第51話 小さな勇気 大きな光
俺が魔力で編まれた鎖をたらすと、カルミアはカトレアの石像にメイスを構えた。
「動くな、動くと石化した奴全員をバラバラにするぞ」
「ぐっ……」
石化した人間の体が破壊されたら、術が解けた瞬間バラバラ死体のできあがりなのは言わずともわかる。
爽やかな天空果樹園には、石化したエルフェアリー族の石像が20数体。それら全てが動けぬ人質と化し、カルミアは降伏を迫る。
「それが仲間にすることかよ!」
「黙れ下等生物、貴様が来て全てが狂ったんだ! お前が余計なことをリーフィアに吹き込まなければ!」
「エルフェアリー族は半壊して、ベヘモスに隷属することになったな」
「黙れ! 救世主を気取るな!」
目を血走らせたカルミアは、今にも石像を壊さんとメイスを振り回す。
「救世主なんか気取ってねぇよ。お前の言う、一族の半分を捧げれば半分を助けてもらうってのが納得いかねぇ。エルフェアリー族を守るって言っておきながら、その半分を切り捨てるリーダーの言うことなんか間違ってるに決まってるだろうが」
「よそ者に何がわかる。族長の決定はエルフェアリー族にとって人間の法律と同じこと。それに従うのは当たり前であり、疑問をもつことすら本来許されん」
「民の意思をないがしろにして、殺されてきた王が何人もいるって知らねぇみたいだな」
俺はシャンと音をたてて剣を引き抜く。
「お前の意見が正しいなら、こいつらは俺たち人間と共に闘おうなんて気にならなかったはずだ」
石化したエルフェアリー族を見やる。
「族長の考えを理解できぬ愚か者なだけだ」
「悪党にペコペコ頭を下げてまで生に執着するくらいなら、愚者でいいだろ。こんなところで無駄に仲間割れなんかしてないで俺達と来い! そんでベヘモスをぶっ倒したら、皆に一回見捨ててすまんかったって謝ればいい!」
カルミアのメイスが僅かに揺れる。
「わかった口を……わかった口を聞くな! 族長命令に従わない奴など仲間ではない!」
カルミアが石像に向かってメイスを振りかぶる。
その瞬間リーフィアが弓を引き絞り、カルミアの腕に矢を放った。
「ぐあっ!」
矢が腕に突き刺さりメイスを落とすが、カルミアは反射的に指輪をこちらに向かって光らせた。
「やばい、隠れろ!」
「コールドストーン!」
俺たちは慌てて木の裏に逃げたが、リーフィアとバニラ、エウレカが石化光を浴びてしまう。
「くっ、あんたたちどんな犠牲を払ってもいい、カルミアを止めて!」
「モォ?」
「すみません兄上、逃げ遅れちゃいました」
リーフィアとエウレカ、バニラの体は、あっという間に薄茶色の石となってしまった。
「くそっ!」
「フハハハハハ! みんな石にな~れ! コールドストーン!」
カルミアはもうどうにでもな~れと言いたげに、指輪をチカチカと光らせる。
残った俺とプラムとホムラ、セシリアは、果樹園の木を背にどうすりゃいいんだと頭を悩ませる。
「どうするんですかどうするんですか、このままじゃ皆石にされちゃいますよ! わたしが石像化したら美少女御神体として、今後1000年崇められてしまいますよ!」
厚かましい
「ユーリ、あれどうやって倒すの?」
「あの指輪から出る光を浴びちゃダメなんだが、光の範囲は360度、ほぼ3層全域をカバーしている」
「ボクの水弾で狙撃するか? ド頭に叩き込んでわからせてやるぞ」
「ダメだ、こっちが飛び出した一瞬で、水弾を奴の頭か指輪にヒットさせないと負け。向こうは
相打ちでも負けだから、早撃ち勝負はかなり分が悪い。
今思えば、あいつが一人で仕掛けてきてるのは味方を石化させない為だな。
そう言うとプラムはフフンと勝ち誇った顔を見せる。
「ユーリとボクの必殺技、水波動弾見せるときがきたんじゃないの?」
プラムと俺のシンクロ技、水波動弾。
水マグナムを遥かに超える超威力の水圧レーザー砲で、シルバードラゴンにすら打ち勝つことが出来る必殺技だ。
相手を圧倒するパワーを持つ水波動弾だが、その反面消費魔力が多く、尚且プラムもしぼんでしまうデメリットが有る。
「ダメだ。射線上に石像が複数ある、波動弾に巻き込む可能性が高い」
「大丈夫、手足が吹っ飛んでもみんなわかってくれるよ」
「小さい犠牲みたいに言うな。石像の中には姫様も混じってるんだぞ」
「腕とかとれたらくっつけよう。むしろいろんな人のパーツ組み合わせてパーフェクト姫様作ろう」
「組み立て式フィギュアみたいに言うな。姫様の石像が一欠でもしてみろ、帝国軍が俺たちの体をバラバラにして組み換え人形にするぞ」
「じゃあどうするんだ」
「もう少しあの指輪の情報がいる」
