ユーリ&プラム ~魔大陸爆乳ファーム建設記~

ありんす

第1章 爆乳禁止法違反者

第1話 罪スライム

 バトルモンスター、ヴァーミリオン杯決勝戦――


 大神殿闘技場には3万人を超す観客が熱狂する中、モンスターとマスターが人魔一体となって戦いを繰り広げていた。


「シルバードラゴン、銀色の息!」

「プラム、水マグナム!」


 激戦を勝ち抜いてきた魔物同士の戦いは激しく、リング内に銀色の風と水圧砲がぶつかりあう。

 モンスターの後ろで魔物使いが敵の攻撃を読み合いながら、次々に指示を飛ばしていく。


「決めるわシルバードラゴン、オーバーフォトンレイ!!」

「プラム、全力でいけ! 水波動弾!!」


 鋼の翼を広げた銀龍が放つ極光のレーザーと、水の極太ビームがぶつかり合い、闘技場内に落雷にも似た激しいスパークが巻き起こる。

 光の収束とともに闘技場内に一陣の風が吹き抜ける。相殺かと思われたが、ズンと音を立ててリング上に崩れ落ちる銀色のドラゴン。

 それを見て、リング外に退避していた審判が腕を掲げる。


「アンジェ選手のシルバードラゴンダウン! 勝者、ユーリ&プラムペア!!」


 一ヶ月をかけて行われたバトルモンスタートーナメントリーグの幕は、今まさに降りた。

 モンスターの中で最上位種たるドラゴンを打ち負かしたのは、愛嬌すら感じる一匹のスライム。その名をプラム。

 シルバードラゴンのマスターはパチパチと激戦を制したスライムと、そのマスターに拍手を送る。


「負けたわ。あなたがチャンピオンよ」



「第18回ヴァーミリオンカップ、栄えある優勝に輝いたのは、ユーリ・ルークスとクイーンスライムのプラム! 彼らにはバトルマスターの称号が与えられます!」


 大神殿コロシアムに巻き起こる喝采と拍手の渦。俺と相棒のプラムは激戦を制し、トーナメントの頂点をとったのだった。

 プラムはスライム特有のまるっこい軟体ボディに、ぷにぷにの角が二本頭から伸び、深淵を見つめる真っ黒な瞳、常に半月状に開きっぱなしの愛嬌ある口で、観客を魅了しつつリングを跳ねまわる。


 年に一度、大陸最強の魔物使いを決定するバトルモンスター、トーナメントリーグ。マスターはモンスターを使役し、相手モンスターと戦わせ頂点を決める。

 優勝者には最強の魔獣使いの証、バトルマスターの栄冠が得られる。

 魔物マスターたちはこの栄誉を得るために、相棒と共に牙を磨き、戦って戦って戦い抜いて最強を目指し覇を競い合う。

 決勝リーグは、記録魔水晶レコードスフィアによって録画され、酒場や広場に設置された魔道映像出力装置マジックトランスヴィジョン(MTV)にて中継放送される。

 国民はその凄まじい戦いに興奮し、魔物使いはアイドルに近い人気を誇っていた。


「見事チャンピオンに輝いたユーリ選手には、ヴァーミリオン帝国ビーストマスター代表権と、ヴァーミリオン帝国第一皇女、エウレカ・リーン・ペペルニッチ姫よりトロフィーが授与されます!」


