第24話 幕間
その日。わたしは唐突に目が覚めた。普段は、朝になっても身体の芯の眠気はなかなか取れない。なのに、やけに意識がはっきりしている。目をつぶっても、眠りはやって来ない。
仕方ない。一旦身を起こして、ベッドから出る。ひどく冷たい空気が身体に触れた。二月の空気はやはり寒い。カーテンを少し開ける。だけど、予想していた光は来なかった。空はまだ夜のままで、東の方がわずかに白んでいるだけだ。
どうしてこんな時間に目が覚めたんだろう。ふと考えてみたけど、原因は明白だった。
彼も目が覚めているのだろうか。寒い寒い冬の早朝、わたしと彼は同じ空を見ていたのかも。
そして、陽が登ってきた。着替えて、ご飯を食べて、エントランスに行く。だけど、そこで気がついた。今日は一人で行かなきゃいけない、と。
一人で歩く通学路は、どこか物寂しくて、何かが足りない気がしてならなかった。
今頃、彼は戦っている。そこにはわたしは居られなくて、今は彼一人。でも不思議と、一人ぼっちだとは思わない。だって、わたし達は同じ方向を向いて歩いているんだから。
「おかえり」
帰り道、わたしは真太郎にそう声をかけた。
「ただいま」
彼はそう答えた。顔はひどく火照って、身体は小さく震えている。中の熱と外の冷たさがアンバランスなのだろう。
「お疲れ様」
わたしは冷たくなった彼の手を握る。特に何か意味があったわけではなくて、本当にごく自然に手が動いていた。
「……」
びくり、と彼の手が震える。冷え切った指、鉛筆の芯で汚れた手の脇、何もかもがわたしの心を揺さぶる。
「…俺」
「ん?」
「ちゃんと、できたかな…」
「大丈夫。大丈夫だよ」
冷たい彼の手を握りながら、その目を見つめる。
「君は強いから。絶対に受かってるよ」
「そっか、そう、だよね…」
一先ずは、わたし達の受験は終わった。だけど、わたし達の道は、まだ終わっていない。
受験が終わった後、発表まで大体二週間くらいの待ち期間がある。この期間程過ごすに困る時間もそうそう無い。
実際、わたしと真太郎も半ば習慣的な感じで、週末はわたしの家で二人で遊んでいたけど、何をやってても二人して気もそぞろで、何か新しいことに取り組もうという気持ちが出てこない。
典型的な燃え尽き症候群だった。
とはいえ、そう無為に過ごしていても時間はすぐに過ぎてしまうもので、あっという間にあの日を迎えることになった。
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