俺は果樹園の木から、ヘチマをもぎってカルミアに投げつける。
すると奴は対象物が何かを確認しないまま指輪を光らせた。
ヘチマはそのまま地面にドサリと落ちる。
「ククク、苦し紛れにもほどがあるぞ下等生物。さっさとそこから出てこい!」
「ほーん……」
「ユーリ、なんかわかったのか?」
「見ろ、光に当たったのにヘチマは石化していない」
「ほんとだ」
「ってか、ヘチマだけじゃなくて果樹園の木とか土とかも石化しとらんよね?」
「石化する条件があるんだよ。ああいう問答無用で呪いをばらまくアイテムって、対象が生物じゃないとダメとか、わりかし発動条件がある」
「強力ではあるけど結局は呪いやから、呪いを木や土にぶつけても無意味っちゅーわけ?」
「そゆこと。セシリア、バジリスクの指輪って、実際のバジリスクの邪眼を指輪に移植したものなのか?」
「そう聞いてますけど」
「なるほどな。なら普通の邪眼と発動条件は同じか」
もう少し指輪について調べたいところではあるが。
「出てこい臆病者共! 出てこなければ石像を一つ一つ砕いて回るぞ!」
「反則アイテム使っておいて臆病者とかよく言ったなあいつ」
木陰から覗き見るカルミアの目は血走っており、ありゃ本当に仲間の石像だろうが俺を倒すためなら粉砕するぞ。
「しゃぁねぇ、後は自分で確かめるか。お前らはそこで待ってろ」
俺は木の陰から出ると、無防備に体を晒す。
「フハハハ、とうとう観念したようだな。貴様が石化した後は、わたしが責任をもって粉々にしてくれる。コールドストーン!」
カルミアがピカッと指輪を光らせるが、俺の体に変化はなかった。
「なっ!? 不発だと? コールドストーン!」
ピカピカと指輪を光らせるが、やはり俺の体は石化しない。
「なんでなん!? もしかして指輪壊れたんか!?」
驚くホムラにプラムは「違う」と気づく。
「ユーリ、目開いてない」
そう、賭けではあった。邪眼というのは相手と瞳を合わせることで発動する物が多い。逆を言うと、
よって目を閉じていれば、石化の呪いは発動しないと踏んだのだ。
「ざまぁみろ、石化しなかったらお前なんか怖くねぇよ!」
「フン、その程度で勝ち誇るな下等生物。目を閉じたまま、貴様はどうやって私に攻撃するつもりだ?」
目を閉じた暗闇の中、剣を抜く音と共にカルミアの足音が近づいてくる。
「目を開ければ石化し、開けなければわたしに斬り殺される。好きな死に方を選べ」
ザッザッと不用意に近づいてくるカルミア。
「死ね!」
俺は目を閉じた暗闇の中、正確に首を狙った剣先をかわす。
盛大に空振りして、尻もちをついた音がした。
「なっ!? まぐれは続かんぞ!」
奴は慌てて立ち上がると、ヒュンヒュンと風切り音をたてて剣を振り回す。俺はその全てをギリギリで回避していく。
「どうなっている!? なぜ当たらん!?」
「悪いな、俺は東流剣術奥義 心眼が使えるんだよ」
「心眼だと!?」
「左様、貴様のような邪悪な剣は気配で太刀筋が読める」
木陰にてプラムとホムラがひそひそと話す。
「ホムホムそんな必殺技あるの?」
「なくはないけど、一朝一夕で習得できるもんちゃうで」
「ならユーリがまた適当言ってるだけか」
その通りである。
当然この(偽)心眼にはタネがある。
実はそのタネは後ろから見ると丸わかりで、俺の後頭部にセシリアが張り付きカルミアの攻撃位置を俺に教えているのだ。
それに気づかず、奴は上段中段下段、突きと様々な方向から殺意をこめて剣を振るう。
「ハァハァハァハァ、なぜ当たらん 。くそ、お前本当は目を開けてるな!?」
当然の疑いで、カルミアは指輪を再度光らせてみる。
しかし俺は石化しない。当たり前だ、本当に目を閉じているのだから。
「甘い、我が心眼暗剣殺は本物。貴様の腑抜けた刃では俺に触れることはできん」
「黙れ!!」
「段々ユーリのペースになってきたね」
「あいつ人おちょくる才能高いしな。ってか、一瞬逃げ遅れてるから、実は不利なんこっちやろ」
ホムラの予想通り、こっちはどうしてもセシリアに聞いてから避ける為、回避にラグがあるのと、オーバーに避けないといけないのとでかなり不利である。
状況は以前カルミア有利のはずなのだが、なぜ当たらないかわからないという精神的疲れからか、奴の顔から余裕は消えており、気づけば肩で息をしている。
「ぐぐぐ……フッ」
(メイスに持ち替えました。急に悪い顔してます。なにか仕掛けてくるかもしれません)
セシリアが俺に耳打ちする。振りの遅いメイスに持ち替えたというのは、彼女の言う通りなにか仕掛けてくる気だろう。
「これでも避けられるか下等生物!!」
(右斜め2メイル前! 石像を狙ってます!)