 俺たちは美しいプラチナの髪にブルーのドレスを纏った姫から、スライムを象った金のトロフィーを受け取る。

 自分より頭一つ分背の低い美しい姫は、屈託のない笑みを浮かべ、賛辞の言葉をくれる。


「ユーリさん、ヴァーミリオンリーグ優勝おめでとうございます。こういうと怒られてしまうかもしれませんが、ずっと応援していました」

「ありがとうございます」

「あなたのような若く力のある方がいらっしゃると、我が帝国も安泰です。とても格好良く……」


 姫は一瞬俺を頭から爪先まで見ると、ゴホンと咳払いする。


「安心感のある男性だと思います」


 そこ言い直さなくても良くない? かっこ悪い男を頑張って褒めようとしてるみたいで逆に傷つく。


「失礼ですが、今おいくつですか?」

「今年22なんで、そんなに若くもないです」

「いえいえ十分お若いですよ。あっ、すみません年下から若いって言われると変ですよね」

「いえ」


 わたわたと手をふるエウレカ姫。小動物系で可愛らしく、まだ遊びたい盛りなのに公務も真面目にこなす、ヴァーミリオン帝国でも有名な愛され系姫。確か先月16の誕生日を迎えたとか新聞で見たな。

 母親が氷の国アイシス出身らしく、氷細工のように端正な顔立ちをしており、正直姫という肩書がなければ結婚を申し込みたい。


「わたくしもユーリさんを見習い、モンスターマスターを目指しているんです。機会があれば、ご指導をお願いします」

「恐縮です」


 さすがにこれはリップサービスだと思うが、ちゃんとバトルリーグのことを勉強しているので、「わたし~前々からモンスター大好きなんですよぉ」とか言い出して、スライムの名前すら言えない、にわかアイドル貴族よりよっぽど好感度が高い。やはり結婚したい。


「恐らくヴァーミリオンカップはあなたとプラムさんにとってはただの通過点でしょう。しかしこの大会であなた達は一国の代表となりました。それは誰に誇っても恥ずかしくない功績だと思います。次の世界大会、わたくしも一視聴者として期待しています」

