伯爵家は会社からお金を貰えるし、会社はその農作物で儲かるし。双方に損が出ないの。


 そうなったら伯爵家全体の収益は安定するし、会社は儲かるのよね。


 お金をもうけた部分は次にも投資し、会社を作りたいっていう人にもお金を貸してあげたりしたら、どんどんと会社が大きくなっていった。

 貴族の信用を担保に事業を拡大していけば、面白いようにお金が手に入ってくるの。


 私、お金持ちになったのだけれど、どうしましょう。

 

 そして、ひらめいたの。

 誰よりも貴族であることを誇りに思う旦那様のために、妻である私が頑張らないと。


「旦那様のために、貴方を縛るものを全て排除してさしあげなければ。貴族でさえあれば旦那様は幸せなのだから、これで幸せになれるでしょう?」


 旦那様の財産の名義も全部私のものにして、会社の権利も私に変更したり、私の会社が買収して。

 旦那様を縛るものをどんどんなくしましょう。


 もっともっと旦那様を自由に。


 そう思いながら頑張ってたある日、お客様がいらしたの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る