転生聖女は、刹那を生きる

干ししいたけ

プロローグ


 戦争は終結した。

 魔王アストラルが討たれたことで、十数年にも及ぶ魔族と人間の戦争が終わりを迎えた。最後の時にあたしは何をしていたのだろうか……

 たしか、勇者の後ろでひたすらに回復呪文を唱えていたんだっけ……。魔王と勇者が泣きながら殴り合っているのにドン引きしてたんだっけ……。もう忘れたし、どうでもいいことだ……。


 あたしこと、ブロスティ・リーゼルフォンドは貴族の血筋を引いてはいない。孤児に生まれ、偶然に魔術的資質を見初められて勇者と旅をして、勇者が勝手に名前と性を与えただけだ。結婚しようと、求婚をするあいつを、あたしは蹴り飛ばしたこともあった。今はそれが懐かしくも感じる。



 もう一度言う。戦争は終結した。

 だからと言って、戦争によりマナが汚染された土地はなくならない。だというのであれば、できることはただ一つ。あたしは確かに聖女と呼ばれはしたが、浄化も出来なければ、態度も慎ましいとは自分でも言えない。でも、これだけは言える。


 もう一度、この土地に住む人を迎え入れたい。戦乱が起こる前の姿に戻したい。そして、人々の幸せを取り戻したい。



 その一心で、あたしは一人、旅をつづけた。

 戦術担当の男は勝手に引き籠るわ。勇者は王都で暴れるわ。あと、神竜様は一人で眠りにつくわで、だれも動こうとはしない。だから、あたしが動いた。

 各地をボロボロのローブと、使い慣れた魔術杖で歩き回り、村のあった場所に結界を張り、モンスターと闘う術を教え続けた。そうして、少しずつ西へ西へと進み、山を越えて、一番酷い場所へと辿り着く。そこでも、やることは変わらず、結界を張り、土地に人と作物を根付かせた。

 旅をするうちに、賛同者も増え、戦乱の爪痕がわずかに残るように消え去った頃、私は定住を始めた。西側は未だに汚染されたマナが多いため、ここでしばらくは暮らさなくてはならない。そう思いつつ、あたしは賛同者に村の運営を任せ、小さなボロボロの教会のシスターとなった。


 子供たちに勉学と生きる術を教え、時には歌を歌った。生まれてから30年近くなるころには、村は街へと変わっていた。聖女の噂は辺境の教会には届かなくなったが、今でもあたしの教えは届いており、皆、必死で生きようとしていた。

 そんなある日、あたしの元にかつての旅仲間がやって来た。少しだけ老けた彼は、この街の当主を務めてくれている。

 え?あたしはやらないのかって?


 ムリムリ。そんな柄じゃないし、誰かに頭を下げられるとか超ごめんだ……。だってあたしは、孤児の生まれだぞ。確かに勇者からいろんな知識は授かったけど、それはそれ、これはこれだ。


 さて、話を戻して、訪ねてきた旅仲間だけど、彼は街の近くに出始めた盗賊の討伐を依頼してきた。お安い御用だと、かつての武器を手に取り、夜更けに出向いたのだけれど、これが間違いだったのかもしれない、とあたしは思う。



 気付いたときには、崖から突き落とされて、高レベルのモンスターに襲われていた。それでも、なんとか生き延びて子供たちの元に帰ろうと、必死で戦い、魔力が付きかけても、手足が千切れても闘い続け、それから……



 よく憶えてはいない—————



 痛かったことと辛かったことは憶えているのだけれど、そこから先の記憶がない。あの協会にたどり着けたのかもわからない。あたしはあれからどうなったんだろうか……。

 できることなら、もう一度……アイツに……

 いや、それよりも先に、あたしを崖下に突き飛ばした奴を一発殴ってやりたい……



 あぁ、なんとも虚しい人生だ——————

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