「ありがとうございます」

「ヴァーミリオン帝国は、近隣諸国より世界最強の国と呼ばれています。その肩書に似合うご活躍をしていただけると嬉しく思います」

「精進いたします」


 俺が頭を下げると、プラムも慌てて目を下げる。姫様ははにかんで後ろの観客席を指す。


「プレッシャーをかけてすみません。どうかファンに応えてあげてください」


 振り返ってトロフィーを掲げてみせると、観客席から割れんばかりの歓声がわき上がった。


「うぉぉぉ! ユーリ最強! プラム最強!!」

「チャンプ! チャンプ! チャンプ!!」

「世界一とってくれ!!」

「新たなチャンプを祝して、今日はユーリ、プラム祭りだ!!」


◇◆◇


 俺たちは新聞社、MTV関係の勝利インタビュー全てをスルーして闘技場から抜け出すと、夜に紛れるように暗闇を選んで移動していた。

 本来なら街人から祝福を受け、どこにいっても大喝采、店の酒全部持ってこいと豪遊していてもおかしくない。

 しかし俺の格好は旅人のローブに荒くれ者のマスク、プラムをブレットバスケットパンかごに隠し、街一番の安宿ラブホテルに移動する。

 ボロい木看板にハートの絵が描かれた宿に入ると、太った店主が「なんで祭時に働かなきゃいけないんだ」と、不機嫌さを隠さず受付に座っていた。


「一部屋、一晩」

「あいよ、250Bだ」


 俺は荒くれ者のマスクを外しながら代金を支払うと、店主は「ん?」と声を上げる。


「……あれ? あんたもしかしてチャンプじゃ?」

「違う」

「いや、違わないだろ! その黒髪、猫背で淀んだ瞳! ゾンビと間違われてエクソシストに退治されかけたって噂のチャンプじゃないか!」


 街を歩いていたら、いきなり見知らぬ僧侶から聖水をかけられたことがあるのは事実である。


「冗談だよ、そのバスケットにほら」


 店主が指さした先に、プラムと一緒に入れたトロフィーがはみ出していた。


「決勝戦見てたぜ、ファンなんだよ。サインしてくれ旦那」

「人違いだ。やる」


 俺はトロフィーをカウンターにことりと置く。


「え、えぇ!? こんな凄いもの貰えませんて! ってかトロフィーに思いっきりユーリ&プラム二人は最強! って刻印されてるじゃないですか!」


 今見るとダサい刻印だな。


「かさばるからいらん。いいから早くしてくれ。人が待ってる」


 そう言うと、店主は何を勘違いしたのか「はは~ん」と頷き、ニヤケ顔で小指を立てた。


「旦那……女、ですかい?」

「……そんなものだ」

「なるほどなるほど、チャンピオンも大変だ。女に会うのに、こんなとこまで来なきゃいけないなんて人気者も苦労しますね」

「チャンプじゃない」

「いいんですいいんです。こっちは全てわかってますから。野暮なこと聞いてすいません。あたしゃ”昨夜はお楽しみでしたね”って言うのが生きがいでね。チャンピオンにそんなことを言える日が来るなんて思ってませんでしたよ」


 なんて趣味の悪いオヤジだ。

 完全に勘違いしているのだが、誤解をとくのも面倒なのでそのままにしていると、店主が鍵と一緒にアイテムを取り出す。


「これはあっしからのささやかな優勝プレゼントです。使ってください」

「なんだこれ?」

「きっと必要になります」


 店主から差し出されたのは、女殺しと書かれた電動ヒノキの棒だった。


「あっしがカミさんに使ってたやつです」

「聞きたくないわ!」


 伝説の武器みたいに変なもの渡してこないでほしい。

 いらんと言ったが、無理やり持たされてしまいそのまま部屋へと向かう。

 宿の階段を上がっている途中、ブレットバスケットがゴソゴソと揺れる。


「ぐる……じぃ」

「我慢しろ。もう少しだ」


 今日は魔力を使い果たしたからな。

 机と椅子、簡易シャワー、それとベッドしか調度品がない簡素なラブホ部屋に入って、鍵をかけてからバスケットをベッドの上に置く。

 するとプラムが飛び出してきた。

 水餅に目と口を落書きで描いたようなスライムは、ぐにゅぐにゅと体を変形させると女性の上半身を形作った。


「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「毎度変身の声が怖いよ」


 怨霊のような声を聞きながらしばらく待つと、人型の下半身が生成され、スケスケだった体に色がつく。

 長い髪にくるんと巻いた羊角が側頭部から伸びる。顔は生意気そうなメスガキっぽい釣り目。肌は青白く、腰からはコウモリの羽がはためく。

 顔はまだ幼さが残るが、体はフィジカルの暴力と言うべきか、かなり起伏が激しい。特にその胸の大きさは、男なら誰もが二度見してしまうレベルだ。

 全裸状態から、夢魔サキュバスが身に着けるようなレオタード型の衣服が浮かび上がり体を覆う。

 あっという間に先ほどまで水餅の化け物だったのが、今ではムチムチボインな夢魔少女に変身したのだった。

 これがプラムの真の姿で、水餅スライム形態は世を忍ぶ仮の姿である。


「ぶはっ、はぁはぁはぁはぁきつかった」

「ご苦労さん」

「もう嫌だ、こんな逃亡生活みたいなの!」

「諦めろ。この国でお前は罪人……罪スライムだからな」

「ふざけんなボケー! あの口角維持すんのどれだけ大変だと思ってんだ。目とかめっちゃ乾くんだぞ!!」


 枕を放り投げてくるプラム。やめろ暴れるな、店主に誤解されるだろ。

 プラムはクソがとぼやきつつ、自分の胸部を恨めしそうに触れる。


「こんなもんがあるせいで」

「胸のせいじゃない。国のせいだ」


 俺はデスクに置かれた新聞を見やる。そこには毎日のように書かれている記事があった。


【爆乳禁止法違反で国外追放措置】


 そう……この国で爆乳は罪なのである。




―――――――――

お久しぶりです、また真面目にバカバカしい話を書こうと思います。

作品の雰囲気的にはガチャ姫の親戚、ダ○ソとブ○ボ、テイ○ズシリーズみたいに、直接繋がりはないけど繋がってるみたいなものにしようかと思っております。

よろしくおねがいします。

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