第96話 餌付け
プラム、ホムラたちと合流を果たしほぼフルメンバーとなった俺たちは、情報交換をしながらカジノ城を目指していた。
「まぐまぐ、そんでそのボインのメイドちゃんがゲームが始まる時にあったコウモリで、今は人間の姿を取り戻しているバエルンと」
「そういうことだ。本当に夜島の魔将だった」
マンティコアステーキの残りを食うプラム、ホムラたちに説明してやると「ほほー」と頷く。
「ここにいるのは使い魔で、本当の体はカジノ城の地下に幽閉されてるんやろ? それが殺されたら終わりってことやんな?」
「余の肉体はほぼ不死身、そう簡単には滅びぬ。ただ例外的に殺せるものは存在するが」
「例外?」
「今余の本体に突き刺さっている聖剣だ。あれは余の体を滅ぼせる神器。あれを抜かなければ遠からず肉体の消滅は免れぬ」
「自分で抜くとかできないのか?」
「かつて勇者が使っていた聖剣だ。不死族の余が握ると手が焼け落ちる」
「そりゃやべぇな」
「よっぽど神聖の高いものでないと、触れば火傷ではすまぬ」
「ナツメが神聖値高いがダメか?」
「わっちでも無理じゃな。それほどの神聖物、写身の体では触れた瞬間魔力を消し飛ばされてしまうじゃろう」
「厄介だな」
ナツメも本体は森島にいるから、今ここにいる分身体では本来の力を出すことが出来ない。
バエル救出には絶対聖剣を抜かないといけないだろうし。
なんとか神聖値が高い人間か魔族はいないものだろうか?
「ところでユーリ、この骨なに?」
プラムが問うのは俺たちの後ろをついてくるスケルトンだ。
短足で頭骨がでかく、三頭身くらいしかないので玩具みたいだ。しかしながらそこそこ力はあり荷物持ちには最適だ。
「そりゃ使い魔って奴で、名前はスケルトン1号だ。俺が操ってる」
「へー1号……ボクがいないうちに新しい相棒を見つけたわけですか、と」
「嫉妬すんなよ。そいつはスケルトンの形をしているが意識はないし、言い方は悪いが本当に道具みたいなもんだ」
プラムは何持ってんの? とスケルトンの持つ布袋を覗き込む。
「あっ、ステーキ弁当まだある。食べて良い?」
「ダメだ、貴重な食料だから食うペース考えねぇと」
「ってかなんでこいつパンツばっか持ってんの?」
「宝箱から出てきたんだよ。あぁそうだホムラ、お前にもこれを渡しておく。きっとこの戦いで役に立つだろう」
ホムラに赤のビキニを渡すと、彼女は顔をしかめる。
「普通そういうセリフの後に渡すもんって、ほんまに役に立つもんちゃうの? これをどうせー言うん?」
ピラっと広げられる三角の耐水布。
「着るんだ。ホムラも巫女として神聖値が高いからな、そのビキニは赤銀というゾンビが嫌がる素材が使われている」
「そんでばっちゃもそんな格好してんのかいな」
「ああ、ナツメが通るだけでゾンビがバタバタ死んでいく。水着と書いてゾンビキラーみたいなもんだ」
多分聖水や銀の剣より効く。
「嫌やで、ウチはこんなん着んからな! 普通のやったらまだしも、こんなん胸出てるやん!」
「あぶないビキニが嫌なら、この貝殻を紐で繋いだホタテビキニタイプもあるが。これもちゃんと聖的な祝福を受けていてアンデッドに効果がある」
「嫌やそんなん絶対着ーひん!」
「ダメだ、これは命令だ。これを着ていれば生存確率が上がる。恥ずかしいかもしれないがナツメも着てくれてるんだぞ」
「うぐぐぐ」
「効果は確かにあるものなんだ。俺は仲間の嫌がる命令は滅多にしないが、それが生存に直結することなら別だ。1%でも生きる可能性が上がるなら着させる」
「うぐ、めちゃくちゃ真面目な顔して……ほんまにウチのこと心配してるん?」
