しろねこしろさん

古狸杢兵衛

第1話

 お母さんと女の子が手をつないで散歩をしていました。小声で歌いながら歩いています。大きな公園を通ります。お気に入りの公園です。花壇や鯉のいる池があります。

 と、女の子がお母さんの手をぎゅっと握って立ち止りました。

 どうしたの?と尋ねると、女の子が指差しました。

 白い猫がいました。

 あら、猫さんだね、とお母さん。ふたりは少し離れたところから猫を見ていました。猫は気にする様子もなく、無心に毛づくろいをしていました。

 その日の夜、女の子はお父さんに猫の話をしました。お父さんは子供のころに飼っていた猫のことをちょっと思い出しました。


 二度目に公園で猫に会った時、女の子は前より少し猫に近づきました。

 白い猫だったので、白さんという名前をつけました。

 白さん、またね、と手を振ると、猫はひげを少し動かしました。

 

 その次の次の、そのまた次に会った時、女の子はそっと猫を撫でました。猫は女の子の手をクンクンすると、ざらざらの舌で舐めました。


 嵐が来ました。雨がたくさん降って、強い風も吹き荒れました。女の子は窓から暗い空を見上げていました。


 嵐が去った後で、お母さんと女の子は公園に行きました。けれども猫の姿はありませんでした。

 きっと大丈夫よ、とお母さんが言いました。女の子はコクリと頷きました。

 ぼく、知ってるよ、と自転車に乗った男の子がふたりに声をかけました。

 この辺にいた白い猫でしょ?ぼく、どこにいるか知ってるよ。

 ついてきて、と言うと男の子は自転車を押して歩き始めました。女の子はおかあさんの手を引いて、ついて行きました。

 藪の中の細い路を行くとお墓がたくさんあるところに着きました。

 男の子がしー、と口に指を当てながら物陰を指差しました。

 白さんが子猫たちと一緒に寝ていました。

 お母さんは、女の子と男の子の肩にそっと手を乗せました。よかったね、と囁くと来た路をそっと戻って行きました。

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しろねこしろさん 古狸杢兵衛 @1735

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