「!!」
ゴッと嫌な音が鳴った。
奴は俺ではなく石像を粉砕しようと、メイスを大上段から振りおろしたのだ。
それに割って入った為、俺は肩に重い一撃を受けてしまった。
「ぐっ……」
まずい、鎖骨
激痛に顔が歪む。
「フフフ、正義の味方は大変だな。石像を見捨てれば、わたしを殺せるかもしれんぞ?」
「冗談よせ。お前と一緒にすんな」
「ならそこで殴られていろ」
俺は避けることを許されず、メイスで滅多打ちをくらう。
金属塊でぶん殴られる度に、皮膚が引き裂け、体中の骨がメキメキと嫌な音をたてる。
「フハハハ、よくも私を散々愚弄してくれたな。そんな簡単には殺さんぞ!!」
カルミアは狂喜の叫びをあげながら、こめかみや肋骨、大腿など痛みの強い部位を狙ってメイスを振り下ろす。
5分もすれば肩、膝、腕の感覚はなくなり、前のめりに倒れそうになっていた。
「ほーら、今度はこっちの石像を壊すぞ!」
「クソが!」
俺は震える脚を動かして無理やり石像の間に割って入り、脇腹に重い一撃を喰らう。
「アハハハハハ、勝手に当たりにきてくれて痛快だ! 貴様は相当なマゾなようだな!」
「くたばれクソエルフ」
俺はペッと血を吐き捨てる。
その光景を木陰から見守るプラムとホムラ。
「殺す殺す殺す殺す殺す」
「プラムちゃんおさえて。あいつ殴ってるように見えて、めちゃくちゃこっち警戒しとる。出ていったら石にされて終わりやで」
その通りだ
「セシリア……そろそろ
俺の後頭部に張り付いたままのセシリアは、俺が殴られる度に(ひう、えぐ)っと悲鳴を上げ泣きそうになっていた。
(もう一つくらい石像見捨てましょうよ。そうしたらその隙をついてプラムさんたちと……)
「セシリア、俺は今からあいつに抱きついた状態で石化する。奴が俺の石像を砕く前にプラムたちと連携して奴を倒せ」
(無理ですよ。少しでも遅れたらあなたの首が砕かれてしまいます)
「プラムなら俺の意図に絶対気づく」
(なんでそんな無茶なことばっかり考えつくんですか)
「全員救うと決めたなら、ある程度の無茶は通さんとならん」
ビクビクしているセシリアを諭し、俺は歯を食いしばって血まみれの目を見開く。
「フフ、とうとう痛みに耐えきれず目を開いたか下等生物。今石にしてくれる」
カルミアが指輪をかざす。
来やがれ、石化する数秒でテメェを取り押さえてやる。
しかし、その瞬間。
「ダメーーーー!!」
俺の後頭部からセシリアが飛び出し、両手両腕をピンと伸ばし大の字で抵抗してみせる。
「おやおや、これは姫様。あなたが心眼の正体ですか」
「これ以上ユーリさんをいじめないで!」
「姫様もその下等生物に肩入れしますか……。涙目になっていますよ臆病姫」
クククとカルミアが笑う。
「鎖下さい!」
俺は即座にセシリアに鎖を繋ぐ。
「なにを……」
「あなたのこと嫌いです! 怖い人大嫌いです! でも、このままユーリさんをやらせません!」
「貴様に何ができ……」
「邪悪よ消えなさい!!」
俺の魔力を得たセシリアは、両手をピースにしておでこに当てると全身から眩い光を放つ。
彼女の唯一の切り札、吸収した陽の光を放出するフラッシュは、指輪の光なんて目じゃないほどの閃光を放つ。
一面を真っ白に染めあげる光がおさまると、至近距離で光を浴びたカルミアは両目を押さえながら悶絶していた。
「ぐあっ、目が、目がっ!! 卑怯者め!!」
「テメェにだけは言われたくねぇよ!!」
俺は怯んだカルミアの顎に、アッパーを叩き込む。
更に追撃で一歩踏み込む。
「くたばれ!」
「がっ! 調子に乗るな! 石になれコールドストーン!」
カルミアは目をおさえたまま、指輪をこちらにかざす。
しかしそこに阿吽の呼吸で、目を閉じたプラムが割って入る。
「プラム、水鏡!」
かっこいい名前をつけているが、プラムの体が鏡のように周囲の光景を反射するだけの技。
キラッと光るプラムの体に映ったのは、邪眼の指輪とカルミアの全身像。
「しまっ!?」
目を開けてしまったカルミアは、邪眼の呪いがプラムの水鏡ボディに反射し、網膜から体内に侵入する。
カルミアの体は、ピシピシと音を立てて石像化していく。
「ぐが……なぜだ、なぜ私はお前に勝てない……。私の選んだ道はそんなにも間違っていたというのか? 教えてくれ……父さん……何が間違いだったのか……」
そう残し、カルミアの体は完全に石化した。
「お前の敗因は、立ち上がろうとする仲間の勇気を信じられなかったことだ」
―――――――
すみません、体調不良で更新遅れております。
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