「当たり前だろ。もしお前がゾンビに襲われたとして、その時この水着を着せてなかったら俺は自分を許せなくなる。恨まれてでも着せるべきだったって一生後悔するだろうな。誓って言うが俺に下心はない」
俺は握りこぶしを作って演技(✕)説得する。
「せやったら……着るわ」
「やったぜ」
「今何か言った?」
「なにも」
最後一瞬下心が漏れたがなんとか誤魔化せた。
ホムラに赤のビキニを渡すと、今度はサメちゃんが俺の脚を引っ張る。
「しゃー」
「なんだ、サメちゃんも着たいのか?」
「しゃー(コクコク)」
子供用もあったはずなので、それならなんとか着られなくもないと思うが。
着たいというのなら着せてやろうと青の水着を装備させる。
「しゃー♪」
「うん……サメが水着着てるってシュールだな」
「たまに犬に水着着せてる貴族とかいるけど、そんな感じだね」
プラムの意見に頷く。
「似合ってるぞ」
「しゃー(スーパーセクシー)!」
悩殺級のビキニパンツを引っ張って喜んでいるサメちゃん。
ホムラも巫女服から真紅のビキニに着替えると、腕組みしてこちらを睨む。
「口車に乗せられた気分や。……ほんまに効果あるんやろうなコレ」
「いいじゃん可愛いぞ」
「ほ、褒められても嬉しないわ!」
そう言いつつも、狐尻尾は右に左に揺れているが。
水着魔族部隊と化した俺たちは、再び暗い夜島を進む。
この辺は瓦礫が多いから、ちゃんと下を見ていないと転んでしまいそうだ。
「なーんかやらしい目線で見られてる気がするんやけど?」
「そうね、主に臀部に視線が集中している気がするわ」
ホムラとリーフィアがこちらを睨むが、俺はあくまで足元を見ているだけであって決してケツなど見ていないし、水着食い込んでるなとも思っていない。
「気のせいだろ」
「あんた前歩き!」
「おいおい、魔物使いはカテゴリー的にはキャスターだぞ? それに前歩かせるのか?」
「あんたプラムちゃん頭に乗せてたらカテゴリー
どっちにしろ先頭を歩く役職ではない。
まぁ仕方あるまい、十分目の保養はしたので俺が前へと出る。
その直後、足元に銀のナイフが投擲された。
「誰だ!」
廃墟から現れたマント姿の騎士と、目付きの悪い修道服姿の女に眉を寄せた。
「お前たちは……」
「悪魔……」
それは殺人鬼シスターヴェロニカと、聖剣騎士ティターニア(24)
ゲーム開始前にひと悶着あったので、できれば出会いたくないと思っていたチームだ。でもその反面アンデッドに強い特効を持っており、可能であるなら仲良くしておきたい気持ちはある。
だが、シスターの方にその気は全く無く、早速目をギラつかせてこちらを睨む。
「悪魔使い死すべし。神の名のもとに代行を開始する」
「そう言うなよ。ってかあんたらまだこんなとこにいたんだな。相当後方組だろ?」
「それには訳があって……」
聖剣騎士が言おうとすると『ぐ~~』っと大きい腹の音が鳴る。
「すんごい音鳴ったな。ひょっとして腹減ってんのか?」
彼女たちは隠しても仕方ないと、自分たちが空腹のトラップにハマったことを告げる。
「空腹の?」
「そうだ。宝箱を開けたときに噴出されたガストラップで、吸入すると消化器官が活発になり、常に空腹状態になる」
ティターニアはくの字に折れ曲がりながら腹をおさえており、相当強力なトラップなのだと見て取れる。
他の毒トラップとかと比べると、空腹ってバカにされやすいが、飢餓状態になると脳が最低限必要な機能以外ストップをかけるので、強い疲労感に加え目眩や意識の混濁などの症状が現れる。
彼女たちは立って歩けているので飢餓状態ではないと思うが、それでも辛い状態ではあるだろう。
「問題ない、代行を……オェェェェェ!」
「えっ、どしたん?」
シスターは腰から崩れ落ち、いきなりゲボを吐いた。
人の顔見てゲボ吐くとか失礼じゃない? と思ったら、メイド服のバエルがクククと笑う。
「おい、何やったんだ」
「余は何もしておらん、己との格の違いを理解したのだろう」
「んなバカな」
だが、ティターニアの方もバエルを見てガクガクと足を震わせている。
「おい、貴様! なぜそんな化け物を連れている!?」
「化け物?」
「そ、そうだ! それは上位悪魔だろう!? いや上位悪魔ではきかない、
「なんだそのインフレファンタジー小説が好きそうな役職」
「ククク、二人共天使憑きか。ならばさぞかし余の姿は恐ろしいものに映るだろう。その希望の目が絶望にかわるともっと良い。美しき絶望の色を余に見せてみろ」
ラスボスの戦闘前会話みたいなのやめてもらっていいですかバエル様。
「ぐっ、ヴェロニカ全力でやるぞ!」
「…………神よ、我に勝利の祝福を与えよ」
ティターニアは騎士は白く、その手にはタワーシールドと金色の剣を握る。
ヴェロニカの騎士は対象的に黒で統一されており、盾を持っていないかわりに両手持ちのハンマーを持つ。
「ユーリ、ボクお化け見えるようになったっぽい」
「安心しろ俺にも見える」
「
バエルの説明になるほどと頷くが、いやいや天使召喚ってヤバい奴では? と冷静になる。二体の天使騎士は背中から光の翼を生やし、神々しさと威圧感を増す。
「行くぞ、ヴァルキリードミニオン!」
「代行を開始せよ、ヴァルキリーヴァーチェ!」
天使兵が襲いかかり、俺たちは戦闘態勢へと入る。
しかし――
「スティンガーテイル穿け」
口元を吊り上げたバエルのメイドスカートから、悪魔の尻尾が伸びる。先端が金属質で鋭利に尖っており、まるで剣と尻尾が合体しているようだ。
バエルのスティンガーテイルは猛進してくる黒騎士ヴァーチェに向かって射出され、その頑強そうな鎧を貫通し串刺しにする。
「ぐっ、がっ」
ヴァーチェがやられたと同時に、シスターが口から血を吐き膝が折れる。
どうやら天使兵と感覚がリンクしているようだ。
「貴様っ! よくもヴェロニカを!」
「プラム、ボディシールド!」
「どっこい!」
バエルの背後に回り込んだ白の天使兵に、プラムが己の身を呈してガードする。
金の剣はプラムのスライムボディを切断することは出来ず、弾力に押されて跳ね返される。
「よくやった眷属。褒美に好きな方の首をやろう」
剣を弾かれ体勢を崩した白の騎士ドミニオンはタワーシールドを構えるも、バエルのスティンガーテイルによって盾ごと串刺しにされる。
「ぐっ……なんて強さだ。やはりグランドデーモンマスタークラス……」
その役職、弱く聞こえるからやめてほしい。
胴部に穴が空いた天使兵は、力を失い透明になって消えていく。
「ドミニオンとヴァーチェで歯が立たないなんて……」
「知らんなそんなザコ天使。余の相手をしたいなら熾天使クラスを連れてこい」
アッハッハッハっとラスボス的な笑い声を上げるバエル。
やっぱバエル様強すぎでは? 普通に連れ歩いて良い魔族じゃねぇよ。
「さて、その首をへし折って眷属にプレゼントしてやらねば」
「いらんいらん。そんな悪趣味なもの渡すな」
俺は地に倒れた二人に、しゃがんで視線を合わせる。
彼女たちの息は荒く、殺気立っているのがわかる。
「殺せ」
「殺さねーよ。1号」
俺が呼ぶとスケルトンがテクテクと歩いてきて、弁当を取り出す。
「な、なんだこれは?」
「腹減ってんだろ? ステーキ弁当だ」
「悪魔使いに施しなど受け――」
ティターニアは格好良く拒もうとするも、ギュルルルルルっと凄い音が腹から響く。
「どういうつもりだ?」
「いや……君ら神聖値高そうだなって思って」
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